抄録
気管支原性嚢胞は,発生学的に原始前腸から由来する先天性嚢胞であるが,食道壁内に発生することは稀である.今回,われわれは腹部食道壁内に発生した気管支原性嚢胞の1例を経験したので報告する.症例は60歳,男性で,主訴は嚥下障害であった.食道胃透視で食道胃接合部にsmoothな狭窄像あり,超音波検査, CT検査, MRIにて腹部食道前方に腫瘤を指摘された.上腹部正中切開にて開腹し,腹部食道右側より突出している腫瘤を摘出した.表面平滑で灰白色を呈し,大きさは5.5×5.0×4.0cmで63gであった.割面にて嚢胞壁は薄いが硬く弾力性を有し,褐色のやや粘稠な液を含んでいた.組織学的所見として嚢胞内面は線毛円柱上皮で被覆されており,嚢胞壁には軟骨,弾力繊維,混合腺を認め,気管支原性嚢胞と診断された.軟骨を認めた傍食道型気管支原性嚢胞は,本邦の文献上では自験例を含めて15例のみである.