1993 年 54 巻 8 号 p. 2120-2124
消化器癌の中でも小腸癌は発生頻度が比較的低く,また早期発見,早期診断される症例が少ないため予後不良の疾患の一つである.症例は59歳の男性で悪心,嘔吐で発症した.腹部単純X線写真にて上部空腸の閉塞が疑われたため経口的小腸造影を行った,その結果,トライツ靱帯より約25cm肛門側の空腸に腫瘍性狭窄がみられ,小腸腫瘍の診断で開腹手術を行った.空腸に直径約5cm大の腫瘤を認め,小腸間膜に腫脹したリンパ節を認めたためリンパ節郭清を伴う空腸切除術を施行した.腫瘍は肉眼的に限局潰瘍型で腸管のほぼ全周を占め,病理組織学的には中分化型の腺癌であった.原発性小腸癌にはCEAを産生するものがあるといわれているが,本症例では術前CEA高値を示し,酵素抗体法によるCEA染色で陽性の結果を得た.本症例を経験し,腹部の不定症状があり従来の上部及び下部消化管検査で異常を認めない場合,小腸癌の存在を念頭におき検査を進める必要があると考えられた.