1994 年 55 巻 10 号 p. 2526-2531
症例は59歳,女性.右乳房腫瘤を主訴として来院した.初診時触診, MMG, USの所見から皮下の良性腫瘍と診断されたが,経過観察中に皮膚の発赤,癖痛,腫瘤の急速増大を認めたため,悪性腫瘍が疑われ入院となった.入院後,穿刺吸引細胞診で悪性リンパ腫と診断し, VEPA療法1クール終了後,胸筋温存拡大乳房切除術を施行した.摘出腫瘤の組織所見はLSG分類上びまん性リンパ腫,混合型, B細胞性リンパ腫であった.術後CHOP療法を11クール施行し,術後1年6カ月を経過した現在も再発なく健在である.
乳房原発悪性リンパ腫は比較的まれな疾患で,本邦文献上確認できたのは153例であった.本疾患の発生母地は未だ不明であるが,本症例の場合はリンパ球浸潤巣であると考えられた.本疾患は50歳代に好発し(平均年齢49.5歳),また両側発生例は乳癌に比べ多く11.4%であった.本疾患の術前診断には組織学的検討が必要であり,治療は手術+化学療法が主流になっているが,予後は乳癌に比べはるかに不良であった.