抄録
本稿では、自然資源管理に関する市民参加論の国内研究について整理を行い、1980年代の自然保護運動と森林ボランティアを契機とした議論が、①アメリカで発祥したエコシステムマネジメントの導入、②コモンズ論における「共同性」と「公共性」の接合、③市民参加の法制度化への対応という3つの経路から2000年代にガバナンス論に到達したことを示した。こうした市民参加論のガバナンス論化と呼べる状況の一方で、2010年代以降は一連の研究を先導してきた柿澤・井上の議論に停滞が見られているが、その理由は市民参加を取り巻く社会状況の変化に伴い、研究上の到達点が見えにくくなっている点にある。今後、1990年代から論じられていた「限界」を乗り越え、地域に根ざした実効性の高い市民参加を実現していくためには、政策科学としての視点を保持しながら研究を行うとともに、研究者自身が実践の場に深く参与していく必要があると考えられる。