2015 年 27 巻 3 号 p. 17-27
本稿では,「私がない」ことを訴える20代前半の女性の心理療法過程を報告する。クライエントは思春期に生じた自己像の揺らぎをきっかけに摂食障害や希死念慮を抱えてきた。面接当初,彼女は出来事の次元としては整った物語を語ったが,そこには彼女自身の内的リアリティが欠けていた。セッションのなかで彼女は“自分が空っぽ”“自分が分からない”と感じていることが明らかになる。彼女の心理学的テーマはどのように自分自身に出会うかという自己関係の問題であったと思われる。本論文では8つの夢を通して,彼女の〈私〉という自己感がどのような状態にあって,どのように変化していったのかを検討する。