2021 年 33 巻 3 号 p. 17-28
Jungは「裏の世界」を生きた二人の女性を取り上げているが,本論では,「裏の世界」と濃密に関わりながらも独特の経過をたどった事例を取り上げる。現実から距離を置いていた彼女は,他者を物質のように感じ取っていた。しかし彼女の夢の中では,他者が自律性を獲得していく。それによって彼女は生々しい動物性や死と触れるようになり,高みから地上へと降り立ち,夢の中でリアリティを取り戻していく。それと並行するように,彼女は現実においてもリアリティを取り戻す。崩壊寸前だった実家との関係ももう一度結び直し,さらには結婚して出産に至る。ここでは,彼女の現実の世界と夢の世界との関係を見ていくことで,この二つの世界の相互作用を検討したい。