2023 年 35 巻 3 号 p. 53-63
本稿では,気分の波の変調を訴えて来室した男子学生の描画を媒介にした心理療法過程を報告する。面接開始時,クライエントは支配的な母親と怖い対象としての父親イメージの前に,身動きできない状態であった。度重なるキャンセルや中断を挟みながらも,面接場面を守り維持していくことが,彼にとって自分の安心できる空間を創り出し,自らを守る体験となった。その過程で描かれた風景構成法では,様々な水の流れが描かれ変化した。それは,彼が「気分の波」という水の流れを治めていくプロセスと考えられた。