2015 Volume 57 Issue 6 Pages 297-305
目的:全国の企業を対象に,事業場の産業看護職の有無と健康づくり活動の実施との関連について,企業の規模や健康づくりの方針も考慮した上で明らかにすることを目的とした.方法:東京証券取引所の上場企業のうち,従業員数50名以上の3,266社を対象とした.郵送法による質問紙調査を行い,回答者には担当する事業場についての回答を求めた.目的変数を種類別健康づくり活動(栄養,運動,睡眠,メンタルヘルス,禁煙,飲酒,歯科)の実施,説明変数を産業看護職の有無,調整変数を業種,企業の従業員数,健康づくりの推進に関する会社方針の存在,産業医の有無としたロジスティック回帰分析を行った.結果:対象のうち415社から回収した(回収率12.7%).産業看護職がいる事業場は172社(41.4%)であった.健康づくり活動の実施は,メンタルヘルス295社(71.1%),禁煙133社(32.0%),運動99社(23.9%),栄養75社(18.1%),歯科49社(11.8%),睡眠39社(9.4%),飲酒26社(6.3%)の順で多かった.産業看護職がいない事業場を基準とした場合,産業看護職がいる事業場における健康づくり活動実施のオッズ比は,メンタルヘルス2.43(95%信頼区間: 1.32–4.48),禁煙3.70(2.14–6.38),運動4.98(2.65–9.35),栄養8.34(3.86–18.03),歯科4.25(1.87–9.62),飲酒8.96(2.24–35.92)で,睡眠を除きいずれも有意であった.従業員数が499名以下と500名以上の事業場で層化し,同様の解析を行った結果,いずれの事業場においても,禁煙,運動,栄養に関する健康づくり活動実施のオッズ比は有意に高かった.しかし,メンタルヘルスと歯科については,499名以下の事業場のみ実施のオッズ比が有意に高かった.結論:全国の上場企業の事業場において,企業の規模や健康づくりの方針を考慮した上でも,産業看護職がいる事業場はいない事業場と比較して栄養,運動,メンタルヘルス,禁煙,飲酒,歯科の健康づくり活動を実施していた.健康づくり活動の実施には,事業場の産業看護職の存在が関連していることが示唆された.
職域における健康づくりは,労働者の安全や健康を確保するためだけでなく,「健康経営」という従業員の健康を経営資源としてとらえる経営の視点においても注目されている1).「21世紀における国民健康づくり運動(健康日本21:第2次)」では,健康づくりの基本方針として食事や運動などに関する生活習慣や社会環境の改善があげられており,職域においても積極的な展開が推奨されている2).職域における健康づくりの現状は,厚生労働省が行った平成19年労働者健康状況調査によると,職場体操や体力測定のような健康づくり活動に取り組んでいる事業場は45.2%であった3).半数以上はまったく取り組めていないため,健康づくり活動を推進していくための対策が必要と考えられる.
職域における健康づくりの推進には,雇用主や従業員の主体的な参加を促すことが鍵となるため,現場の実情をとらえ,共有するニーズに基づく展開が重要であるとされている4).このような役割に最も適した人的資源の1つとして,事業場の産業看護職があげられる.事業場の産業看護職は労働者の最も近くにいる保健専門職であり,健康づくりの専門知識を活かすことができる5).また,事業場内・外の多職種とのコーディネートを得意としていること5)は,組織的に健康づくり活動を展開していく上で強みといえる.以上より,事業場に産業看護職を配置することは,職場における健康づくり活動推進の1つの手段となり得ると考えられる.
事業場の産業看護職の有無と健康づくり活動の実施との関連を検討した先行研究には,香川県での調査報告がある6).それによると,事業場に産業看護職が配置されている方が,保健指導や生活習慣などに関する健康づくり活動の実施割合が高いことが示されている.同様に,産業看護職が雇用されている事業場の方が歯科健康診断を実施しているという報告もある7).しかしながら,これらの先行研究においては,産業看護職の雇用や健康づくり活動の実施に強く関わっていると考えられる企業規模や企業の健康づくりの方針の存在が考慮されていないとともに,近年,職域でニーズが高いメンタルヘルス活動の実施8)に関しては検討されていない.さらに,前述の2つの先行研究は香川県のみの事業場を対象としていることや,20年近く前に行われた調査であることから,現在の我が国における状況を反映しているかは不明である.そこで本研究の目的は,全国の企業を対象に,事業場の産業看護職の有無と健康づくり活動の実施との関連について,企業の規模や健康づくりの方針も考慮した上で明らかにすることとした.
横断研究
2.対象会社四季報CD-ROM2013年3集夏号9)に掲載された東京証券取引所の上場企業のうち,従業員数50名以上の3,266社を対象とした.
3.調査方法2013年10月に郵送法による質問紙調査を行い,回収期限は3週間後とした.1社につき1つの質問紙を郵送した.宛先は各企業の「従業員の健康管理や健康づくりの担当者」とし,送付元および返信先は東京労災病院 勤務者予防医療センターとした.回答者には担当する事業場についての回答を求め,複数の事業場を担当している場合には最も関わりの深い1事業場とした.
4.調査項目調査項目は,事業場の健康づくり活動実施の有無,事業場の産業看護職の有無(常勤および非常勤について),属性を確認するために回答者の職種(産業看護職,産業医,人事・労務,その他),事業場の所在地(記載された都道府県をもとに地方別に分類)を尋ねた.さらに,先行研究を参考に3, 6),事業場の産業看護職の有無と健康づくり活動の実施との関連に影響すると考えられる企業の業種(国勢調査10)の産業大分類20職種の中から選択し,第1∼3次産業およびその他/欠損に分類),企業の全従業員数(100名未満,100–499名,500–999名,1,000名以上),事業場の従業員数(100名未満,100–499名,500–999名,1,000名以上),健康づくりの推進に関する会社方針の存在,産業医の有無(常勤および非常勤について)も尋ねた.
事業場の健康づくり活動の実施には,「会社として取り組んでいる従業員の健康づくりにチェックを付けてください(複数回答可)」という質問で尋ねた.その際,健康づくり活動の内容として健康日本212)を参考に,栄養,運動,睡眠,メンタルヘルス,禁煙,飲酒,歯科の7種類を扱い,それぞれに対して実施の有無の回答を求めた.健康づくりの推進に関する会社方針の存在には,「従業員の健康づくりの推進について,明文化された会社の方針がある」という質問で尋ねた.回答の選択肢は「非常に当てはまる」から「全く当てはまらない」の5択と,「わからない・該当しない」という計6つのうち1つを選ぶ形式とした.
5.統計解析目的変数に種類別健康づくり活動の実施,説明変数に産業看護職の有無,調整変数に業種,企業の従業員数,健康づくりの推進に関する会社方針の存在,産業医の有無を同時に強制投入したロジスティック回帰分析を行った.さらに,事業場の従業員数は企業の従業員数と同一である場合もあるため,同時に調整するのではなく,事業場の従業員数を解析対象の約半数で分けられる499名以下と500名以上で層化し,同様にロジスティック回帰分析を行った.この際,すべての説明変数はダミー化した.産業看護職および産業医の有無は,それぞれ常勤または非常勤がいる場合は「いる」として扱った.健康づくりの推進に関する会社方針の存在は,「わからない・該当しない」と回答した者および欠損であった者を同一のカテゴリーで扱った.それ以外の各項目で回答に欠損があった者は,できる限り多くのケースを分析対象にするため,「欠損」というカテゴリーで扱った.
6.倫理的配慮本研究は,独立行政法人労働者健康福祉機構東京労災病院の倫理委員会で承認(受付番号:25-4)を受けた.調査対象者には,調査の目的と協力の任意性,データの厳重な管理等について記載した説明書を同封し,返信をもって同意が得られたものとした.なお,回答は無記名とした.
対象のうち415社から回収し(回収率12.7%),除外することはなくすべての回答を解析に用いた.Table 1には回答者の職種と事業場の所在地と業種を示した.回答者の職種は人事・労務251社(60.5%),産業看護職93社(22.4%),産業医12社(2.9%),その他54社(13.0%),欠損5社(1.2%)であった.事業場の所在地は,関東218社(52.5%),中部84社(20.2%),関西57社(13.7%)の順で多かった.企業の業種は,多い順に製造業199社(48.0%),卸売業/小売業61社(14.7%),金融業/保険業24社(5.8%)であった.
N | % | |
---|---|---|
Total | 415 | 100.0 |
Position of respondent | ||
Human resources / Labor affairs | 251 | 60.5 |
Occupational health nurse | 93 | 22.4 |
Occupational health physician | 12 | 2.9 |
Other | 54 | 13.0 |
Missing value | 5 | 1.2 |
Region of worksite | ||
Hokkaido | 7 | 1.7 |
Tohoku | 9 | 2.2 |
Kanto | 218 | 52.5 |
Chubu | 84 | 20.2 |
Kansai | 57 | 13.7 |
Chugoku | 10 | 2.4 |
Shikoku | 4 | 1.0 |
Kyushu | 17 | 4.1 |
Missing value | 9 | 2.2 |
Type of industry | ||
Primary industries | ||
Agriculture or forestry | 0 | 0.0 |
Fisheries | 0 | 0.0 |
Secondary industries | ||
Mining, stone quarrying, or gravel quarrying | 2 | 0.5 |
Construction | 23 | 5.5 |
Production | 199 | 48.0 |
Tertiary industries | ||
Information and communications | 22 | 5.3 |
Public affairs | 0 | 0.0 |
Electricity, gas, supply, or water utilities | 3 | 0.7 |
Lodging or restaurant services | 6 | 1.4 |
Wholesale or retail | 61 | 14.7 |
Transport or post | 7 | 1.7 |
Service industry | 22 | 5.3 |
Multiservice industry | 1 | 0.2 |
Academic research, specialist, or technical services | 5 | 1.2 |
Lifestyle-related services or entertainment | 4 | 1.0 |
Finances or insurance | 24 | 5.8 |
Education or learning support | 3 | 0.7 |
Health and welfare | 6 | 1.4 |
Real estate or rental services | 7 | 1.7 |
Other or missing | ||
Other | 14 | 3.4 |
Missing value | 6 | 1.4 |
Table 2には企業の特性と事業場の産業看護職の有無を示した.産業看護職がいる事業場は172社(41.4%)であり,そのうち非常勤のみが9社,常勤のみまたは常勤と非常勤は163社であった.産業医がいる事業場は374社(90.1%)であり,そのうち非常勤のみが292社,常勤のみまたは常勤と非常勤は82社であった.産業看護職の配置割合は,企業の業種では第3次産業(29.8%)およびその他(35.0%)に比べ,第2次産業(50.9%)が最も高かった.全従業員数では少ない企業ほど配置割合が低い傾向であり,1,000名以上の企業で60.9%,500–999名で35.5%,100–499名で13.1%であった.事業場の従業員数においても従業員数が少ないほど配置割合は低く,1,000名以上の事業場は87.5%であったが, 100名未満では7.4%であった.健康づくりの推進に関する会社方針では,担当者にとって明確にされていると感じているほど配置割合が高く,「非常に当てはまる」では70.0%であったが,「全く当てはまらない」では23.8%と低かった.事業場の産業医の有無では,産業医がいる事業場(45.2%)は産業医がいない事業場(7.3%)と比べ配置割合は高かった.無回答を示す欠損が最も多かった項目は,事業場の従業員数について77社(18.6%)であった.
Worksites with an occupational health nurse |
||||
---|---|---|---|---|
Total | % | N | % (N/Total) | |
Total | 415 | 100 | 172 | 41.4 |
Type of industry | ||||
Secondary industries | 224 | 54.0 | 114 | 50.9 |
Tertiary industries | 171 | 41.2 | 51 | 29.8 |
Other/missing | 20 | 4.8 | 7 | 35.0 |
Total number of company employees | ||||
≥1,000 | 184 | 44.3 | 112 | 60.9 |
500–999 | 62 | 14.9 | 22 | 35.5 |
100–499 | 122 | 29.4 | 16 | 13.1 |
<100 | 21 | 5.1 | 3 | 14.3 |
Missing value | 26 | 6.3 | 19 | 73.1 |
Number of employees at the worksite | ||||
≥1,000 | 72 | 17.3 | 63 | 87.5 |
500–999 | 46 | 11.1 | 33 | 71.7 |
100–499 | 139 | 33.5 | 47 | 33.8 |
<100 | 81 | 19.5 | 6 | 7.4 |
Missing value | 77 | 18.6 | 23 | 29.9 |
Company has health promotion policies | ||||
Strongly disagree | 84 | 20.2 | 20 | 23.8 |
Disagree | 67 | 16.1 | 23 | 34.3 |
Neutral | 75 | 18.1 | 27 | 36.0 |
Agree | 88 | 21.1 | 43 | 48.9 |
Strongly agree | 80 | 19.3 | 56 | 70.0 |
Not sure / not applicable / missing | 21 | 5.1 | 3 | 14.3 |
Occupational health physician | ||||
Not present | 41 | 9.9 | 3 | 7.3 |
Present | 374 | 90.1 | 169 | 45.2 |
Table 3には企業の特性と各種健康づくり活動の実施を示した.健康づくり活動の実施は,メンタルヘルス295社(71.1%),禁煙133社(32.0%),運動99社(23.9%),栄養75社(18.1%),歯科49社(11.8%),睡眠39社(9.4%),飲酒26社(6.3%)の順で多かった.また,いずれの健康づくり活動においても実施割合が高かったのは,産業看護職がいる事業場,企業の業種では第3次産業よりも第2次産業,健康づくりの推進に関する会社方針があることに対し「非常に当てはまる」と回答した事業場,産業医がいる事業場であった.
Table 4には,業種,企業の従業員数,健康づくりの推進に関する会社方針の存在,産業医の有無を調整した種類別健康づくり活動の実施のオッズ比を示した.産業看護職がいない事業場を基準とした場合,産業看護職がいる事業場における活動実施のオッズ比は睡眠を除き,メンタルヘルス2.43(95%信頼区間: 1.32–4.48),禁煙3.70(2.14–6.38),運動4.98(2.65–9.35),栄養8.34(3.86–18.03),歯科4.25(1.87–9.62),飲酒8.96(2.24– 35.92)でいずれも有意であった.
さらに,事業場の従業員数で違いがないかを検討するため,従業員数が499名以下と500名以上の事業場で層化し,Table 4と同様の解析を行った結果をTable 5に示した.健康づくり活動を実施している割合では,メンタルヘルスにおいて産業看護職がいない499名以下の事業場では167社中92社(55.1%)であるのに対し,500名以上では22社中20社(90.9%)と大きな違いがみられた.いずれの事業場においても,禁煙,運動,栄養に関する健康づくり活動実施のオッズ比は,事業場に産業看護職がいる方が有意に高かった.しかし,メンタルヘルスと歯科については,499名以下の事業場における活動実施のオッズ比は産業看護職がいる方が有意に高かったものの,500名以上では有意差がみられなかった.睡眠と飲酒は,いずれにおいても有意な関連が認められなかった.
東京証券取引所の従業員数50名以上の上場企業を対象として,企業の規模や健康づくりの方針を考慮した上でも,事業場における産業看護職の有無と種類別健康づくり活動の実施に関連があるかどうかを検討した.その結果,産業看護職がいる事業場の方が,栄養,運動,メンタルヘルス,禁煙,飲酒,歯科の健康づくり活動を実施していたという結果が得られた.事業場の従業員数で層化した解析では,いずれの事業場においても,禁煙,運動,栄養に関する健康づくり活動実施のオッズ比は有意に高かった.しかし,メンタルヘルスと歯科については,499名以下の事業場のみ実施のオッズ比が有意に高かった.
香川県の企業を対象とした先行研究6)では,本研究と共通する健康づくり活動として栄養,運動,禁煙,飲酒に関する活動が扱われており,いずれも産業看護職がいる方が実施しているという結果が報告されている.また,歯科健康診断においても産業看護職がいる事業場の方が実施しているという報告もある7).本研究においては,企業の規模や健康づくりの方針を考慮した上でも先行研究の結果と同様の結果が得られ,事業場に産業看護職がいることと健康づくり活動の実施が関連するという仮説が支持されたといえる.
このような関連がみられた理由として,産業看護職に求められる専門性が関わっていると考えられる.健康づくり活動を展開するには,事業場をアセスメントし,ヘルスニーズを見極めたうえで計画を立てていくことが必要である4, 5).さらに,安全衛生や健康管理部門のトップへの働きかけや,事業場内で健康づくりを進めるための組織づくりなども重要である5).産業看護職の行う看護過程には「アセスメント→看護診断→計画→実施→評価」があり5, 11),事業場のアセスメントやヘルスニーズの把握を行う上でも,この看護過程が非常に役立つ.また,産業看護職が得意とする事業場内・外の多職種とのコーディネート5)は,活動を組織的に展開する上で欠かせない.このような産業看護職の専門性が健康づくり活動の展開で重要な役割を果たすため,健康づくり活動の実施につながっていると考えられる.
健康づくり活動実施のオッズ比の大きさは,対象となる健康づくり活動の種類によって様々であったが,これはその活動を実施する上で,産業看護職の関与が求められる程度を示している可能性がある.オッズ比が比較的高かった栄養,飲酒,運動に関する活動が実施されている理由の1つには,産業看護職が健康診断結果などの事業場全体のデータをアセスメントし,対策を講じている可能性が考えられる.このようなプロセスは保健・医療を専門としない職種による対応は困難と考えられ,産業看護職の関与が強く求められる.一方,メンタルヘルスのオッズ比は比較的低かった.「労働者の心の健康の保持増進のための指針」12)では,事業場内産業保健スタッフ等によるケア以外にも3種類のケアが示されており,栄養や運動と比べると産業看護職以外の人事・労務等の職種も関わりが求められる活動が多いからかもしれない.
事業場の従業員数(499名以下,500名以上)で層化した解析では,メンタルヘルスのオッズ比が事業場の従業員数によって大きく異なった.特に500名以上では,産業看護職がいるか否かで健康づくり活動実施のオッズ比は有意でなかった.これは,産業看護職のいない499名以下の事業場では実施割合が55.1%であるのに対し,500名以上では90.9%と高く,産業看護職のいる群,いない群ともに高率に実施されていたため,差がみられなかったと考えられる.厚生労働省が実施した平成24年労働者健康状況調査においても,従業員数が多い事業場ほど,従業員数が少ない事業場と比べてメンタルヘルスケアを実施している割合が高かった13).この割合は平成19年が全事業場の33.6%であったのに対し3),平成24年の調査では47.2%と高くなってきており13),近年,メンタルヘルスケア活動が積極的に進められているといえる.
一方,睡眠に関する健康づくり活動との関連は認められなかった.睡眠の健康づくり活動の実施割合は9.4%と,飲酒に次ぐ低さであった.睡眠についてはメンタルヘルス教育や交代勤務者教育等の中に含まれていることがあるため,睡眠に特化した活動は少ないのかもしれない.また,事業場における健康づくり活動の中でも優先順位が低い可能性もあり,関連がみられなかったのかもしれない.
本研究の結果より,事業場における健康づくり活動を推進していくための1つの方法として,事業場に産業看護職を配置することが示唆される.しかし,産業看護職の配置は産業医の配置のように法律で定められたものではないため,努力目標という位置づけでは企業規模が小さなところは配置割合が低いまま,すなわち企業規模の大小で格差が生じる可能性がある.産業看護職の配置を法制化することで,健康づくり活動の推進だけではなく,企業規模による健康格差を縮小することにも貢献できるのではないかと考えられる.
本研究の強みとして,これまでの先行研究6, 7)では検討されていなかった健康づくりの推進に関する会社方針を考慮した解析を行ったことがあげられる.健康づくりの会社方針が明確であるほど,健康づくり活動実施のオッズ比は他の要因と比較して高い値を示す傾向にあったが,それとは独立した産業看護職の配置の重要性が示唆された.
本研究における限界として5点あげられる.1点目は,研究対象とした東京証券取引所の上場企業の事業場が,日本に存在するすべての事業場を代表しているわけではないことである.2点目として,回収率が12.7%と低いことがあげられる.これらの点より,結果の一般化には注意が必要である.3点目は,健康づくり活動の実施についてのみ検討したが,その内容の詳細や効果などは不明なことである.今後は,内容や効果にも踏み込んだ研究が望まれる.4点目は,本調査は事業場の状況について担当者が回答する方式であり回答者の認識が反映されているため,回答者の職種や経験年数等により,事業場の状況について把握の程度に差がある可能性があると考えられることである.5点目は,横断研究であるため因果関係については言及できないことである.今後は縦断的な研究を行っていくことが望まれる.
全国の上場企業の事業場において,企業の規模や健康づくりの方針を考慮した上でも,産業看護職がいる事業場はいない事業場と比較して栄養,運動,メンタルヘルス,禁煙,飲酒,歯科の健康づくり活動を実施していた.健康づくり活動の実施には,事業場の産業看護職の存在が関連していることが示唆された.
謝辞:本研究は,労働保険特別会計労災勘定による調査研究費(研究代表者:川又華代),および文科省 科研費 若手B(研究代表者:甲斐裕子)を使用して行われた.記して深謝いたします.