SANGYO EISEIGAKU ZASSHI
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Associations among physical condition, life hour, and dietary intake male Japanese shift workers: physical condition and lifestyle survey of male Japanese shift workers
Tomoe FukumuraKatsushi YoshitaMasaji Tabata
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2015 Volume 57 Issue 6 Pages 286-296

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抄録

目的:本研究は,男性交代制勤務者の生活時間(勤務時刻,睡眠時刻,食事摂取時刻)と食事状況を把握し,勤務形態と食事状況が身体状況や健康課題へ及ぼす影響を明確にすることを目的に実施した.対象と方法:対象は富山県現業系事業所の男性従業員187名(18–64歳)であった.2013年4月の定期健康診断時に食生活と生活習慣,生活時間に関する自記式アンケートを実施した.対象者の勤務状況(日勤,遅出,夜勤勤務)より,日勤勤務のみの者を日勤群(107名),日勤勤務の他に遅出勤務,夜勤勤務を行っているものを交代群(80名)とした.対象者の勤務状況毎の睡眠と食事行為者率を30分単位で集計し,さらに朝,昼,夕食の欠食率と夜食の摂取率を算出した.また,勤務状況毎の摂食回数と身体状況の関連を検討した.結果:交代群の日勤時の生活時間は日勤群と似た状況であった.しかし,遅出時,夜勤時の生活時間(睡眠時刻,食事時刻)と欠食率および摂食率は大きく変動している現状が明確となった.また,交代群では勤務形態に関わらず1日3回以上食事を摂取している方が摂取していない群よりもBMIと体脂肪率は有意に低くなっていた.考察:交代制勤務者において食事の時間と機会の確保が恒常的に困難な状況にあることが示唆され,欠食を防ぎ,夜間の適切な食事摂取を支援する必要があると考えられた.

I.緒 言

現代社会のわが国において,交代制勤務は必要不可欠な勤務形態となっており,厚生労働省が5年おきに行っている労働安全衛生基本調査結果によると,深夜業に従事した労働者がいる事業所の割合は,平成12年度が23.7%,平成17年度は34.1%,平成22年度は36.0%と報告され1),交代制勤務に従事する勤労者の割合が年々増加の一途を辿っていると考えられる.交代制勤務者は日によって勤務時間が異なり,睡眠時刻や食事の摂取時刻等が常に不規則になる生活を余儀なくされるため,体内に存在する生体リズムが乱れやすい職種であると考えられる.生体リズムは季節や月,日を単位として生体の代謝や内分泌等を調節するしくみであるが2),なかでも1日24時間の日周リズムは,脳に存在する中枢時計と,末梢組織に存在する末梢時計との相互作用によって巧妙に調節されている2,3,4,5).中枢時計は毎朝の光により,末梢時計は朝食等の摂食活動により調節されるとされ3,4,5),適正な生体リズムを保つためには,睡眠や食事といった生活習慣を規則正しく送ることが重要であると考えられている.実際に,日常的に不規則な生活を行う交代制勤務者は生体リズムの乱れから,様々な疾患への罹患リスクが高くなることが報告されている.例えば,夜勤を伴う交代制勤務をしている看護師を15年間追跡した調査では5年毎の脳卒中の危険率が約4%上昇していたとの報告がある6).また,わが国における大規模疫学調査においても,昼夜の交代制勤務者では肥満者数が増加し,虚血性心疾患へのリスクが高くなることが示されている7).他にも交代制勤務者では高血圧8,9,10)や高血糖10, 11),脂質異常症10),メタボリックシンドローム12,13,14,15)等の生活習慣病への発症リスクが高くなるという数多くの報告がなされており,不規則な勤務形態に由来する不規則な生活習慣がこれらの罹患率を引き上げている要因となっていると考えられる.

しかし,現代社会において交代制勤務は避けることのできない勤務形態である.恒常的に不規則な生活を余儀なくされる勤労者において,適切な健康状態を保つための生活指針等を示すことが必要であると考えられる.しかし,勤務実態に合わせた睡眠のとり方や食生活に関する具体的な対策案はあまり示されていない現状にあり,不明な点が多く残されている.

これまで,交代制勤務者を対象とした食事栄養評価やBody Mass Index(BMI)との関連を検討した研究16,17,18,19)では,交代制勤務者と非交代制勤務者との間で主な栄養素の摂取にはあまり違いがなく,BMIとの関連もあまりはっきりしなかったと報告されている.しかし,これらの報告は勤務形態別の解析であり,食事摂取回数や生活時間をもとにした交代制勤務者の中での比較検討はなされていない.交代制勤務者の生活時間と睡眠,食習慣に関する研究は,看護師や介護士を対象とした報告がみられるが20),交代制勤務のある男性勤労者を対象とした研究はあまりない.また,勤労者の夕食時刻に着目し,生活習慣病との関連性を示した研究21)や,残業時間とBMIおよびウエスト周囲値の変化についての報告22)などはみられるが,1日3食の食事摂取時刻と勤務時間,睡眠時間を把握した上で身体状況や生活習慣病との関連性を検討したものは少ない.また,1日3食の欠食のうち,朝食欠食についての問題点を指摘する論文は数多く見られるが23,24,25),交代制勤務者の勤務状況と生活時間の乱れから発生する朝食以外の欠食について検討した論文はあまりない.

本研究は,製造業に勤務する男性勤労者を対象に,交代制勤務のある者とない者の生活時間(勤務時刻,睡眠時刻,食事摂取時刻)と欠食状況を把握し,勤務状況が睡眠や食事摂取へ及ぼす影響とその課題を明らかにすることを目的に実施した.また,交代制勤務者のうち,食事を1日3食食べている者とそうでない者を比較し,食事の摂取回数が健康状況や身体状況へ影響を与えているかについて横断的な検討を行った.

II.方 法

1. 対象者

富山県射水市にある製鉄業の事業所(1施設)に勤務する勤労者のうち,調査への同意が得られた男性190名を本研究の対象とした.対象者の勤務時間状況より,午前5時頃から午後10時頃までの勤務を日勤勤務,午前11時頃から午後11時頃までの勤務を遅出勤務,午後8時頃から午前9時頃までの勤務を夜勤勤務とし,日勤勤務のみの者を日勤群(108名),日勤勤務と遅出勤務,日勤勤務と夜勤勤務のうちのどちらか(2交代制勤務,10名),あるいはそれら全て(3交代制勤務,72名)を行っているものを交代群(82名)とした.

2. 調査方法

本調査は2013年4月24日から25日の定期健康診断時に実施した.あらかじめ,対象企業へ作成した調査票を郵送し,健診実施前に対象者へ配布,記入の上,問診票と共に持参させた.調査票は面談により記載内容,記載漏れ等を確認の上,回収した.

本調査で用いた調査票は,食生活と生活習慣,生活時間に関する自記式アンケートである.内容は,対象者の特性(年齢,家族構成),喫煙,飲酒,食生活状況であり,生活時間は普段の生活時間について,勤務形態(日勤勤務,遅出勤務,夜勤勤務)毎の各々の起床時刻,就寝時刻,食事摂取時刻,出勤時刻,退社時刻を24時間軸の中に記入するように求めた.なお,食事摂取時刻については,日勤時は朝食,昼食,夕食,夜食の4区分で食事摂取時刻を尋ねたが,これらの4区分では答えづらい遅出時と夜勤時は,何時に食事を食べるかという尋ね方で回答を得た.また,これらの食事区分とは別に間食を食べるか否かについても尋ねた.得られた生活時間のデータは吉崎らの報告20)を参考に30分単位で集計し,睡眠と食事(朝食,昼食,夕食,夜食)については,該当の行為を行った者の人数が対象者全体に占める割合を30分ごとに算出した.また本研究における朝食,昼食,夕食,夜食の区分は,対象者の日勤時における食事摂取状況を基準とし,いずれの勤務においても午前4時から午前10時までを朝食,午前10時から午後3時までを昼食,午後3時から午前0時までの食事を夕食,午前0時以降の食事あるいは夕食後の食事を夜食と定義した.また,その時間内に食事をしていないものは欠食とし,集計した.

3. 分析および解析方法

調査対象者190名のうち,調査票に記載漏れがあった3名を除外し,調査票すべてに記入していた187名を解析対象とした.結果は平均値±標準誤差あるいは人数(%)で表記した.なお,身体状況(身長,体重,BMI,体脂肪率,腹囲)は年齢で調整した.解析にはSPSS for Windows 22.0(日本アイ・ビー・エム株式会社)を用い,検定はすべて両側検定とし,統計的有意差は5.0%とした.統計手法は,割合の比較にはχ2検定,2群間の平均の比較にはMann-WhitneyのU検定を用い,調整因子がある場合は共分散分析(Analysis of covariance; ANCOVA)により調整最小2乗平均を算出した.

4.倫理的配慮

本研究は実施前(2013年4月)に大阪市立大学大学院生活科学部・生活科学研究科倫理委員会において承認(承認番号13-02)を得た上で実施した.また,本研究の質問紙への回答は,対象者の自由意志であり,調査趣旨および個人情報保護等の倫理的な配慮に関しては質問紙へ明記した.回答者の全てから承諾を得,書面にも同意を得た.

III.結 果

1.対象者の特性

対象者の特性をTable 1に示した.本研究対象者187名のうち,日勤勤務のみの者(日勤群)は107名であり,2交代制,3交代制の者はそれぞれ10名,70名,両者を合わせた交代群は80名であった.日勤群および交代群の平均年齢はそれぞれ48.0 ± 1.2歳,37.1 ± 1.4歳であり,有意に交代群の年齢が有意(p<0.01)に若くなっていた(Table 1).

Table 1.  対象者の特性
対象者全体 p (日勤群vs.交代群)
全体 日勤群 交代群
n 187 107 80
年齢(歳) 43.3 ± 1.0 48.0 ± 1.2 37.1 ± 1.4 0.000**
身長(cm)†,‡ 171.2 ± 0.6 171.2 ± 0.6 171.0 ± 0.7 0.869
体重(kg)†,‡ 69.7 ± 1.0 70.1 ± 1.2 69.3 ± 1.4 0.675
BMI(kg/m2†,‡ 23.8 ± 0.3 23.9 ± 0.4 23.7 ± 0.4 0.703
体脂肪率(%)†,‡ 22.3 ± 0.5 22.7 ± 0.6 22.1 ± 0.7 0.565
腹囲(cm)†,‡ 83.5 ± 0.8 83.9 ± 0.9 82.8 ± 1.1 0.487
体型区分# やせ 2 (1.1) 1 (0.9) 1 (1.3) 0.632
ふつう 126 (67.4) 70 (65.4) 56 (70.0)
過体重 50 (26.7) 32 (30.0) 18 (22.5)
肥満 9 (4.8) 4 (3.7) 5 (6.3)
メタボリックシンドローム罹患状況# メタボリックシンドローム罹患者 19 (10.2) 14 (13.1) 5 (6.3) 0.501
メタボリックシンドローム予備群 11 (5.9) 7 (6.5) 4 (5.0)
正常 157 (84.0) 86 (80.4) 71 (88.8)
喫煙状況# 吸っていない 45 (24.1) 29 (27.1) 16 (20.0) 0.019*
過去に吸っていた 42 (22.5) 30 (28.0) 12 (15.0)
現在吸っている 100 (53.5) 48 (44.9) 52 (65.0)
飲酒状況# ほとんど飲まない 79 (42.2) 36 (33.6) 43 (53.8) 0.006**
飲む 108 (57.8) 71 (66.4) 37 (46.3)
家族構成# 一人暮らし 12 (6.4) 8 (7.5) 4 (5.0) 0.821
夫婦のみ 12 (6.4) 6 (5.6) 6 (7.5)
子供と同居(配偶者あり) 83 (44.3) 49 (45.8) 34 (42.5)
子供と同居(配偶者なし) 9 (4.8) 6 (5.6) 3 (3.8)
それ以外 71 (38.0) 38 (35.5) 33 (41.3)

数値は平均値±標準誤差,あるいは人数(%)で示した.共分散分析による年齢調整最小2乗平均.Mann-WhitneyのU検定,#カイ二乗検定,*有意差あり(p<0.05),**有意差あり(p<0.01).

年齢調整した身長,体重,BMI値,体脂肪率,腹囲といった身体状況の指標は,日勤群と交代群の間に有意差は認められなかった.体型区分は対象者全体でみると,ふつうの者が最も多く,67.4%であり,各群間で有意差はみられなかった.やせの者が対象者全体で1.1 %と少なく,過体重の者は対象者で26.7%であった.肥満の者の割合は対象者全体の4.8%であり,各群間における差は認められなかった.

メタボリックシンドローム罹患者は対象者全体で10.2%であり,メタボリックシンドローム予備群は5.9%,正常が84.0%であった.日勤群と交代群では大きな違いは認められなかったが,メタボリックシンドロームの罹患者と予備群の割合は若干日勤群の方が高くなっていた.

喫煙状況は,対象者全体では76.0%が喫煙経験者(現在吸っている者53.5%,過去に吸っていた者22.5%)であり,交代群では80.0%(現在吸っている者65.0%,過去に吸っていた者15.0%)と日勤群の72.9%(現在吸っている者44.9%,過去に吸っていた者28.0%)より高くなっていた.

飲酒状況は,対象者全体の57.8%に日常的な飲酒習慣があり,交代群よりも日勤群で高い割合になっていた.

家族構成は,配偶者および子どもと同居している世帯が多く,ひとり暮らしと夫婦のみの世帯は各々6.4%とわずかであった.それ以外の世帯は祖父母を含む世帯が多く占めていた.

2.生活時間調査

Table 2は勤務形態ごとに各生活時間の合計をまとめたものであり,Fig. 1およびFig. 2は1日24時間における日勤群および交代群の睡眠行為者率と食事行為者率を30分ごとにまとめたものである.勤務時間の合計は交代群よりも日勤群が長く,睡眠時間の合計は,交代群(遅出時)(c)において他群より長くなる傾向が認められたが,いずれも有意差はなかった.日勤群(a)と交代群(日勤時)(b)は睡眠行為者率および食事行為者率が増えるピーク時刻は両群とも類似した時間帯となっており,食事行為者率については,午前6時前後,午後0時頃,午後6時から午後7時頃に3つのピークがみられた.起床から朝食までの時間の平均は日勤群(a)と交代群(日勤時)(b)では差は認められなかったが,朝食から出勤までの時間と起床から出勤までの時間は,日勤群(a)の方が交代群(日勤時)(b)よりも長く,朝の時間に比較的ゆとりがあることがうかがえた.夕食から就寝までの時間は日勤群(a)よりも交代群(日勤時)(b)で若干長くなっていた.

Table 2.  勤務形態ごとの生活時間の合計
全体 日勤群(a) 交代群
(日勤時)(b)
交代群
(遅出時)(c)
交代群
(夜勤時)(d)
n 187 107 80 75 71
勤務時間の合計(分) 582 ± 7 613 ± 10 540 ± 5 539 ± 4 533 ± 5
睡眠時刻 睡眠時間の合計(分) 411 ± 5 414 ± 7 407 ± 9 438 ± 15 406 ± 18
仮眠を取る者の数(n) 6 10
仮眠時間の合計(分) 180 ± 9 225 ± 10
就寝時間と仮眠時間の合計(分) 445 ± 7 420 ± 11
起床から朝食までの時間(分) 35 ± 2 37 ± 3 33 ± 3
朝食から出勤までの時間(分) 43 ± 2 47 ± 3 37 ± 3
起床から出勤までの時間(分) 76 ± 3 82 ± 4 67 ± 3
夕食から就寝までの時間(分) 226 ± 6 220 ± 8 235 ± 9 431 ± 18

数値は平均値±標準誤差で示した.

Fig. 1.

 各勤務形態時における睡眠行為者率.

Fig. 2.

 各勤務形態時における食事行為者率.

一方,交代群において,遅出時(c)では日勤時(b)に比べ睡眠時刻と食事時刻に明らかな違いがみられ,日勤時(b)にみられた食事行為者率の3つのピークは崩れ,睡眠行為者率のピークも遅い夜間の時間帯にずれていた(Fig. 2(c)およびFig. 1(c)).遅出時(c)の出勤時刻はお昼過ぎ頃であり,退社時刻は23時頃であるため,日勤時(b)と比較すると,1時過ぎ頃と遅くに就寝する者が多く,それに伴い起床時刻は遅くなり,約1割の者が正午以降も睡眠をとっていた(Fig.1(c)).また交代群(遅出時)(c)75名のうち6名は通常の睡眠とは別に平均3時間程度の仮眠をとると答えており(Table 2),1日全体でみると睡眠時間が分断されている様子がうかがえた.

交代群(夜勤時)(d)においては,さらに睡眠時刻と食事時刻に明らかな違いが見られ,日勤時(b)にみられた食事行為者率の3つのピークはほぼみられなくなり,食事を摂取している時間帯が大きく分散している現状がみられた(Fig. 2(d)).また,夜間勤務のため当然であるが,睡眠時間のピークは昼間に見られ(Fig. 1(d)),通常の睡眠と別に仮眠をとると答えた者も10名となっていた(Table 2).

3.各勤務形態時における欠食率および夜食と間食の摂取率

Figure 3に各勤務形態時における朝食(A),昼食(B),夕食(C)の欠食率を示した.我が国の日本人男性における朝食欠食率は14.4%と報告されており26),本研究における日勤群(a)でも13.1%の朝食欠食者の存在が認められた.しかし,昼食と夕食の欠食者は全くおらず,0.0%であった.一方,交代群(日勤時)(b)では日勤群(a)より朝食欠食者の割合が16.3%とわずかであるが多く,加えて日勤群(a)で認められなかった昼食欠食者2.5%と夕食欠食者1.3%が存在していた.交代群(遅出時)(c)では朝食欠食者が全体の58.8%と他群に比べ有意に多くなっており,昼食と夕食の欠食も各々13.8%,5.0%と交代群(日勤時)(b)より多くなっていた.交代群(夜勤時)(d)では昼食欠食者が63.8%と他群に比べ有意に多く,朝食欠食者は28.8%,夕食欠食者は7.5%存在した.

Fig. 3.

 各勤務形態時における朝食,昼食,夕食の欠食率.

*Mann-WhitneyのU検定,有意差あり(p<0.01).

Figure 4は各勤務形態時の夜食の摂取率を示している.夜食の摂取は日勤群(a)で11.2%であり,交代群(日勤時)(b)は8.9%とほぼ同程度であったが,交代群(遅出時)(c)では41.3%,交代群(夜勤時)(d)では65.0%が夜食を摂取していた.

Fig. 4.

 各勤務形態時における夜食の摂取率.

*Mann-WhitneyのU検定,有意差あり(p<0.01).

なお,1日4食(朝,昼,夕,夜食)以外の間食を摂取すると答えた者は,日勤時で19名,遅出時1名,夜勤時6名であった.

4.各勤務形態時の食事摂取状況別における身体状況

Table 3では1日4食(朝,昼,夕,夜食)のうち,1日2食以下の日がない者とある者で身体状況を比較検討した.日勤群では朝食欠食者14名が1日2食以下の者と分類されたが,Table 3で示す全ての身体計測値において有意な差は認められなかった.交代群においては,日勤時,遅出時,夜勤時のいずれかの勤務時に1日2食以下の日がある者とない者で分けた.その結果,1日2食以下の日がない群に比べて,ある群の方が体重とBMI,体脂肪率,腹囲といった身体状況の数値が大きくなっており,BMIと体脂肪率は有意に高くなっていた.

Table 3.  各勤務形態における摂食状況別の身体状況
日勤群(日勤時) 交代群(日勤,遅出,夜勤時のいずれかで)
1日2食以下
の日なし
1日2食以下
の日がある
p 1日2食以下
の日なし
1日2食以下
の日がある
p
n 93 14 36 44
年齢(歳) 48.5 ± 12.2 44.9 ± 10.0 0.204 39.0 ± 12.4 35.5 ± 12.2 0.147
身長(cm)†,‡ 171.4 ± 0.6 168.6 ± 1.7 0.124 171.6 ± 1.0 171.2 ± 0.9 0.782
体重(kg)†,‡ 70.3 ± 1.1 68.4 ± 2.8 0.551 66.5 ± 2.2 71.0 ± 1.9 0.118
BMI(kg/m2†,‡ 23.9 ± 0.3 24.1 ± 0.9 0.880 22.5 ± 0.6 24.2 ± 0.6 0.049*
体脂肪率(%)†,‡ 22.4 ± 0.5 22.5 ± 1.4 0.944 20.2 ± 1.1 23.4 ± 1.0 0.038*
腹囲(cm) †,‡ 84.8 ± 0.8 82.9 ± 2.4 0.470 79.6 ± 1.7 83.8 ± 1.5 0.071

数値は平均値±標準誤差で示した.共分散分析による年齢調整最小2乗平均.Mann-WhitneyのU検定,*有意差あり(p<0.05).

IV.考 察

1.交代制勤務者の生活時間状況と欠食状況における課題

男性勤労者を対象に交代制の有無と各勤務形態時の生活時間(勤務時刻,睡眠時刻,食事摂取時刻)について調査を実施した.本調査において,日勤群よりも交代群の平均年齢が有意に若かったが,共分散分析により算出した身体状況の年齢調整平均とメタボリックシンドローム罹患状況において交代制の有無よる差は認められなかった.交代制勤務では生活習慣病ハイリスクが多いとの報告12,13,14,15)があるが,本研究は横断的な検討であるため,生活習慣病との関連性は考察することは難しいと考えられる.また,先行研究では2交代群と3交代群でメタボリックシンドローム発症に違いがあることが報告されており27),交代勤務の種別による検討の必要性が考えられたが,本研究では3交代制勤務者72名に対し,2交代制勤務者10名と例数に偏りがあり,交代勤務の種別による比較検討はできなかった.喫煙経験者の割合は交代群に多く,現在も喫煙習慣のある者の割合も高くなっていた.一方で,飲酒習慣のある者の割合は日勤群の方が高くなっていた.今回の検討では交代制の有無が喫煙と飲酒習慣にどのような関連性があるかは解析していないが,深夜勤務のある労働者を対象とした調査では日常ストレスの解消が不十分と答えた者においてストレス解消手段として飲酒と喫煙を選択した者の割合が有意に高いことが報告されており28),本研究の対象者においてもストレス解消手段の一つとして習慣化されている可能性があるものと考えられた.

本調査において交代制勤務者では勤務形態によって生活時間が大きく異なり,勤務時間が大きく影響していることが明確となった.交代群における日勤時の生活時間のうち,睡眠と食事については日勤群とほぼ同様なパターンで過ごしていることが示された.しかし,交代群の遅出時は出勤時刻に合わせ,昼頃まで睡眠をとる者が多くなり,朝食欠食者の割合が高くなっていた.また,退社時刻が23時を過ぎるため就寝時刻は翌日午前1時過ぎる者が多く,1日3食の3回目の食事を夜食としてとる者が増加していた.遅出時に夜食をとる者は,朝食欠食分を夜食で補っているものと考えられた.さらに,交代群の夜勤時においては,昼間に睡眠をとる生活となり,昼食欠食者が約6割となっていた.今回の検討では,夜勤時の睡眠を仮眠と分けて答えた者は10名(14.1%)しかいなかったが,調査票回収時の面談内容より,睡眠と仮眠を分けて回答しなかった者の中には,睡眠を取りながらお昼を食べる一時だけ起き上がり,自ら用意していた,あるいは家族によって用意された食事を食べ,食べ終わると再び布団に入ると答えた者もいた.そのため,昼食を食べている4割の者は,そのような生活をしている者が多いと考えられる.また,夜勤時の昼食欠食率と夜食摂取率がほぼ同程度の6割であったことから,昼食欠食をした者は夜食の摂取でその欠食分を補っているものと考えられた.時間栄養学的には,1日3食を同じ時間に規則正しくとる方がよいと考えられ3, 4),夜間の食事摂取は肥満との関連も指摘されている29)が,交代群では遅出,夜勤の勤務形態に合わせた睡眠と食事をとらざるを得ず,夜間の食事摂取が避けられない状態になっているものと思われる.

さらに,本研究において,1日4食(朝,昼,夕,夜食)以外で間食を摂取すると答えた者の割合が低くなっていた.面談にて間食の摂取の有無を確認しているが,「普段はあまり間食を食べない」と答えた者の方が多かった.間食の摂取はエネルギーや脂質の過多へつながるため,肥満やメタボリックシンドロームの発症を増悪させ,健康状態に影響する可能性が考えられる.しかし,本研究では結果的に摂取していると答えた者が少なく,また,その摂取内容を把握できなかったため,以後の詳細な解析を行わなかった.

また,遅出時と夜勤時において,食事を1日3回摂取せず,食事回数が減少し,1日2食以下となる者が交代群の半数以上存在することが明らかとなった.これらの者は日勤時には3食食べているにも関わらず,遅出あるいは夜勤になると欠食を補う食事をしていないと考えられた.現代の食生活において1日3食をとることが基本であると考えられているが30),欠食の弊害として,1回当たりの食事量がまとまった量となり,結果的に体重増加につながるとの報告が多くある25, 31).本研究では交代制勤務者を1日2食以下の日がある者とない者に分け,身体状況の比較検討を行った.その結果,日勤,遅出,夜勤のいずれかで1日2食以下の日がある者の方がない者に比べ平均体重は重く,それに伴いBMIと体脂肪率,腹囲の平均値も高くなっていた.このことより,交代制勤務者は食事時間が不規則になり,朝昼夕のいずれかで欠食が起きることになったとしても,欠食分を夜食として補い,1日3食を食べる方が,欠食のまま1日2回以下になるよりは良い可能性があると考えられた.一般に,朝食欠食による弊害は多く報告されているが23,24,25),本研究のような勤務都合による昼食欠食の影響を検討したものは少なく,健康状態へいかなる影響を与えるかは不明な点が多い.一方で,既出のように夜間の食事摂取は肥満との関連29)も指摘されており,夜食を摂ることを推奨することは必ずしも適当ではないとも考えられる.現状では交代制勤務者の食事のあり方についての明確な指標はない32) が,交代制勤務者は恒常的に食事の時間と機会を確保することが困難であることが示唆されたことから,欠食が生じないように支援をし,かつ,適切な夜間の食事のあり方を検討していく必要があると考えられた.

2.本研究の限界および今後の課題

本研究は1事業所で実施したものであるため,対象者数や勤務形態に限りがあり,他事業所での様々な交代制勤務者に適用する上では限界があると考えられる.また本研究では,生活時間調査から勤務時間と睡眠の状況,食事の摂取回数および時刻を把握できたが,食事の摂取内容に関する詳細な調査は実施しておらず,対象者の習慣的なエネルギーおよび栄養素等摂取量と身体状況の関わりについては検討できなかった.健康の維持・増進と生活習慣病の予防には,食事の摂取内容や1日3食の配分量3)等も関わるため,食事の摂取回数や時刻のみで身体状況への影響の全てを説明できるものではないと考えている.先行研究において,栄養摂取状況と夜勤交代勤務の関連を検討したものの多くは,交代制勤務者と日勤者の間に摂取エネルギー,主な栄養素摂取量に差がないとする一方で,食事の時間や頻度,食品の選択といった食習慣の問題を指摘するものがあると報告されている16,17,18,19).また,マウスを用いた動物実験において,1日量が一定となるように食餌の条件(回数および配分量)を変えて体重や血糖値等を検討したところ,1日1食と2食では2食の方が,朝食と夕食では朝食にウエイトをおいた食餌の方が体重増加と体脂肪率,空腹時血糖値の上昇を軽減したと報告されている4, 33).本研究では交代制勤務者の食事回数は1日2回よりも,3回以上の方がよい可能性があると考えられたが,今後はさらに対象者の食事の摂取内容と摂取量,配分量,および食品選択状況等を把握し,検討を重ねる必要があると考える.また,夜間に食事を食べる場合,どのような栄養素をどのような割合で摂取すべきであるかという点においても不明な点が多く残されているが,ヒトを対象として夜間の食事摂取内容を検討したものは多くない.マウスを用いて朝夕の2食を与えて検討した報告4, 34)によると,いずれかに高脂肪食を与えた場合,夕食で高脂肪食を摂取させた方が体重や内臓脂肪,血糖値のいずれも高くなり,また,呼吸商では夕食の高脂肪食群は脂肪燃焼より炭水化物燃焼に傾いているとも報告されている.こういった報告から,ヒトにおいても夜間に摂取する食事は高脂肪のものを避けた方がよい可能性が考えられるが,今後はこれらの因果関係を縦断的に解析し,交代制勤務者における適切な食生活への指針等を検討していきたいと考える.

V.結 論

男性交代制勤務者における生活時間と食事状況が身体状況や健康課題へ及ぼす影響について検討した.交代制勤務により睡眠時間と食事時刻が変動し,欠食する者も見られたが,食事の摂取回数で対象者の身体状況を比較したところ,欠食のある者はない者よりもBMIと体脂肪率は有意に高くなっていた.交代制勤務者の欠食の防止と適切な夜食摂取について支援する必要性が示唆された.

利益相反

本研究での利益相反に相当する事項は無い.

Acknowledgment

謝辞:本研究にご協力いただきました皆様に深く感謝申し上げます.(本論文の要旨は第87回日本産業衛生学会にて一般演題として発表した.)

References
 
© 2015 by the Japan Society for Occupational Health
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