SANGYO EISEIGAKU ZASSHI
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Field Study
A survey of the otoacoustic emissions (OAEs) of workers exposed to noise in manufacturing factories
Isamu KabeYasuo KogaTakeshi KochiHiroyuki MiyauchiAoi MinozoeDaisuke KuwataIzumi TsustumiMasafumi NakagawaShigeru Tanaka
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2015 Volume 57 Issue 6 Pages 306-313

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抄録

目的:国内では一般の産業現場において耳音響放射検査 (OAEs) は普及しておらず,実際の騒音職場での使用報告がほとんどない.本調査は,国内製造業の事業場で,騒音に曝露する作業者を対象にOAEsと最小可聴閾値(HTs)との関連を検討した.対象と方法:金属製品製造業の2事業場において騒音職場の作業者(曝露群)34名(平均年齢40.6±9.4歳)と,非騒音曝露作業者(コントロール群)9名(49.0±14.3歳)を調査対象とした.対象者毎に作業環境測定(ENM)と,騒音個人曝露測定(PNM)を同時期に実施した.騒音曝露による聴覚影響の評価指標として,作業開始前後の0.5 kHz,1 kHz,2 kHz,4 kHzと8 kHzのHTsおよび2 kHz,3 kHzと4 kHzの歪成分耳音響放射検査 (DPOAEs) を行った.HTs,OAEs,ENMとPNMの結果の曝露群と非曝露群の比較,作業前後の比較,NIHL有無の比較は,Student’s t検定を用いた.HTs,OAEs,ENMとPNMの結果の関連についてPearson相関係数を求めた.結果:ENMおよびPNMは,騒音曝露群がA測定(LAeq)84.5±4.1 dB (A),B測定(LAMAX)89.5±6.3 dB (A),時間加重平均(LTWA)83.4±4.7 dB (A),一秒率(LAE)153.1±15.7 dB (A),コントロール群がLAeq53.2±2.6 dB(A),LAMAX56.4±2.4 dB (A),LTWA67.8±5.6 dB (A),LAE119.5±5.6 dB (A)となり,騒音曝露レベルは曝露群が有意に高かった.作業前後のHTs,OAEsは,両群とも差は無かった.両群とも騒音曝露レベルのLAeq,LAMAX,LTWA,LAEとその影響指標であるHTs,OAEsに相関がみられなかったが,HTsとOAEsとの間には相関をみとめた.NIHLをみとめた群は,NIHLのない群に比べて,HTsおよびOAEsが有意に低下していた.結論:作業前後のHTsと OAEsの相関をみとめた.今後,日本の産業現場でも騒音性難聴のスクリーニング検査や騒音曝露作業者の聴力管理としてOAEが用いられることが期待される.

I.はじめに

日本国内では,騒音健康診断に純音聴力検査が用いられている.2013年度に騒音健康診断を受診した273,309人のうち39,460人(14.4%)に聴力低下の所見をみとめた1).純音聴力検査は,受診者の自覚的反応による主観的な検査法であり,難聴者で時間がかかることもある2)

耳音響放射(Otoacoustic emission: OAE)は,1978年Kemp3)によって最初に報告された蝸牛由来の微小な音響反応であり,外耳道において記録される.その発生機構はいまだ完全に解明されてはいないが,運動能を有する外有毛細胞を中心とした蝸牛内微小機械系の振動に起因するものと考えられており,その機能をよく反映するとされている4).よって本反応は蝸牛機能,特に外有毛細胞機能の他覚的検査法として,乳幼児の難聴のスクリーニング,聴神経腫瘍の手術の際や変動する感音難聴における蝸牛機能のモニタリング,感音難聴の障害部位診断などを目的に多くの研究や臨床応用が行われている4,5,6).

産業保健に関する研究では,国内外で騒音曝露の内耳への影響をみる指標としてOAEの有用性が報告されている7,8,9,10,11,12,13,14,15).Seixasらは,建設業見習い作業者を対象に実施したコホート研究で,歪成分耳音響放射検査(Distortion product otoacoustic emissions: DPOAEs)は純音聴力検査より早期の騒音性変化を感知することを報告した10, 11).さらに,Jobら16)やSantaolalla Montoyaら17)の研究では,OAEsが騒音性難聴(Noise-induced hearing loss: NIHL)をオージオグラムより早期に検出できることが指摘されている.一方,Shupakらは,船内エンジン室内作業者を対象に実施した誘発耳音響放射(Transient evoked otoacoustic emissions: TEOAEs)の結果は,騒音曝露2年後のNIHLの予測に高感度であるが,false positiveが高いことを指摘している12).また,岩崎らは一般健康診断の聴力検査とOAEsを比較では,OAEsは選別聴力検査より一致率が高く,false positiveの比率は低かったと報告している13).佐藤らは,自衛隊の大口径火器を取扱う63名を対象にNIHLを調査し,DPOAEsと最小可聴閾値(Hearing thresholds; HTs)とが相関していることを支持している14).Attiasらも軍人等を対象にした研究で,OAEsは感度79–95%,特異度84–87%でNIHLを鑑別できると報告している15)

しかし,国内では一般の産業現場においてOAEsは普及しておらず,実際の騒音職場での使用報告がほとんどない.本調査は,国内製造業の事業場で,騒音に曝露する作業者を対象にOAEsとHTsとの関連を検討した.

II.対象と方法

金属製品製造業の2事業場において騒音職場の作業者(曝露群)34名(平均年齢40.6±9.4歳)と,現在騒音に曝露されない作業者(コントロール群,過去騒音曝露者6名を含む)9名(同49.0±14.3歳)を調査対象とした.実際の産業現場には,過去騒音曝露者も存在するため,実態を調査する目的で対象とした.本調査は,国際医療福祉大学倫理審査委員会の承認後,各対象者に同意を得て実施した.

対象者毎に騒音測定計(Rion NL52, 東京)を用いた作業環境測定(ENM)のA測定(LAeq)・B測定(LAMAX)と,騒音個人曝露測定(PNM)計(3M Edge5, Oconomowoc,米国)による時間加重平均(LTWA)・1秒率(LAE)を同時期に実施した.なお,騒音曝露作業者は作業中に普段通りの耳栓(日本工業規格(JIS T8161)の1種(EP-1)適合品)を数種類使用していた.

騒音曝露による聴覚影響の評価指標として一過性聴覚閾値変動(NITTS)を用い,月曜日の作業開始前および金曜日の作業終了直後(約10分以内)に防音室内で純音聴力検査装置(Rion NL-52,東京)を用いて0.5 kHz,1 kHz,2 kHz,4 kHzと8 kHzのHTsを調べた.過去の騒音健診結果を含め,4 kHzを中心としたV字形の切れ込みを示すオージオグラム(C5-dip)18)がみとめるものをNIHLとした.同時期に,静かな検査室内(53.3±1.6 dB)で2 kHz,3 kHzと4 kHzのDPOAEs(Rion ER-33, 東京)検査を行った.Rion NL-52は,低周波数の音(周波数=F1kHz,音圧レベル=65 dBSPL)と高周波数の音(周波数=F2kHz,音圧レベル=55 dBSPL)の2つの音が呈示され,検出するDPOAEの周波数は,2F1-F2であった.OAEs の測定は,外耳道にプローブ(刺激音を出力するイヤホンとOAE を検出するためのマイクロフォンを内蔵)を挿入して,2 kHz,3 kHzと4 kHzのtone-burstによる誘発音響放射を片耳約30秒間で測定を両耳で実施した(Fig. 1).OAEは,正常聴力者であれば検出することができるが,蝸牛に機能低下がある場合は,消失もしくは減弱する2, 4, 5).一般的には中等度から重度の内耳性の難聴で,OAE が検出できないとされている2, 4, 5)

Fig. 1.

 Schematic drawing of how to evoke a distortion product otoacoustic emission (DPOAE) within the cochlea and how to measure it in the outer ear canal. The sound probe consists of two speakers emitting the primary tones of frequencies f1 and f2, and one microphone for measuring acoustic signals in the outer canal.

また,作業開始前の4 kHzのHTsを一般健康診断における選別聴力検査(HTs>40 dBHL)とみなした場合,4 kHzのOAEs((DPOAEs-ノイズレベル)≤10 dBSPL)のスクリーニングと比較した.

HTs,OAEs,ENMとPNMの結果の曝露群と非曝露群の比較,作業前後の比較,NIHL有無の比較は,Student’s t検定を用いた.HTs,OAEs,ENMとPNMの結果の関連についてPearson相関係数を求めた.統計計算はStatcel2(OMS,東京)を用いた.

III.結 果

作業環境測定(ENM)結果と個人曝露測定(PNM)結果

測定結果をTable 1に示す.ENMおよびPNMの結果は,騒音曝露群がLAeq84.5±4.1 dB (A),LAMAX89.5±6.3 dB (A),LTWA83.4±4.7 dB (A),LAE153.1±15.7 dB (A),コントロール群がLAeq53.2±2.6 dB (A),LAMAX56.4±2.4 dB (A),LTWA67.8±5.6 dB (A),LAE119.5±5.6 dB (A)となり,4つの騒音曝露指標は曝露群が有意に高かった.コントロール群でLAeqがLTWAより有意に低かった.

Table 1.  Noise exposure levels, hearing thresholds (HTs) and otoacoustic emissions (OAEs) at different frequencies of each group
Exposure group Control group
n 34 9
Age 40.6 (9.4)* 49.0 (14.3)
Work environmental monitoring (dB(A)) LAeq 84.5 (4.1)** 53.2 (2.6)
LAMAX 89.5 (6.3) (n=29)** 56.4 (2.4)
Personal noise monitoring (dB(A)) LTWA 83.4 (4.7)* 67.8 (5.6)
LAE 153.1 (15.7)* 119.5 (5.6)
Before work 5 days later Before work 5 days later
Hearing thresholds (HTs) (dBHL) Right 0.5 kHz 14.6 (9.2)** 15.9 (9.5)* 26.7 (7.1) 23.9 (7.0)
1 kHz 12.5 (6.9) 13.2 (8.0) 16.7 (7.1) 16.7 (6.1)
2 kHz 13.1 (9.0)* 13.5 (8.5) 18.9 (8.6) 17.8 (9.1)
4 kHz 11.5 (14.4)** 12.5 (15.5)** 22.8 (13.0) 20.6 (12.1)
8 kHz 21.9 (17.7) 21.9 (19.0) 31.1 (15.0) 27.2 (14.4)
Left 0.5 kHz 12.2 (7.2) 13.5 (7.3) 18.3 (7.9) 17.8 (7.9)
1 kHz 12.5 (8.6) 13.4 (8.5) 18.9 (10.8) 16.7 (10.0)
2 kHz 12.6 (9.6) 12.6 (9.5)* 17.2 (10.6) 18.3 (10.6)
4 kHz 15.1 (17.6)** 15.6 (14.7)** 22.2 (10.6) 21.1 (11.1)
8 kHz 25.7 (20.9) 25.0 (21.5) 31.7 (20.6) 33.3 (20.5)
Otoacoustic emissions (OAEs) (dBSPL) Right 2 kHz 12.7 (9.5) 12.7 (8.1) 15.9 (5.5) 16.1 (6.9)
3 kHz 17.1 (8.1) 16.9 (7.7) 18.8 (8.1) 15.0 (8.2)
4 kHz 16.8 (12.8) 16.2 (11.4) 13.6 (11.6) 12.3 (8.8)
Left 2 kHz 11.8 (8.6) 12.1 (8.3) 13.2 (4.8) 13.7 (6.5)
3 kHz 16.6 (10.6) 17.5 (10.4) 14.0 (11.7) 14.3 (11.9)
4 kHz 17.1 (11.2) 17.1 (11.9) 15.7 (10.5) 12.4 (11.9)

LAeq; time-weighted average of work environmental noise monitoring. LAMAX; maximum sound level of work environmental noise monitoring. LTWA; time-weighted average of personal noise monitoring. LAE; sound exposure level of personal noise monitoring. *; p<0.05, **; p<0.01 compared to control.

最小可聴閾値(HTs)と耳音響放射(OAEs)

HTsで4 kHzの聴力低下(C5-dip)を含むNIHLは,曝露群で8人(23.5%),コントロール群で5人(55.6%)みられた.

作業前後の右耳のHTsは,曝露群が0.5 kHzで14.6±9.2 dBHL,15.9±9.5 dBHL,1 kHzで12.5±6.9 dBHL,13.2±8.0 dBHL,2 kHzで13.1±9.0 dBHL,13.5±8.5 dBHL,4 kHzで11.5±14.4 dBHL,12.5±15.5 dBHL,8 kHzで21.9±17.7 dBHL,21.9±19.0 dBHLと有意差は無かった(Table 1).コントロール群が0.5 kHzで26.7±7.1 dBHL,23.9±7.0 dBHL,1 kHzで16.7±7.1 dBHL,16.7±6.1 dBHL,2 kHzで18.9±8.6 dBHL,17.8±9.1 dBHL,4 kHzで22.8±13.0 dBHL,20.6±12.1 dBHL,8 kHzで31.1±15.0 dBHL,27.2±14.4 dBHLとなり,作業前後で有意差は無かった.左耳のHTsも同様の結果だった.

作業前後の右耳のOAEsでは,曝露群が2 kHzで12.7±9.5 dBSPL,12.7±8.1 dBSPL,3 kHzで17.1±8.1 dBSPL,16.9±7.7 dBSPL,4 kHzで16.8±12.8 dBSPL,16.2±11.4 dBSPLと3 kHz,4 kHzで作業後が低下していたが有意で無かった.コントロール群は2 kHzで15.9±5.5 dBSPL,16.1±6.9 dBSPL,3 kHzで18.8±8.1 dBSPL,15.0±8.2 dBSPL,4 kHzで13.6±11.6 dBSPL,12.3±8.8 dBSPLといずれも有意で無かった.左耳のOAEsでは,作業後で両群ともに2 kHz,3 kHzで上昇していたが有意差は無かった.

また,HTsの曝露群とコントロール群の比較では,作業前後とも左右耳の4 kHzでコントロール群の方が有意に聴力低下をみとめた.一方,OAEsでは全周波数で両群に差は無かった.

曝露群では,騒音曝露レベルのLAeq,LAMAX,LTWA,LAEとその影響であるHTs,OAEsに相関がみられなかった(Table 2).一方,作業前後のHTsとOAEsでは相関をみとめた(Fig. 2).

Table 2.  Correlation matrix of noise exposure levels, hearing thresholds (HTs) and otoacoustic emissions (OAEs) of the noise exposure group (n=34)
Fig. 2.

 The exposure group’s 2 kHz hearing thresholds and otoacoustic emissions (OAEs) before and after 5 days of work.

コントロール群でも,LAeq,LAMAX,LTWA,LAEとHTs,OAEsに相関がみられなかった(Table 3).NIHLをみとめた群は,NIHLのない群に比べて,HTsおよびOAEsが有意に低下していた(Table 4).

Table 3.  Correlation matrix of noise exposure levels, hearing thresholds (HTs) and otoacoustic emissions (OAEs) of the control group (n=9)
Table 4.  Hearing thresholds (HTs) and otoacoustic emissions (OAEs) of subjects with and without noise-induced hearing loss (NIHL)
NIHL(+) group NIHL(–) group
n 13 30
Age 50.9 (8.8)** 38.7 (9.8)
Before work 5 days later Before work 5 days later
Hearing thresholds (HTs)(dBHL) Right 0.5 kHz 20.4 (9.0) 20.8 (6.7) 15.7 (10.2) 16.2 (10.3)
1 kHz 16.2 (5.8)* 17.3 (6.0)* 12.2 (7.3) 12.5 (8.0)
2 kHz 21.2 (9.8)** 20.0 (7.9)** 11.3 (7.1) 12.0 (7.9)
4 kHz 29.2 (16.2)** 30.4 (16.3)** 7.2 (7.4) 7.2 (7.3)
8 kHz 31.5 (19.3)* 34.2 (17.3)** 20.5 (15.7) 18.2 (16.5)
Left 0.5 kHz 16.9 (6.6)* 17.7 (6.0)* 12.0 (7.7) 13.0 (7.8)
1 kHz 18.5 (10.1)* 19.2 (7.6)** 11.8 (8.4) 11.8 (8.5)
2 kHz 20.0 (11.5)** 21.9 (9.9)** 10.8 (7.7) 10.3 (7.6)
4 kHz 34.2 (16.7)** 31.9 (13.9)** 9.0 (8.9) 10.2 (7.7)
8 kHz 37.7 (21.9)* 37.7 (20.8)* 22.3 (18.7) 22.0 (20.0)
Otoacoustic emissions (OAEs)(dBSPL) Right 2 kHz 9.2 (9.3)* 10.5 (5.9) 15.2 (8.2) 14.7 (8.4)
3 kHz 14.6 (6.6) 10.8 (7.6)** 18.7 (8.4) 19.0 (6.6)
4 kHz 7.8 (13.4)** 8.5 (5.2)** 19.7 (10.4) 18.4 (11.4)
Left 2 kHz 8.8 (8.7)* 9.6 (7.4) 13.5 (7.2) 13.7 (7.9)
3 kHz 9.8 (11.6)** 11.2 (9.8)* 18.8 (9.2) 19.2 (10.2)
4 kHz 9.9 (10.4)** 8.5 (9.0)** 19.8 (10.0) 19.4 (11.6)

NIHL(+)/(–) group; group with/without noise-induced hearing loss. LAeq; time-weighted average of work environmental noise monitoring. LAMAX; maximum sound level of work environmental noise monitoring. LTWA; time-weighted average of personal noise monitoring. LAE; sound exposure level of personal noise monitoring. *; p<0.05, **; p<0.01 compared to NIHL(–) group.

選別聴力検査と耳音響放射(OAEs)

作業開始前の4 kHzのHTsを一般健康診断における選別聴力検査(HTs>40 dBHL)とみなした場合のOAEs(≤10 dBSPL)との比較では,選別聴力検査陽性が8.1%(7/86),OAEs陽性が27.9%(24/86)で,OAEsの陽性率が有意に高かった.NIHLのスクリーニングとして感度,特異度,false positiveおよびfalse negativeは,選別聴力検査が0.3(7/21),1.0(65/65),0.0%(0/65),66.7%(14/21),OAEsが0.7(15/21),0.9(56/65),13.8%(9/65),28.6%(6/21)だった.

IV.考 察

本調査は,日本国内の実際の産業現場において騒音に曝露される作業者を対象にOAEを用いた初めての報告と思われる.本調査では,騒音曝露群およびコントロール群においてC5-dipを伴うNIHLの所見を有する作業者が各々23.5%,55.6%いたが,作業前後のHTsとOAEsとの相関は同様にみとめられた.WHOはスクリーニング検査の備えるべき条件として,①目的とする疾患が重要な健康問題である,②早期発見を行った場合に,適切な治療法がある,③スクリーニング陽性者の確定診断の手段,施設がある,④目的とする疾患に潜伏期あるいは無症候期がある,⑤目的とする疾患に対する適切なスクリーニング検査法がある,⑥検査方法が集団に対して適用可能であり受け入れやすい,⑦目的とする疾患の自然史がわかっている,⑧患者,要観察者に対する追跡システムが確立している,⑨スクリーニング事業の費用-便益が成立する,⑩スクリーニングの意味,内容が受診者に周知されている,などを挙げている19).Attiasらは,騒音性難聴のスクリーニング検査としてOAEの高い感度,特異度を報告している15).本調査でも騒音曝露群で純音聴力検査と相関をみとめ,先行研究10, 11, 12 )と一致した結果だった.また,純音聴力検査に比べ短時間の検査が可能であり,費用-便益効果が高いとされる2, 4).DPOAEsでは純音聴力検査で同じ聴力レベルのグループにおいてDPOAEsレベルのばらつきが大きいという報告がある20, 21).本調査でも,HTsが正常範囲でもOAEsが低下している作業者がみとめられた.OAEは早期の外有毛細胞の障害を感知するため2,3,4,5),有所見者の多い騒音健康診断の一次スクリーニング検査としての利用価値が高いと考えられる.Jobら16)やSantaolalla Montoyaら17)の研究でも,OAEsが騒音性難聴をオージオグラムより早期に検出できることが指摘されている.

本調査の騒音曝露群で,作業前後のHTsやOAEsがほとんど変化をみられなかったのは,通常の作業通りに耳栓を着用していたことが要因かもしれない.作業直後に測定したため,測定時間による測定値の影響は少ないと思われたが,EP-1 適合の耳栓をしていれば20–30 dB の減衰があるので,耳栓装用時の鼓膜面でのLAeq は両群で差はみられなかった.また,sample 数が少なすぎるうえ,二群のage-matching がなされていない問題もあった.コントロール群において,HTsとOAEsの相関係数が曝露群と同程度であったが,相関係数が曝露群に比べ小さかったのは,対象人数が9人と少ないことによると推察された.通常の作業場では,非騒音曝露作業者のEM,PNM,HTs等は測定していない.本調査のコントロール群でLAeqがLTWAより有意に低く,作業時間中に短時間ながら騒音に曝露される機会がみられたが,作業後のHTsやOAEsには変化がなかった.これらの結果は,実験室のデータと異なり,実際の産業現場で起こりうる事象であり,貴重なデータである.なお,Rion ER-33 はスクリーニング用のOAE で4 kHz 以上のOAE は測定できない.より早期のNIHLを見るためには6 kHz までのOAE が測定できる機器を用いる必要がある.

一般健康診断における聴力検査とOAEを調べた岩崎らの報告では, 4 kHzにおいては一致率79.7%,false positive 20.7%,false negative 21.4%であった13).本調査では,NIHLのスクリーニングとして,OAEsは選別聴力検査に比べ感度が高く,特異度が低かった.選別聴力検査とOAEの大きな違いは,自覚的か他覚的かという点で大いに意味が異なる.耳の疲労状態を他覚的にみつけることができれば,NIHLの発生はもっと減らせる可能性がある.

本調査は,実際の産業現場の騒音健診に則してHTsを測定したが,NIHLのC5-dipは5 kHz,6 kHzのdipの方が多いため,騒音健診や一般健康診断の聴力検査において5 kHz,6 kHzを測定することで,より早期のNIHLを検出できると思われる.

すでに海外では,騒音性難聴のスクリーニング検査にOAEsを組み込むことが提起されている22,23,24).今後,日本の産業現場でも騒音性難聴のスクリーニング検査や騒音曝露作業者の聴力管理としてOAEsが用いられることが期待される.

利益相反

無し.

Acknowledgment

謝辞:本調査にあたり助言,指導いただいた日本補聴器センター・深澤佳道氏,スリーエムヘルスケア株式会社・傳田郁夫氏,株式会社リオン・吉岡 淳氏,薄井崇氏に深謝します.

References
 
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