SANGYO EISEIGAKU ZASSHI
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Comparison of the two methods of defining high-stress on the Japanese Stress Check Program
Aoi KataokaHiroyuki KikuchiYuko Odagiri Yumiko OhyaYutaka NakanishiTeruichi ShimomitsuShigeru Inoue
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2021 Volume 63 Issue 2 Pages 53-62

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抄録

目的:労働安全衛生法が改正され,2015年12月よりストレスチェック制度が施行された.高ストレス者の判定には,厚生労働省のマニュアルにおいて合計点数を使う方法(以下,合計法)と換算表を使う方法(以下,換算法)の2つが示されている.この2つの判定方法間で,抽出される高ストレス者の割合に違いが見られる可能性が考えられるが,大規模かつ多業種の労働者集団を対象としてその違いを検討した報告はない.本研究の目的は,複数の企業で実施されたストレスチェック結果を用い,判定方法が異なることで生じる高ストレス者判定結果の差異を,個人・就労関連要因別に検討することである.対象と方法:2016年に1つの健診機関が提供するストレスチェックを行った117の企業・団体に所属する95,004名のうち,データの学術利用に同意しない者,データ欠損のある者を除いた71,422名を対象とした.調査項目は,職業性ストレス簡易調査票(57項目版)及び個人・就労関連要因(性,年代,雇用形態,役職,職種,勤務形態,業種)である.分析は,各対象者の職業性ストレス簡易調査票の回答について,合計法及び換算法により高ストレス者判定を行い,高ストレス者と判定された者の割合を全体および個人・就労要因別にカイ二乗検定で比較した.また,合計法・換算法の判定結果の組み合わせにより,両判定方法で高ストレス者と判定された群(A群),合計法でのみ高ストレス者と判定された群(B群),換算法でのみ高ストレス者と判定された群(C群),両判定方法で高ストレス者非該当の群(D群)に対象者を分類し,それぞれの割合を算出した.さらにストレス反応の下位尺度の平均値の4群間比較をKruskal Wallis検定にて行ったのち,2つの判定法に違いのあるB・C群間の比較をBonferroni法にて検定した.結果:対象者は,男性が66.8%を占め,平均年齢は43.7±11.1歳であった.高ストレス者と判定された者は合計法で11.7%,換算法で13.2%であり,合計法より換算法のほうが有意に高かった(p<.001).また,ストレス反応の各下位尺度の平均値を比較した結果,合計法でのみ高ストレス者と判定されるB群で身体愁訴の得点が高く,換算法でのみ高ストレス者と判定されるC群では,活気の低さ・イライラ感・疲労感・不安感の得点が高くなっていた.考察と結論:同一の回答であっても高ストレス者と判定される割合は合計法より換算法が全体で1.5%高く,この結果は,個人・就労関連要因別の検討においても同様であった.高ストレス者判定割合を論ずる際には,割合の値だけではなく判定方法を考慮する必要がある.さらに,合計法では換算法に比べ,身体愁訴の得点が高い対象者が高ストレス者と判定されやすい傾向が明らかになった.今後はどちらの判定方法が健康障害をより予測するかに関する知見の蓄積が望まれる.

Abstract

Objectives: In Japan, companies are required to implement a “stress check program” to prevent mental health problems in workers. To identify “high-stress” workers, the Brief Job Stress Questionnaire (BJSQ) is recommended. According to the stress check program manual issued by the government, high-stress can be defined using two criteria, either the “sum method” (simply summing the scores for each scales) or the “score converted method” (using converted scores according to the conversion table for each scales). In this study, we examined the differences in results found using these two criteria on “stress check program” data. Methods: We used data of 71,422 workers in 117 companies and organizations who conducted stress checks in 2016. The prevalence of high-stress was calculated by applying the two criteria simultaneously, and the chi-square test was used to compare the proportion of workers with high-stress. We subsequently divided participants into the four following groups and calculated the proportion of each group: group A was defined as having high-stress by both criteria; group B, only by the sum method; group C, only by the score converted method; and group D, not defined as high-stress by either criterion. We compared the average values of stress response among four groups using the Kruskal–Wallis test, and further compared the average values between group B and group C using the Bonferroni method. Results: The average age of participants was 43.7 ± 11.1, and 66.8% were males. The proportion of those defined as having high-stress were 11.7% using the sum method and 13.2% using the score converted method; the proportion of high-stress workers was thus significantly higher when using the score converted method (p <.001). Physical stress response was higher in group B; however, lack of vigor, irritation, fatigue, and depression were higher in group C (p <.01). Conclusions: Compared to the sum method, 1.5% more high-stress workers were observed using the converted method, and this result was similar for individual and employment-related factors. Furthermore, workers were more likely to be judged as having “high-stress” when the score of the physical stress response was higher in the sum method. Hereafter, it is important to consider which criteria are applied when discussing proportions of high-stress. Further research is needed to examine which criteria will predict health disorders.

I. 背景

労働安全衛生法が改正され,2015年12月よりストレスチェック制度が施行された1.これは常時50人以上を雇用する事業場に,年に一度,心理的な負担の程度を把握するための検査(ストレスチェック)の実施を義務づけ,労働者自身にストレスへの気づきを促すとともに,職場環境改善を通じて,労働者のメンタルヘルス不調を未然に防止することを目的とするものである.

厚生労働省の「労働安全衛生法に基づくストレスチェック制度実施マニュアル」2(以下,マニュアル)によると,調査票として職業性ストレス簡易調査票を使用し,「心身のストレス反応」(以下,ストレス反応)の点数の合計が高い者,またはストレス反応の合計点数が一定以上の者であり,かつ「仕事のストレス要因」及び「周囲のサポート」の点数の合計が著しく高い者について高ストレス者として選定し,医師による面接指導の機会を提供することとなっている.

高ストレス者を選定するために,2通りの判定方法が示されている.まず,仕事のストレス要因(9尺度17項目),ストレス反応(6尺度29項目),周囲からのサポートや満足度などの緩衝要因(5尺度11項目)の点数を合計して得られる評価点を用いる,合計点数を使う方法(以下,合計法)である.もう一方は,尺度ごとの計算結果を素点換算表に当てはめ,5段階評価の評価点を用いる,換算表を使う方法(以下,換算法)である.合計法は計算方法が簡単であり簡便に用いることができる.一方,換算法は判定までの計算がやや煩雑となるものの,尺度ごとの項目数の違いによる影響を排除したストレスの状況を把握することができる.

当初,厚生労働省は,ストレスチェックと面接指導の実施方法等に関する検討会及びストレスチェック制度に関わる情報管理及び不利益取扱い等に関する検討会おいて,より簡便に計算できる合計法を推奨評価基準として提示した1.しかしこの方法では,ストレスチェック結果としての高ストレス者判定と,職業性ストレス簡易調査票への回答結果として示されるレーダーチャート(あなたのストレスプロフィール)との間に乖離が生じるという懸念から,換算法がもう1つの評価法として加わった3.現在,これら2つの判定方法のうちどちらを採用するかは,実施者の提案・助言,衛生委員会における審議を経て事業場が決定することとなっている.

2つの判定方法間で,抽出される高ストレス者の割合や特性等に違いが見られる可能性が考えられる.しかし,これまでのところ,合計法と換算法でどのように判定結果が異なるのか,大規模かつ多業種を含んだ労働者集団を対象として検討した報告はない.そこで本研究は,複数の企業で実施されたストレスチェックデータを用い,判定方法が異なることで生じる高ストレス者判定割合の差異,およびその性別や業種などの個人・就労関連要因による差異を明らかにすることを目的とした.

II. 方法

1) 対象者及び研究デザイン

本研究は横断研究である.対象者は,公益財団法人パブリックヘルスリサーチセンター附属健康増進センターが,2016年4月1日から2017年3月31日の間に企業・団体からの委託を受けて実施したストレスチェックを受検した労働者95,004名である.このうち,結果の学術研究への活用に対して同意が得られなかった者,分析に必要なデータに欠損のある者は,対象から除外した.

2) 調査方法及び調査項目

対象者はウェブ上,またはマークシート方式の調査票により回答した.評価する項目は,性別,年齢,職業性ストレス,雇用形態(正社員,契約社員・嘱託,その他),役職(一般,課長クラス,部長クラス以上,その他),職種(営業販売職,専門技術職,事務職,その他),勤務形態(一般,フレックス,交替制:深夜あり,交替制:深夜なし,裁量,その他),対象者の所属する企業の産業分類(建設業,製造業,医療・福祉・サービス業,公的機関職員,その他)である.ストレスチェックとしての職業性ストレスの評価には,下光らにより開発された職業性ストレス簡易調査票(57項目版)を用いた4.なお,産業分類は,日本標準産業分類(大分類)を用いた5

3) 職業性ストレスの評価と高ストレス者判定方法

職業性ストレス簡易調査票は,仕事のストレス要因(9尺度17項目),ストレス反応(6尺度29項目),周囲からのサポートや満足度などの緩衝要因(5尺度11項目)の計20尺度57項目で構成され,各項目4段階のリッカートスケールにて評価される.

本研究では,マニュアル2に示された数値基準で,2種類の高ストレス者判定を行った.合計法は,各質問項目の得点を単純に合計する方法で,高ストレス者判定の数値基準は,ストレス反応の合計点数が77点以上(29~116点)の場合,および,仕事のストレス要因と周囲からのサポートの合計点数が76点以上(26~104点)かつストレス反応の合計点数が63点以上の場合に高ストレス者と判定する.一方,換算法は,尺度ごとに素点換算表に基づく5段階評価の評価点(1点=高ストレス,5点=低ストレス)に置き換え,その評価点を合計する方法で,ストレス反応の評価点の合計が12点以下(6~30点)の場合,および,仕事のストレス要因と周囲からのサポートの合算の評価点の合計が26点以下(12~58点)かつストレス反応の評価点の合計が17点以下の場合に高ストレス者と判定する.

4) 統計解析

2つの判定方法間における高ストレス者判定割合の違いについて,全体及び男女別にカイ二乗検定で比較した.また,高ストレス者判定と個人・就労要因の関連について,合計法と換算法の間に差異が見られるかを検討するため,個人・就労要因ごとの高ストレス者判定割合についてカイ二乗検定を行った.

次に,合計法と換算法の判定結果の組み合わせを,A~D群の4群に分け,それぞれの割合を算出した.A群は,合計法・換算法の両方で高ストレス者と判定された者,B群は,合計法では高ストレス者と判定されたが,換算法では高ストレス者と判定されなかった者,C群は,換算法では高ストレス者と判定されたが,合計法では高ストレス者と判定されなかった者,D群は,合計法・換算法の両方で高ストレス者と判定されなかった者である.A~D群について,ストレス反応の各下位尺度の平均値を男女別に算出した.算出にあたっては,合計法・換算法とも数値が大きいほど不良な状態を示すよう,換算法において得点を反転させた.最後に,A~D群間において,ストレス反応の各下位尺度の平均値に差があるかをKruskal-Wallis検定にて,更にBonferroni法による多重比較検定にて,2つの判定結果が異なる群であるB群とC群の間の点数の比較を行った.また,B群とC群について,ストレス反応の合計得点に占めるストレス反応の各下位尺度の得点の割合を合計法・換算法ごとに算出し,B群とC群における判定結果の違いに対する,ストレス反応の各下位尺度の寄与割合について検討を行った.

統計学的有意水準は5%とし,分析にはR(version 3.3.4)6を用いた.

5) 倫理的配慮

本研究の倫理的配慮として,ストレスチェックに関するデータの学術的利用についての同意を対象者一人一人から書面にて得た.また,本研究は,東京医科大学医学倫理審査委員会の承認を得て行った(承認番号2016-166).

III. 結果

対象者のフローを図1に示す.ストレスチェックを実施した117企業・団体の労働者95,004人のうち,データの学術利用に同意が得られなかった者(n=5,528),分析に必要な項目に欠損がある者(n=18,054)を除外した71,422人を分析の対象とした.

図1.

研究対象者のフロー

対象者の個人・就労関連要因の内訳を表1に示す.男性は66.8%(47,680人),平均年齢は全体で43.7±11.1歳,男性で44.3±11.0歳,女性で42.6±11.4歳であった.職種は,男性では専門技術職が29.6%(14,104人),女性では事務職が54.5%(12,939人)と最も多かった.所属する企業の業種は,男性では製造業が44.7%(21,333人),女性では医療・福祉サービス業が36.4%(8,631人)と最も多かった.

表1. 対象者の特性
全体男性女性
n=71,422n=47,680n=23,742
n(%)n(%)n(%)
年代20代以下9,532(13.4)5,564(11.7)3,968(16.7)
30代15,571(21.8)10,135(21.3)5,436(22.9)
40代23,399(32.8)16,045(33.7)7,354(31.0)
50代17,545(24.6)12,228(25.6)5,317(22.4)
60代以上5,375(7.5)3,708(7.8)1,667(7.1)
雇用形態正社員53,094(74.3)42,173(88.4)10,921(46.0)
契約社員・嘱託12,983(18.2)4,523(9.5)8,460(35.6)
その他5,345(7.5)984(2.1)4,361(18.4)
役職一般55,939(78.3)35,673(74.8)20,266(85.4)
課長クラス8,888(12.4)8,255(17.3)631(2.7)
部長クラス以上2,329(3.3)2,274(4.8)55(0.2)
その他4,266(6.0)1,478(3.1)2,788(11.7)
職種営業販売職8,894(12.5)7,896(16.6)998(4.2)
専門技術職18,100(25.3)14,104(29.6)3,996(16.8)
事務職26,432(37)13,494(28.3)12,939(54.5)
その他17,996(25.2)12,187(25.6)5,809(24.5)
勤務形態一般56,038(78.5)37,404(78.4)18,634(78.5)
フレックス3,672(5.1)2,921(6.2)751(3.2)
交替制(深夜あり)7,540(10.6)5,554(11.6)1,986(8.4)
交替制(深夜なし)2,071(2.9)650(1.4)1,421(6.0)
裁量879(1.2)733(1.5)146(0.6)
その他1,222(1.7)418(0.9)804(3.4)
業種建設業10,196(14.3)8,364(17.5)1,832(7.7)
製造業24,932(34.9)21,333(44.7)3,599(15.2)
医療・福祉・サービス12,529(17.5)3,898(8.2)8,631(36.4)
公的機関職員16,459(23.0)8,585(18.0)7,874(33.2)
その他7,306(10.2)5,500(11.5)1,806(7.6)

高ストレス者と判定された者の割合,また個人・就労関連要因の層別の割合についてカイ二乗検定を行った結果を図2表2に示す.全体では,合計法11.7%(8,364人),換算法13.2%(9,431人),男性では,合計法10.8%(5,166人),換算法12.4%(5,916人),女性では,合計法13.5%(3,198人),換算法14.8%(3,515人)であり,全体,男性・女性のいずれでも,合計法より換算法のほうが多く高ストレス者と判定されていた(p<.001).また,個人・就労要因別では,すべての個人・就労要因において,合計法と換算法で高ストレス者判定割合に有意な違いが見られ(p<.001),ほぼすべての要因において合計法より換算法のほうが多く高ストレス者と判定されていた.

図2.

判定方法ごとにみた高ストレス者判定割合(%)

表2. 合計法と換算法による高ストレス者判定割合(個人・就労関連要因別)
全体(n=71,422)男性(n=47,680)女性(n=23,742)
総数合計法換算法p値総数合計法換算法p値総数合計法換算法p値
性別男性47,68010.8%12.4%***
女性23,74213.5%14.8%
年代20代以下9,53212.6%13.9%***5,56411.1%12.2%***3,96814.8%16.2%***
30代15,57112.7%14.4%10,13512.1%14.0%5,43613.8%15.3%
40代23,39913.1%14.9%16,04512.3%14.0%7,35414.8%16.7%
50代17,54510.4%11.9%12,2289.7%11.4%5,31712.1%13.0%
60代以上5,3755.5%5.7%3,7084.6%4.9%1,6677.6%7.5%
雇用形態正社員53,09411.7%13.4%***42,17311.0%12.7%***10,92114.5%16.0%***
契約社員・嘱託12,98312.1%13.3%4,5239.6%10.6%8,46013.5%14.8%
その他5,34510.4%11.3%9849.2%9.5%4,36110.8%11.8%
役職一般55,93912.6%14.1%***35,67311.8%13.5%***20,26613.9%15.2%***
課長クラス8,8888.8%10.4%8,2558.5%10.1%63313.1%14.4%
部長クラス以上2,3294.9%6.3%2,2744.0%6.2%559.1%10.9%
その他4,26610.2%11.0%1,4788.7%9.5%2,78810.9%11.8%
職種営業販売職8,89411.5%12.8%***7,89610.7%12.1%***99817.2%18.1%***
専門技術職18,10010.1%11.2%14,1049.2%10.5%3,99612.9%13.8%
事務職26,43212.5%14.2%13,49412.0%13.8%12,93913.1%14.6%
その他17,99612.3%14.0%12,18711.5%13.3%5,80914.0%15.4%
勤務形態一般56,03811.6%13.1%***37,40410.7%12.3%***18,63413.2%14.6%***
フレックス3,67210.1%11.5%2,92110.0%11.3%75110.5%12.5%
交替制(深夜あり)7,54013.5%15.5%5,55412.1%14.2%1,98617.2%19.1%
交替制(深夜なし)2,07114.2%14.1%65013.4%12.8%1,42114.6%14.8%
裁量8798.9%9.9%7338.0%9.1%14613.0%13.7%
その他1,2229.9%10.3%41810.5%10.8%80411.0%10.7%
業種建設業10,19612.1%13.0%***8,36411.9%12.8%***1,83213.2%13.6%***
製造業24,9329.7%11.3%21,3339.7%11.4%3,5999.6%10.8%
医療・福祉・サービス12,52913.9%15.1%3,89812.0%12.6%8,63114.7%16.2%
公的機関職員16,45913.8%15.7%8,58513.3%15.6%7,87414.3%15.9%
その他7,3069.6%11.0%5,5009.0%10.5%1,80611.6%12.5%

***p<.01

合計法・換算法による高ストレス者判定結果の組み合わせを4群に分類した結果を表3に示す.全体における4群の内訳は,A群(合計法・換算法ともに高ストレス者)が10.5%,B群(合計法でのみ高ストレス者)が1.2%,C群(換算法でのみ高ストレス者)が2.7%,D群(合計法・換算法とも高ストレス者非該当)が85.6%で,判定法によって結果が異なる者(B群及びC群)の割合は3.9%であった.男女別にみると,男性では,A群が9.7%,B群が1.1%,C群が2.7%,D群が86.5%であった.女性では,A群が12.1%,B群が1.4%,C群が2.7%,D群が83.8%であった.

表3. 判定結果の組み合わせごとにみた対象者の分布
合計法換算法全体男性女性
n=71,422n=47,680n=23,742
n(%)n(%)n(%)
A群高ストレス者高ストレス者7,514(10.5)4,643(9.7)2,871(12.1)
B群高ストレス者非該当850(1.2)523(1.1)327(1.4)
C群非該当高ストレス者1,917(2.7)1,273(2.7)644(2.7)
D群非該当非該当61,141(85.6)41,241(86.5)19,900(83.8)

A~D群における,ストレス反応の各下位尺度の平均値について,男女別に比較を行った結果を表4(男性),表5(女性)に示す.判定結果が異なる者(B群及びC群)の間でのストレス反応の各下位尺度の平均値は,合計法では,男女ともB群はC群より「身体愁訴」が有意に高かった(p<.001).一方,換算法では,男女ともC群はB群よりも「活気の低さ」「イライラ感」「疲労感」「不安感」が有意に高かった(p<.001).

表4. ストレス反応各下位尺度の平均値(男性)
項目数得点
範囲
A群
どちらも
高ストレス者判定
B群
合計法のみ
高ストレス判定
C群
換算法のみ
高ストレス判定
D群
どちらも非該当
BC群間の
有意差
p値)
n=4,643n=523n=1,273n=41,241
平均±SD平均±SD平均±SD平均±SD
合計法
活気の低さ33–1210.61±1.758.63±2.1210.55±1.648.09±2.12***
イライラ感33–129.14±2.077.47±1.878.37±1.875.81±1.94***
疲労感33–1210.02±1.808.35±1.868.69±1.885.99±1.98***
不安感33–129.58±1.757.76±1.548.54±1.785.88±1.83***
抑うつ感66–2417.03±3.3115.02±3.1613.91±2.779.31±2.84***
身体愁訴1111–4427.15±5.8728.56±6.9720.78±4.1717.21±4.34***
換算法
活気の低さ31–54.14±0.983.03±1.064.13±0.922.81±0.98***
イライラ感31–54.13±0.863.41±0.853.88±0.832.65±1.01***
疲労感31–54.36±0.653.72±0.703.95±0.702.87±0.93***
不安感31–54.40±0.713.59±0.694.07±0.812.86±0.90***
抑うつ感61–54,47±0.654.04±0.763.91±0.762.47±1.00
身体愁訴111–54.35±0.794.38±0.853.48±0.842.73±0.89***

※点数が高いほど不良であることを示す.

※BC群間の有意差は,A~D群の平均値について,Kruskal Wallis検定にて4群間に有意差があることを確認後,Bonferroni法による多重比較により算出した(**p<.05, ***p<.01)

表5. ストレス反応各下位尺度の平均値(女性)
項目数得点
範囲
A群
どちらも
高ストレス判定
B群
合計法のみ
高ストレス判定
C群
換算法のみ
高ストレス判定
D群
どちらも
非該当
BC群間の
有意差
p値)
n=2,871n=327n=644n=19,900
平均±SD平均±SD平均±SD平均±SD
合計法
活気の低さ33–1210.72±1.629.13±1.9310.76±1.568.23±2.21***
イライラ感33–129.15±2.127.34±2.118.29±1.965.80±2.01***
疲労感33–1210.45±1.728.75±2.089.17±1.966.29±2.11**
不安感33–129.34±1.867.61±1.788.07±1.825.46±1.82***
抑うつ感66–2416.35±3.4313.90±3.2413.25±2.619.07±2.70***
身体愁訴1111–4428.34±5.2829.37±5.3522.32±3.7718.73±4.56***
換算法
活気の低さ31–54.20±0.933.28±0.984.17±0.902.88±1.05***
イライラ感31–54.13±0.883.34±0.973.88±0.842.64±1.03***
疲労感31–54.50±0.633.86±0.794.01±0.813.00±0.94***
不安感31–54.31±0.763.54±0.784.01±0.812.65±0.95***
抑うつ感61–54.34±0.713.73±0.773.86±0.752.41±0.98
身体愁訴111–54.53±0.694.58±0.683.57±0.833.02±0.90***

※点数が高いほど不良であることを示す.

※BC群間の有意差は,A~D群の平均値について,Kruskal Wallis検定にて4群間に有意差があることを確認後,Bonferroni法による多重比較により算出した(**p<.05, ***p<.01)

B群とC群における,ストレス反応の合計得点に占めるストレス反応の各下位尺度の得点の割合を図3(男性),図4(女性)に示す.合計法によるストレス反応尺度得点の下位尺度の得点割合では,高ストレス者判定であったB群において,身体愁訴の得点が男性で37.9%,女性で38.4%を占めていた.

図3.

ストレス反応尺度得点に占める下位尺度の得点割合(男性)

図4.

ストレス反応尺度得点に占める下位尺度の得点割合(女性)

IV. 考察

本研究は,複数の企業で実施されたストレスチェック結果を用い,判定方法が異なることで生じる高ストレス者判定結果の差異について検討した.その結果,高ストレス者と判定された割合は,合計法で11.7%,換算法で13.2%であり,個人・就労関連要因においても同様の傾向がみられた.

本研究では,合計法・換算法間で判定結果が一致しない者が全体で3.9%(2,767人)確認されている.合計法により高ストレス者と判定された者を換算法で再判定した場合,そのうちの10.2%(8,364人中850人)が高ストレス者と判定されないことになる.同様に,換算法で高ストレス者と判定された者を合計法で再判定を行った場合,20.3%(9,431人中1,917人)の者が高ストレス者と判定されないことになる.すなわち,すでに高ストレス者と判定されている者のうち10.2~20.3%の者は,判定方法を変更した場合,判定結果が覆ることになる.このように捉えると,判定方法が高ストレス者判定に与える影響は,必ずしも小さくはないと考えられる.

ストレス反応の各下位尺度を比較した結果,合計法のみ高ストレス者判定となるB群では,換算法のみ高ストレス者判定となるC群に比べ,「身体愁訴」が不良であった.合計法では,質問項目数の違いが調整されないため,項目数が他の尺度よりも多い「身体愁訴」の得点が,ストレス反応の合計点においてより大きな割合(男性:37.3%,女性:38.4%)を占める.そのため,合計法では,身体愁訴の得点が他の5つの下位尺度に比べ,高ストレス者判定に対する寄与が大きい可能性が考えられる.一方,換算法でのみ高ストレス者判定となるC群では,B群と比べ,各下位尺度の得点がストレス反応に占める割合は,比較的均一となっている(男性:15.0%~20.2%,女性:14.2%~18.4%).換算法では,尺度ごとに標準化得点に置き換えるため,質問項目数の違いによる影響が排除されている可能性が考えられる.

2つの判定方法の違いを検討した先行研究として,堤は1企業を対象にした縦断研究により,合計法と換算法による高ストレス者判定は,いずれも傷病休暇の予測妥当性に差がないことを報告している7.一方,下光は,合計法について,「抑うつ」「不安」「疲労」などの心理的ストレス反応項目と「めまい」「肩こり」「動悸」などの身体愁訴項目をひとまとめにして評価するため「抑うつ」「不安」などの識別性の高い尺度得点が総合点の中で埋没してしまうことが問題であると指摘している3.現時点では2つの方法があり,それぞれにメリットとデメリットがあるが,両判定方法が併存することにより生じる混乱を避けるためにも,中・長期的にはできるだけどちらかの方法に統一されることが望ましいかもしれない.また同一の回答であっても合計法より換算法で高ストレス者判定割合が高いことは,各事業所・企業等が高ストレス者判定割合を他の事業所・企業等と比較する場合や,特定集団を経年比較する場合にも問題となる可能性がある.すなわち,合計法で算出された高ストレス者判定割合と,換算法で算出された割合を,単純に数値のみで比較してしまうと,正しく比較できず誤った判断をする恐れがある.したがって,高ストレス者判定割合について議論し,何らかの比較を行う場合には,各数値がどちらの判定方法により算出されたかを必ず確認するとともに,どちらの判定による割合なのか明記しておくことが重要である.

本研究の限界点として,以下の2点が挙げられる.まず,本研究の目的は,高ストレス者判定結果の乖離を明らかにするものであり,どちらの判定方法が優れているか,については言及できない.よって,今後追跡調査を重ね,健康アウトカムに対する予測妥当性の検証を行うことが必要である.次に,本研究は質問票調査の結果を分析したものであり,メンタルヘルス関連疾患の発症などの健康アウトカムとの関連が検討されていない.判定方法間に見られる差異が,健康アウトカムにもたらす影響については,今後縦断データを用いて,関連性・因果性を検討する必要がある.

合計法と換算法のどちらが予測的妥当性に優れているかのエビデンスは現時点では不足している.今後の展望としては,多業種を含むデータを用い,判定方法の違いと,疾病休業のみならず様々な健康アウトカムとの関連を検討した縦断研究を行っていく必要がある.

V. 結論

高ストレス者と判定される割合は,合計法より換算法で1.5%高く,対象者の3.9%は,2つの方法間で判定結果が異なっていた.さらに,合計法では換算法に比べ,身体愁訴の得点が高い対象者が高ストレス者と判定されやすい傾向が明らかになった.このように,判定結果の差異が2つの方法間にみられることから,ストレスチェック実施事業場においては高ストレス者判定割合と合わせて高ストレス者判定の算出方法を付記する必要がある.今後はどちらの判定方法がより健康障害を予測するかに関する知見の蓄積が望まれる.

利益相反

利益相反自己申告:申告すべきものなし

文献
  • 1)  改正労働安全衛生法に基づくストレスチェック制度について.厚生労働省安全基準局安全衛生部労働衛生課産業保健支援室.[Online]. 2015 [cited 2020 Jan 27]; Available from: URL: https://www.mhlw.go.jp/bunya/roudoukijun/anzeneisei12/pdf/150422-1.pdf
  • 2)  労働安全衛生法に基づくストレスチェック制度実施マニュアル.厚生労働省安全基準局安全衛生部労働衛生課産業保健支援室.[Online]. 2015/2019 [cited 2019 Dec 27]; Available from: URL: https://www.mhlw.go.jp/content/000533925.pdf
  • 3)  下光輝一.特集「ストレスチェック制度」を企画するにあたって~ストレスチェック制度の成り立ちから考える~.ストレス科学研究.2016;31:1–5.
  • 4)  下光輝一.原谷隆史.中村 賢.ほか.主に個人評価を目的とした職業性ストレス簡易調査票の完成.労働省平成11年度「作業関連疾患の予防に関する研究」労働の場におけるストレス及びその健康影響に関する研究報告書.2000;126–64
  • 5)  現行の日本標準産業分類 平成25年[2013年]10月改定(第13回改定)(平成26年4月1日施行).総務省政策統括官(統計基準担当)付統計基準・産業連関表・調査技術担当統計審査官室
  • 6)  R Core Team. R: A language and environment for statistical computing. R Foundation for Statistical Computing, Vienna, Austria. [Online]. 2018 [cited 2019 May 17]; Available from: URL: https://www.R-project.org/
  • 7)  堤 明純.科学的根拠によるストレスチェック質問票と判定基準の設定 厚生労働省厚生労働科学研究費補助金労働安全衛生総合研究事業 ストレスチェック制度による労働者のメンタルヘルス不調の予防と職場環境改善効果に関する研究 平成27~29年度総合研究報告書.主任研究者 川上憲人.p. 240–74.[Online]. 2018 [cited 2019 Nov 15]; Available from: URL: https://mental.m.utokyo.ac.jp/jstress/H27_29ストレスチェック班総合報告書.pdf
 
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