産婦人科の進歩
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総説
周産期医療と漢方
後山 尚久
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2003 年 55 巻 3 号 p. 299-321

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抄録

一般に妊娠中の薬物の使用については,胎盤通過性の問題もあり,その催奇形性や胎児発育への関与に関心が払われている.そこで,妊娠中は,患者側からの要望もあり比較的漢方治療の場面が多い.もっとも頻繁に漢方薬が処方されるのは,風邪,つわり,切迫流産,妊娠中毒症,貧血などである.妊娠そのものが非生理的であり,陰血証(いんけつしょう)である.これに脾胃虚(ひいきょ)や気虚(ききょ)が加わり,種々の症状を呈すると理解されることから妊娠中の症状は漢方医学で説明されやすい.「つわり」にしても程度が異なり,妊娠中毒症でもさまざまな病型がみられるのも,漢方医学的な観点からさまざまな病態が存在するためであり,漢方医療の適応となりやすい.  妊娠に対する安胎(あんたい)薬の代表は当帰散(とうきさん)や白朮散(びゃくじゅつさん)であるが,生薬としては人参(にんじん),黄耆(おうぎ),艾葉(がいよう),香附子(こうぶし),杜仲(とちゅう),冬虫夏草(とうちゅうかそう)などがある.したがって,当帰芍薬(とうきしゃくやく)散やきゅう帰膠艾湯(きゅうききょうがいとう)は切迫流早産によく用いられる.妊娠中毒症には葵子茯苓散(きしぷくりょうさん),柴苓湯(さいれいとう),風邪に香蘇散(こうそさん),参蘇飲(じんそいん),便秘に桂枝(けいし)加芍薬(しゃくやく)湯,貧血に当帰芍薬(とうきしゃくやく)散,産褥期の子宮復古不全,乳中分泌不全にきゅう帰調血飲(きゅうきちょうけついん)が選択薬として望ましい.  漢方薬の安胎(あんたい)効果を知り,妊娠中の諸疾患に漢方薬を適切に用いることは,少産時代における女性の質の高い産前産後生活に貢献すると思われる.〔産婦の進歩55(3):299-321,2003(平成15年8月)〕

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© 2003 近畿産科婦人科学会
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