2011 年 63 巻 4 号 p. 483-487
羊水塞栓症(amniotic fluid embolism: AFE)の血清学的診断は,本邦独自の方法である.現在,日本産婦人科医会の事業として,母体血清中のSialyl Tn(STN)とZinc coproporphyrin1 (Zn-CP1)の測定が浜松医科大学において実施されている.1992年~2006年までに登録され,血清データが存在するAFE128症例と非AFE 73症例の合計201症例を対象として,AFEにおける血清マーカーSTNとZn-CP1の有用性を検討した.χ2検定において,STN 47U/ml,Zn-CP1 1.6pmol/mlの閾値設定により,AFE群STN値(p=0.00003)およびZn-CP1値(p=0.00953)測定は,非AFE群と比較し有意差を認めた.Mann-Whitney検定において,AFE群の母体血清STN値は,非AFE群に比し有意に高値を示した(p=0.0011)が,Zn-CP1値は有意差を認めなかった(p=0.0994).またAFE診断における母体血清STNとZn-CP1値の感度・特異度は,それぞれ25.8%,97.3%と45.9%,73.0%であった.以上の結果より,AFEの血清学診断としてのSTNとZn-CP1値測定は,有用な方法であった.しかし,これら血清マーカー値のみによりAFEと診断すべきではない.本検査法は,胎児成分の1つである胎便が母体血中に流入したか否かのみをみるためのものである.さらに,この研究対象の母集団は,自発的に登録されたAFE群および非AFE群であり,本邦におけるすべてのAFE群および非AFE群を網羅したものでもない.現状においては本血清学的診断法は補助診断法として使用し,AFE診断は臨床診断により慎重に判断されるべきである.〔産婦の進歩63(4):483-487,2011(平成23年11月)〕