子宮頸部細胞診を機に発見し,早期に加療しえたendometrial intraepithelial carcinoma(以下,EIC)の症例を報告する.症例は子宮頸部細胞診にてクラスIV,ベセスダシステムにてAGC-favor neoplasticと診断された60歳女性である.経腟超音波上,5cm大の子宮筋腫の他は婦人科的に特記すべき所見を認めず,子宮内膜も萎縮様であった.再検した子宮頸部および子宮内膜細胞診では結合性が強く高度核異型を示す小型異型細胞を認め,組織診でも比較的小型の異型細胞の乳頭状発育を認めたが,組織は断片化しており初期の類内膜腺癌と診断し単純子宮全摘出術および両側付属器摘出術を施行した.術後,萎縮した内膜表層上皮の一部に高度核異型や核分裂像,核崩壊像を伴う低乳頭状に増生する領域を認めたが,浸潤像はなくEICと診断した.EICは漿液性腺癌の前駆病変である.子宮体癌の中では漿液性腺癌は比較的まれであり,類内膜腺癌とは対照的に萎縮内膜を背景に発生すること,臨床的所見に乏しい場合でも病変が進展していることが特徴的である.子宮内膜組織診時に得られる小さな生検検体では診断は困難であるが,腺管乳頭状構造がよく形成され,充実性成分がほとんどないのに細胞異型が異様に強い場合には漿液性腺癌を疑う必要があるとされている.また類内膜腺癌や明細胞癌などと混在する場合もある.本組織型は,内膜に限局している早期の症例でも腹腔内の転移・再発が懸念されるため,患者と家族に対し追加治療を促したが,同意を得られず経過観察とした.術後30カ月で胸膜および腹膜再発を認めたため,現在PTX+CBDCAにて加療中,PRの状態である.今回はTC療法を選択し奏効しているが,漿液性腺癌に対する標準治療はいまだ確立されておらず,今後の知見の蓄積が待たれる.〔産婦の進歩64 (3) :319-325, 2012 (平成24年9月)〕