産婦人科の進歩
Online ISSN : 1347-6742
Print ISSN : 0370-8446
ISSN-L : 0370-8446
症例報告
脳腫瘍を合併したmyomatous erythrocytosis syndromeの1例
中川 江里子西崎 孝道野田 穂寿美根來 英典玉井 正光森田 隆子宮尾 泰慶辻 求
著者情報
ジャーナル 認証あり

2015 年 67 巻 3 号 p. 291-300

詳細
抄録

貧血精査の目的で内科から婦人科に紹介されることはよく経験することであるが,今回,内科にて赤血球増多症の精査中にCT検査で巨大下腹部腫瘤と脳腫瘍が同時に発見され,最終的にmyomatous erythrocytosis syndromeと診断された症例を経験したので報告する.症例は52歳,未経妊未経産で50歳で閉経していた.赤血球増多症にて近医より当院血液内科に紹介されたが,初診時血液検査でHb20.4g/dl,Hct62.2%,エリスロポエチン32.1 mIU/mlと続発性赤血球増多症の所見がみられた.全身のCT検査で前頭蓋底に径4cm,腹腔内に径18cmの腫瘤が発見された.MRI検査では腹部巨大腫瘤は子宮筋腫との診断であった.MRIの所見および腫瘍マーカーやLDHの上昇がないことから子宮平滑筋肉腫の可能性は低いと考えられたが,腫瘤が巨大であったことおよび閉経後の増大の訴えもあったため悪性の可能性を否定できなかった.脳腫瘍と腹部腫瘤のどちらを先に治療するかを脳神経外科と検討したが,脳腫瘍は悪性の可能性が低いとの意見で腹部腫瘤の治療を優先した.開腹手術で単純子宮全摘出術および両側付属器摘出術を施行した.術後赤血球増多症は改善し,エリスロポエチン値も3.3 mIU/mlと低下した.子宮腫瘍の病理組織診断は平滑筋腫であった.抗エリスロポエチン抗体による免疫染色を行ったところ,腫瘍性平滑筋細胞の細胞質がび漫性に染色されたものの,正常平滑筋細胞の一部で非特異的に染色が認められたため,明らかな陽性所見とは断定できなかったが,平滑筋腫がエリスロポエチンを産生していることが示唆された.また,その後脳外科にて前頭蓋底の腫瘍摘出術が行われ,摘出腫瘍の病理診断は髄膜皮性髄膜腫(WHO gradeI)であった.腫瘍に対する抗エリスロポエチン抗体による免疫染色の結果は陰性であった.まれではあるが赤血球増多症を伴う子宮筋腫があることを念頭において子宮筋腫の治療方針を考えていくことが必要であると思われた.〔産婦の進歩67(3):291-300,2015(平成27年8月)〕

著者関連情報
© 2015 近畿産科婦人科学会
前の記事 次の記事
feedback
Top