2020 年 73 巻 1 号 p. 54-61
通常絨毛膜下血腫は妊娠初期~中期に発生するとされている.子宮筋層と卵膜との間に生じる血液貯留であり,胎児発育不全や胎児死亡と関連する.妊娠後期に発生した3例の絨毛膜下血腫を経験し,常位胎盤早期剥離との鑑別にMRIが有用であったので報告する.症例1:31歳,初産婦,妊娠32週0日に突然の腹痛が出現した.経腹超音波検査で胎盤近傍に血腫を確認した.MRI撮像し一部急性の所見はあるが陳旧性の絨毛膜下血腫と診断し,待機的管理の後,妊娠34週6日で陣痛発来し経腟分娩となった.児の予後は良好であった.症例2:36歳,2妊1産で帝王切開分娩1回.妊娠28週3日,右下腹部痛が出現した.経腹超音波検査で胎盤近傍に血腫を確認した.MRIから急性期の絨毛膜下血腫と診断した.絨毛膜下血腫の増大なく経過し,妊娠38週3日で予定帝王切開となった.児の予後は良好であった.症例3:36歳,3妊1産.妊娠33週5日,夜間に破水感および性器出血あり.入院時には明らかな血腫の所見は認めず待機的管理とした.妊娠34週2日に再度性器出血あり,経腹超音波検査で子宮後壁に血腫を疑う所見を認め,MRIで胎盤横に急性期と考えられる絨毛膜下血腫を確認した.同日陣痛発来し経腟分娩となり,児の予後は良好であった.絨毛膜下血腫は早産・FGRなどの周産期異常を合併することがあり,とくに妊娠後期に発生する場合は常位胎盤早期剥離との鑑別も要する.MRI撮像により血腫の位置,大きさ,血腫の形成時期などを正確に判断できる.常位胎盤早期剥離でみられる胎盤後血腫と胎盤近傍にできる絨毛膜下血腫を鑑別することができ,母児の状態を不良にさせることなく妊娠期間延長や経腟分娩などの管理を行うことができた.妊娠後期に下腹部痛を伴う胎盤近傍の血腫を認めた場合には,絨毛膜下血腫の存在も考慮すべきであり,方針決定の上でMRIは有用であると考えられた.〔産婦の進歩73(1):54-61,2021(令和3年2月)〕