2022 年 74 巻 1 号 p. 27-31
子宮筋腫の治療薬としてGnRHアゴニストが広く使用されているが,添付文書上,脳血管/心血管イベントや静脈血栓症の発症リスクがあると記載されている.今回われわれが経験した症例は,両側内頸動脈狭窄症を有し重症貧血を伴う粘膜下筋腫の症例であり,GnRHアゴニストではなくGnRHアンタゴニスト製剤を選択した.症例は47歳,2妊2産(経腟分娩2回).過多月経,貧血症状を主訴に当院を受診した.初診時に経腟超音波断層法にて粘膜下筋腫と考えられる最大長径90 mmの腫瘤を認めた.骨盤MRI検査で子宮体部に最大長径86 mmの腫瘤を認め,粘膜下筋腫と診断した.血液検査でHb 5.4g/dlと高度貧血を認め手術療法を施行する方針となった.また頭部MRA検査では両側内頸動脈の高度な狭窄を認め,当院脳神経外科共観のうえ,エストロゲン・プロゲステロン配合薬は使用せず,鉄剤注射のみで治療を行ったが,貧血は改善しなかった.その後経口GnRHアンタゴニスト(Relugolix)40 mg/dayを開始し,投与後性器出血は止まり,Hb 12.3g/dlと貧血は改善した.また術直前のMRI検査にて腫瘍腫瘤径は最大長径60 mm程度へ縮小を認めた.手術術式については,腹腔鏡下手術の頭低位による脳循環への悪影響もあることから,開腹手術の方が安全であることを説明した.しかし本人の腹腔鏡下手術の強い希望があったため,腹腔鏡下子宮全摘出術を施行し,術後5日目に軽快退院となった.前立腺がん患者において,GnRHアゴニストは血栓塞栓症のリスクを増加させることが知られているが,婦人科良性疾患に対するGnRHアゴニスト使用に伴う血栓塞栓症はこれまで5例のみ報告されている.添付文書の記載を考慮すると,本症例のように脳梗塞のリスクが高い症例ではGnRHアゴニストではなくGnRHアンタゴニストが有力な選択肢と考えられるが,婦人科良性疾患に対して真にGnRHアンタゴニストの方が血栓塞栓症のリスクが低いのかについては,今後,多数例におけるエビデンスが必要である.〔産婦の進歩74(1):27-31,2022(令和4年2月)〕