抄録
本稿では,1960 年代以降,企業社会と地域経済における複数事業所企業の成長性を明らかにする。企業社会では,高度経済成長期及び安定成長期に法人企業の内,複数事業所企業群が単独事業所企業群より高い成長性(従業員数の変化)を持っている点を,低成長期には前者が成長しているのに対し後者は減少している点を明らかにする。その結果を受けて,複数事業所企業群の成長が個別の地域経済の成長にもつながっている点に注目し,複数事業所企業の支店の内,県内支店と他県から受入支店の展開を区別し,両者は3 大都市の周辺県で量的に大きく伸び,地方の県でも支店展開の影響が大きいことを浮き彫りとする。この研究の成果によれば,特に低成長期という停滞的な経済の下でも成長を
より強く志向する複数事業所企業・中小企業の経営者が一定数存在し,彼らは支店展開を通じて成長を実現し,結果的に地域経済の成長も規定しているという点を示唆する。