社会経済史学
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兵士はどこへ行くのか : 禁軍兵士への保障からみた北宋募兵制の一側面
齋藤 忠和
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2007 年 73 巻 3 号 p. 261-282

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抄録

北宋禁軍が募兵制によったことは周知である。しかし,募兵制の根幹に関わる,軍隊社会を巡る人の流れさえ,なお漠然としている。加えて,宋が軍事大国であったとの認識も乏しい。これまで,「兵士はどこから来るか」についてはある程度考察されてきたが,「兵士はどこへ行くのか」については,剩員・帶甲剩員制,漏澤園を論じた拙論があるにすぎない。また,軍隊の社会的性格も充分に考察されてこなかった。本稿では,旧稿の考察を踏まえ,募兵制を構成する諸制度のうち,陣亡(戦死)をはじめとする死亡,及び負傷・疾病の際の保障など,禁軍兵士の行く末に関わる部分,すなわち禁軍社会の出口部分を考察した。全てではないが,北宋禁軍は,陣亡の際の子弟の採用・遺体の収容・埋葬・慰霊・年金支給以下,負傷者・病死者・疾病者などに各種の手厚い保障があり,「兵士」が生涯を支えうる職業たるべき待遇が墓場に至るまで整えられ,上位の禁軍については終身雇用もなし得る制度を整えていたのである。たとえそれが仮構であったとしても,傭兵の域を越えた近代的常備軍を一部で実現・維持していたと言える。

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© 2007 社会経済史学会
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