社会経済史学
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戦前期日本の炭鉱業における坑木調達 : 産業化と木材利用
山口 明日香
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2008 年 73 巻 5 号 p. 485-508

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抄録

近代日本の産業化の過程において,エネルギーあるいは資材としての木材は,需要の変化や供給不足が顕著になるにつれて産業の制約条件となり,各産業にとって木材の安定的確保は重要な課題となった。本稿の目的は,主要産炭地であった九州地域に焦点をあて,炭鉱業における坑木の調達及び利用方法について検討し,産業化の一側面を明らかにすることにある。九州の諸炭鉱では,1890年代以降の筑豊炭田の開発を契機として坑木の入手競争が激化し,さらに第一次大戦期にいっそう拡大した坑木需要に対応するため,炭鉱各社は資材調達の集中化を図り,炭鉱会社間で資材問題の討議機関を組織した。1920年代以降,炭鉱各社において合理化が推進されるようになると,安価な小径木や鉄製支柱の利用などにより坑木の節約が図られた。しかし,1933年以降,出炭量が急増すると,新坑開発や乱掘の進行,鉄鋼材の不足,他産業との木材入手競争の激化などにより坑木難は深刻化した。国内の木材市場が逼迫する状況下で,新たな対応策が模索されるようになったが,坑木難は解消されず,坑木の確保は依然として炭鉱業の重要な制約条件であった。

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