社会経済史学
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戦前日本における乳児死亡問題と愛育村事業
斎藤 修S
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2008 年 73 巻 6 号 p. 611-633

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抄録

両大戦間の時代,所得格差が拡大し,政府の公衆衛生投資が進まないなかで,農村の乳児死亡率は低下をしていた。この問題についての優れた研究である伊藤繁の1998年論文(本誌第63巻6号)は,1930年以前の府県統計によって「近代産婆」の供給がその低下を説明することを明らかにした。本稿では,助産婦数の伸びは加速せず,死産率の改善が減速しつつあったにもかかわらず,新生児後(ポスト・ネオネイタル)死亡率の低下は著しかった1930年以降を対象に,その時期に展開した愛育会の事業を乳児死亡率と死産率のデータによって検討する。その結果は,愛育村は村内女性の組織化をとおして新生児後(ポスト・ネオネイタル)の死亡を減少させることのできる仕組で,それは近代産婆の貢献と基本的に同一であったこと,しかし他方で,死産率の低下は順調ではなかったこと,すなわち母胎の健康状態に起因する死産をさらに減少させることは,農家女性の労働負担に顕著な軽減がないかぎり難しかったことを示唆する。

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© 2008 社会経済史学会
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