社会経済史学
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第一次世界大戦におけるイギリス製鋼業の戦時統制
渡邊 吉人
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2008 年 74 巻 4 号 p. 387-403

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抄録

本稿の目的は,第一次世界大戦におけるイギリス製鋼業に対する戦時統制の枠組みや問題点を明らかにすることにある。製鋼業の統制は主に軍需省-素材部鋼生産課(後の鉄鋼生産部)-が担い,終戦まで続いた。統制が本格化する契機は砲弾用鋼の不足によってもたらされた。軍需省は競合する鋼の需要に効率よく対処するため,供給と生産の両面で割当制を採り入れたほか,上限価格の設定や補助金の交付を通じて,鋼の値上がりを防ぎ,取引の安定を図った。また,輸出の抑制と輸入の拡大も試みられた。軍需省が力を入れたのが生産設備の増強である。設備投資を促すため,製鋼業者への公的な貸付など様々な支援策が実施された。その結果,戦時中,膨大な需要は辛うじて満たされたものの,各所で様々な問題が生じた。例えば,人為的な価格体系は複雑を極め,国庫への負担が膨れ上がった。生産設備の拡充計画も大半が所定の期日に完了せず,増産が遅れた。特に留意すべきは過剰な生産能力が戦後に残され,1920年代の鉄鋼不況を深める一因となったことである。

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