社会経済史学
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太平洋戦争末期の合併交渉 : 信越化学と大同化学のケース
加藤 健太
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2009 年 74 巻 5 号 p. 425-446

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抄録

本稿では,信越化学と大同化学を題材にして,利害関係者の主張と行動に焦点を当てながら,太平洋戦争末期の合併交渉を検討した。その分析結果は,次の通りである。第1に,大同化学をめぐる企業間関係は,日本合成化学による買収,信越化学との「協力関係」の設定とその後の吸収合併といった具合に変遷し,安定性を欠いたが,重要物資の生産増強という視点から見れば,いずれも一定の合理性を有していた。第2に,大同化学の大株主である日本合成化学は,合併に伴う損失の回避のため,株主総会の場で信越化学との合併に強硬な反対姿勢を示した。同社の主張は,合併の方法や条件に反映されなかったから,出資先企業の意思決定に対する権利は著しく制限されたと言える。しかし,大株主が,所有権に基づいて自らの権利を訴えたことは重要と考えられる。最後に,軍需省は,合併条件の設定に際して,非常時である点を強調し,大同化学に不利な条件を押し付ける形で決着をつけた。敗戦が目前に迫った1945年4月時点では,当事会社の利害を調整しながら,公正な条件を導き出すことは極めて困難だったのである。

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