社会経済史学
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近世後期瀬戸内農村における村内土地取引構造の研究 : 備後国芦田郡金丸村を事例に
平下 義記
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2012 年 78 巻 1 号 p. 75-97

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抄録

近年,質地関係を村内の融通手段とみる見解が主流である。しかし,その性格を規定する政治的・経済的諸契機や,構造的特質はさほど実証的に追究されているわけではない。そこで本稿は,瀬戸内農村の研究として近世後期の備後国芦田郡金丸村を取り上げて基礎的分析事例を提供したい。まず,村請制や商業的農業の規定性を考慮に入れつつ,村落構造と質地慣行の関係性を考察し,質地関係が,村外地主の土地集積や零細農の離村を防いでいたこと,村請制という支配の契機から集団的土地関与がなされていることを示した。さらに,村内土地取引データを分析し,村内の土地取引が,特定の階層に限定されずに重層的に展開しており,特に商人的性格をもつ中下層農民が重要な質取主であったこと,質地関係は概ね穏やかに解消される傾向にあることを実証した。以上より,商業的農業の進展と矛盾せずに一村内で完結する相互扶助的土地融通慣行は,村請制的支配下におかれた農民の生存を保障するモメントを強く内在するものであり,中下層農民の活発な質地取引にこそ,その基本線を認めうるものであった,と結論した。

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© 2012 社会経済史学会
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