社会経済史学
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戦時期における満洲分村移民送出と母村の変容 : 長野県諏訪郡富士見村を事例に
細谷 亨
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2014 年 80 巻 2 号 p. 149-171

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抄録

本稿の課題は,戦時期に展開された満洲への分村移民を,農家の移住形態と母村の変容過程に着目しつつ検討することでその歴史的特質を明らかにすることである。農家戸数と耕地面積の調整を意図した適正規模論にもとづく分村移民では,農村労働力流出の型でいえば挙家離村(全戸移住)が重視されていた。だが,親戚管理を通じた耕地処分のあり方にみられるように帰村を予定していた農家が多く,実際は母村からの農家世帯の流出はあまりみられなかった。家の存続と家産の保全を目的とする農家にとって分村移民は非現実的な政策にほかならなかったが,その一方で農家の家族移住者が相当数に及んだことは,労力不足による農業生産力の低下を招くなど送出後の母村・集落に与える影響は決して小さなものではなかった。かかる事態に対応すべく政策側は送出後の母村整備に着手していく。農家の対応と母村の政策遂行が密接な連関をもっており,そのことが分村移民の展開を強く規定していたのである。

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© 2014 社会経済史学会
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