社会経済史学
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遺言書に見る中世後期ロンドンのシルクウーマン
佐々井 真知
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2014 年 80 巻 2 号 p. 233-249

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抄録

シルクウーマンとは,中世後期イングランドで絹加工業に従事していた女性熟練工の総称である。本稿は,シルクウーマンの実像を,彼女たちの社会関係に注目して明らかにすることを目的とする。史料として15,16世紀ロンドンのシルクウーマン27名の遺言書を用いる。これらの遺言書を遺贈相手に注目して分析し,さらに同時代のロンドンの女性の遺言書および15世紀ロンドンの商工業者の一例である刃物工の遺言書と比較する。遺言書から,シルクウーマンは同業者,各種団体,地域,夫の同業者などを含む広範な個人・団体とのつながりを築いていたことがわかる。同時代のロンドンの女性が築いた社会関係と重複する部分が多いが,同業者および男性の友人への遺贈が多くの遺言書に見られる点が特徴的である。刃物工の遺言書と比較すると,同業ギルドを結成していなかったシルクウーマンは,各種団体に同業ギルドの役割を求めていたと推測される。従来の研究が示してきた,専門技術を持ち,同業ギルド不在で活動する女性熟練工というシルクウーマン像に,広範な社会関係を築いて活動していた女性という特徴を加えたい。

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© 2014 社会経済史学会
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