2014 年 80 巻 3 号 p. 315-328
本稿では,戦前期の都市(東京)における庶民金融の一端を,かつて東京市芝区に存在し,慶應義塾に隣接していたT質店を事例として検討した。T質店史料『人名簿』『質物台帳』を用いて,利用状況(第2節)・顧客の居住地(第3節)や職業階層(第4節)など,質屋利用者の実態の分析を試みた。まず利用状況としては,年末及び5月や6月の質入れが多く見られた。また従来の「貧窮時に質屋へ行く」というイメージの再検討の必要性を示唆した。顧客の居住地としては,芝区住民が大半を占めていたことから,地元密着型の質屋であることが確認されたが,次第に他区住民の割合が増加していた点にも注意が必要である。顧客の職業階層としては,当時芝区が工場地帯であったことから職工の利用人数が多かったが,取引金額については10数%を占めるに過ぎないことを示した。一方で学生は,人数はそれほど多くないにもかかわらず,取引金額は30%を超えており,慶應義塾に隣接するという立地条件を反映した結果を示した。