2017 年 2017 巻 49 号 p. 59-69
倉橋惣三は,大正から昭和前期にかけて日本の幼児教育思想を牽引した人物として知られている。彼の思想は,幼児に内在する自発性の尊重と,それを引き出す教師の導きによって特徴づけられる。本稿は,彼の幼児教育思想の中でも,幼児の音楽表現における自発性を彼がどのように捉えていたのかについて明らかにしようとするものである。倉橋は,幼児の音楽表現において,作品として成立している音楽を表現する場合と,幼児が音を用いて独自に表現する場合のどちらにも,幼児自身が自発性を発揮することが重要であると考えていた。また彼は,幼児が音楽表現の経験を重ねるうちに,技能面で向上させたいという欲求を持つ可能性も,自発性の発現として視野に入れていた。このように,彼における幼児の音楽表現観は,自発性概念を軸に統合されたあり方を示している。