スチルベン系蛍光増白剤は殆どの家庭用合成洗剤に添加されており、使用後は合成洗剤とともに環境中に放出されている生活環境汚染物質であるが、微生物による分解についての研究はされていない。私たちは前報でスチルベンを唯一の炭素源として生育する微生物は環境中にかなり広く存在していることを報告した。Pseudomonas sp. strain L-1はスチルベンを唯一の炭素源としてよく生育するが、スチルベンオキサイド、ベンゾイン、スチレン、スチレンオキサイドでは生育できない。また、ベンズアルデヒド、安息香酸、カテコール、p-ハイドロキシ安息香酸、プロトカテキュ酸でよく生育するが、その他のハイドロキシ安息香酸などでは生育できない。
これらの結果はスチルベンがL-1の生育炭素源となるにはスチルベンの二重結合が dioxygenase によって酸素が導入されて切断されベンズアルデヒドになることが必要であることを示している。ベンズアルデヒドおよび安息香酸の存在はHPLCとGC-MSによって確かめられた。スチルベンからベンズアルデヒドおよび安息香酸の生成はこの報告が最初である。
バクテリアによる安息香酸の分解はカテコールを経て開環され、やがてTCAサイクルにはいるのがもっともよく知られている。L-1もこの経路に従って安息香酸を分解したが、同時にP-ハイドロキシ安息香酸とプロトカテキュ酸を生成することが見出された。p-ハイドロキシ安息香酸はプロトカテキュ酸を経て開環、TCAサイクルにはいることは既に確かめられている。しかし安息香酸からp-ハイドロキシ安息香酸を生成する可能性は指摘されてはいるが、数例が報告されているのみである。L-1にこの経路が存在することが分解物中にカテコールとともにp-ハイドロキシ安息香酸、プロトカテキュ酸が検出されたことによって確かめられた。