サービソロジー
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特集:「サービス学の幕開け」
サービスとデザイン
中島 秀之
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2014 年 1 巻 1 号 p. 14-15

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1. サービスの定義

サービスとデザインの関係について述べたい.先ずはサービスとデザインのそれぞれの本質的定義を行い,それらの関係について述べる.

サービスという用語は岩波国語辞典第六版では

  • 客に対するもてなし.接待.優遇.「―のよい旅館」
  • 商売で,値引きしたり客の便宜を図ったりすること.「100円―しておきます」「アフター―」
  • 奉仕.「家庭―」
  • (競技用語)→サーブ.

  • と定義されている.一方英語のserviceは様々な意味に使われており,(他人や神への)奉仕の意味の他に,有用,尽力,(料理や技術の)提供,(列車などの)運行,兵役,施設などの様々な意味がある.Service scienceを考えるときには「接待」や「提供」だけではなく,この英語の豊富な意味を忘れてはならない.積まし,サービス科学(1)はサービス産業の分析に留まってはならない.

我々はサービスの本質は「提供と使用」にあると考えている.「Xサービス」とは「Xの提供(provision)と使用(utilization)」のことと定義する.

2. デザインの定義

数年前から科研費に「デザイン学」(2)という分野が加わった.私はこの主提案者であったので,私が作文した設立趣意書から引用する:

デザイン学は,社会工学,教育,芸術,医療,情報技術,建築,認知科学などの広い分野からの参加が必要な学際領域になっている.そのため,特定の既存細目中心に研究したのでは,デザイン学についての十分な研究が不可能である.これらの分野が相互作用することによる互恵が,むしろ重要である.

たとえば,情報技術の進歩は世の中を変えつつある.インターネットの出現はその好例であるが,それに留らず様々な新しい可能性を持っている.しかしながら,インターネット社会の仕組みの「デザイン」は技術のみに基づいて,ボトムアップになすべきではなく,様々な分野融合として,トップダウンに協同研究すべきものである.個々の要素技術分野においては,この「デザイン」という概念が捉えきれない(以下略)

デザインというのは上記のように意匠や芸術的意味合いを超えた,遥に広い意味を持ち,サービスにとっても重要な概念である.サービスは適切にデザインされなければならないが,これは従来の科学(既存のモノやシステムを分析研究するもの)を超えた方法論を必要としている.

3. サービスのループ

自然科学のように自然界に存在するものを分析的に理解する科学と異なり,サービスは構成的な営み(3)である.我々は構成的方法論を記述する仕組みとしてFNSダイヤグラム(4)を提案しているが,サービスをこれに当てはめると図1のようになる.C1, C2, C3はプロバイダの行為,C1.5は環境(ユーザを含む)との相互作用である.この相互作用により予期せぬことが起こるから,それを分析して次のループ(新たなデザイン)につなげる.

上記はプロバイダのループであるが,ユーザも同様のループを回す(図2).提供されたものを分析し,自己の目的にかなった使い方をデザインする.あるいはその過程で自身の使用目的を変えるかもしれない.この点はプロバイダがデザインを変えるかもしれないことと双対である.

サービスのツインループが回ると提供されたモノやシステムの使用によって「使用価値」(5)が生まれる.これはプロバイダとユーザの両者による価値共創である.

図1 FNSによるサービスループの定式化
図2 サービスツインループ

4. サービスのデザイン

新しいサービスをデザインするという視点が大事であると考えている.たとえば情報技術(IT)の社会応用を考えたときに,既存の社会サービスや社会システムから出発するのではなく,IT が可能にする新しいシステムを考えるべきである.そもそも社会システムはオートポイエシス(6)であるから,社会システムが次の社会システムを産出するという構造になっている(FNSのループ構造がこれを捉えている).従って一つ前の社会システムの前提をそのままにして(たとえば郵便配達時代の前提で)次の社会システム(たとえばインターネット時代の選挙システム)をデザインしても仕方がない.従って,従来の狭い意味での「問題解決型」(問題と前提条件が固定されている)ではうまく行かない場合が多い.

サービスのループを回し,ユーザとの価値共創によって次々と新しいデザインをして行かねばならない.

著者紹介

  • 中島 秀之

1983年東大情報工学専門課程修了(工学博士).同年電総研入所.2001年産総研サイバーアシスト研究センター長.2004年公立はこだて未来大学学長.認知科学会フェロー,元会長,人工知能学会フェロー,元理事,情報処理学会フェロー,編集委員長,元副会長.マルチエージェントシステム国際財団元理事,学術会議連携会員,JSTさきがけ領域研究総括.

参考文献
 
© 2017 Society for Serviceology
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