2014 Volume 1 Issue 2 Pages 50-51
昨年4月から,サービスをデザインするための方法論について議論している.本SIGでは,設計・生産・提供するプロセスをサービスの観点から捉え直し,サービスドミナントな製品・サービスをデザインするための方法論を,システム理論を軸に模索している(1).
本SIGで検討を行ってきているサービスのプロセスモデルについて以下に報告する.
下村らのサービスの定義は,「サービスの供給者であるプロバイダが,対価を伴って受給者であるレシーバが望む状態変化を引き起こす行為」とされる(2).提供されるコンテンツと,それを媒介するチャネルを介した提供者と消費者の関係として定義することで,チャネルが物理的な製品だけではなく,物理的な実態を伴わないサービスも扱うことを可能としている.本稿では,下村らの定義を参考にしながら,サービスの生産・提供者とサービス消費者の関係をモデル化したサービスのプロセスモデルの概要を述べたい.
サービス生産・提供者は,サービスを生産し提供する主体であり,人間個人であってもよいし,それらの集団としての組織でもよい.サービス消費者はサービスを消費する主体であり,同様に個人でも組織でもよいものとする.サービスプロセスモデルにおいては,サービスの生産・提供者は消費者のモデルを内在化し,一方,サービスの消費者も同様に生産・提供者のモデルを内在化している.サービスの提供プロセスを繰り返し,生産・提供者と消費者におけるそれぞれの内部モデルを構築・精緻化していく内的なプロセスこそが価値共創の本質であると捉えている.生産・提供者と消費者の間のサービス提供プロセスという双方向のコミュニケーションの結果として,互いが互いを理解していくプロセスということができるであろう.その結果として,生産・提供者と消費者双方の満足度が向上するような価値を創出することを共創のプロセスであると位置づけたい.
図1は提案モデルの概要を表している.サービス生産・提供者は,消費者からの需要情報と,内部モデルである消費者モデルを参照しながら,自身の資源制約を満たすサービスの質・量を決定し,生産・提供を行う.一方,消費者は自身の状態・ニーズと,内部モデルである提供者モデルを参照し需要情報を生産・提供者に伝え,提供されたサービスを消費する.
サービスの提供プロセスを繰り返すことで,前回のサービス提供の経験をもとに,消費者モデル,提供者モデルがそれぞれの内部に構築・修正されていくこととなる.1度限りのサービスが対象であったとしても,過去の同種同様のサービスにおける経験をもとにモデルは構築されているものと考える.また,各内部モデルの構築・修正は,サービスの提供機会単位だけではなくサービスの提供中にも起こりうる.飲食店や化粧品販売のように,サービスを提供している途中に消費者の状態を見ながら内部モデルを更新し,提供するサービスの品質・量を変更する場合もあるであろう.また医療サービスや教育サービスのように,提供後すぐにサービスを評価することができない場合,次回のサービス提供の機会までにサービス評価および内部モデルの更新が断続的に行われる.このように内部モデルの構築・修正にはサービス提供の機会とサービス提供途中という異なる時定数が混在することになる.
サービスを提供する側の視点から,サービス提供あるいはサービスデザインの難しさは,内部モデルの精緻化と変化への適応性となると考えられる.内部モデルを構築するために,消費者を観測・アンケート等することによって何らかのパラメータを抽出するであろうが,結果として内部モデルには必ず生産・提供者の「解釈」が伴う.この解釈の巧妙さが精緻なモデルを形成するためには不可欠であるが,あくまで生産・提供者の主観であるため扱いが困難となる.いわゆる熟練者はこの内部モデルの構築・更新に不可欠な解釈が優れているものと考えられる.これらをシステム的な手法によって補完することができればサービス生産・提供のサポートシステムとなり得ると考えられる.
本稿では,本SIGにおいて検討を進めているサービスプロセスモデルについて概要を述べた.現在これらの定量的なモデル化を試みており,今後国内・国際大会等で発表する予定である.最後に,本内容は議論の途中であり,本SIG全体の統一見解ではない点は注意願いたい.
京都大学大学院情報学研究科博士後期課程修了.1984年住友金属工業(株)入社.最適化システム研究と生産性向上企画に従事.2009年近畿大学工学部教授(表記職兼務).博士(情報学).
神戸大学大学院自然科学研究科博士後期課程中退.日本学術振興会特別研究員(DC1),神戸大学工学部助手,東京大学人工物工学研究センター助手,客員助教授を経て,現在,神戸大学大学院システム情報学研究科准教授.博士(工学).
筑波大学大学院システム情報工学研究科修了.現在がんこフードサービス株式会社取締役副社長,独立行政法人サービス工学研究センター研究顧問.サービス工学の研究に従事.博士(工学).