サービソロジー
Online ISSN : 2423-916X
Print ISSN : 2188-5362
巻頭言
サービス学とサービス社会
吉川 弘之
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2014 年 1 巻 3 号 p. 1

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「サービス学会」の課題は,現実のサービスを科学の論理で記述することによってその本質を理解することと,それに基づきよいサービスを開発することの両者を含む体系を求めることであると考える.“サービス学”と銘打った以上,この体系を求めることを目的にするべきであろう.現代における学は,ある対象群を選定し,その対象の理解を基本としながら,理解結果を前提として新しい対象を創出するときの規範を確立することを目的とする.理解が科学で,創出のための規範が技術における行動の学であり,この両者を統合的に関係づけることができたとき,科学と技術とをまとめて科学技術ということが許される.現実社会には多様なサービスが複雑に絡み合いながら存在している.それは主として人の行為であり,一過性であり,目に見える痕跡を残さず,その生起は確率的である.伝統的に言って,このような課題は行動が先行していて科学の対象としては扱いにくいものの代表である.

このように不可解なものを前にしてその正当な進歩を期待するとき,科学の基本に立ち返って考えることが必要であろう.すると,すでに1948年に書かれたNorbert Wienerのサイバネテイックスという本が改めて思い出される.Wienerは,伝統的な機器の制御のための知識として整備されてきた個別のサイバネテイックスは,実は機器のみならず,科学の困難な対象である生物の神経系,認識のゲシュタルト,精神病理,情報,言語など,そして社会現象にすら適用可能なきわめて広範な適用範囲を持つ強力な理論であることを主張している.

Wienerは晩年,経済のようなホメオスタシスを持たない対象には適用できないと言っているが,現在はその適用が可能となり,数々の社会シミュレーションが行われている.その条件はシステムの恒常性の定義可能性が前提ということである.すると社会の中のサービス全体が,ある恒常的状態に近づく本質を持つならば,社会の中のサービス全体をサイバネテイックスの視点でホーリステイックに考える視点の有効性が浮かび上がる.

現在,サービス社会という表現があるが,そもそも社会は,孤独では生きられない人類が集団を作り,互いにサービスし合うことで相互に助け合って生きるためにできたのであり,それは危険回避に有効であり,資源エネルギーの効率使用を可能にし,結果的に外敵に対する集団の抵抗力を強化して生き延びる結果となり,それが現在人類が地球上で強力であることの根拠である.私はサービスを機能の流れと考えているが,社会の要素である人は機能の分担者であり,人の間の機能の流れが全体最適に向かおうとするのがサービス社会であるということになる.個々のサービスの向上とともに,サービス社会の最適化も重要な課題であると考えている.

著者紹介

  • 吉川 弘之

独立行政法人 科学技術振興機構 研究開発戦略センター センター長

 
© 2018 Society for Serviceology
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