サービソロジー
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特集:「サービスマーケティングとサービス工学 ~サービス学としての文理融合をめざして~」
サービス学技術ロードマップへ向けて
大隈 隆史
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2014 年 1 巻 3 号 p. 24-33

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1. はじめに

技術ロードマップとは一般に,特定の技術分野において目標を定め,達成した場合の社会的な普及効果を示すと同時に,その進展を予想して時系列に展開して表現することで技術分野発展のビジョンを示す文書や図表を指す.本稿では2014年8月8日に開催されたサービス学ロードマップシンポジウムおよびシンポジウム後の座談会の取材結果に基づき,サービス学分野における技術ロードマップについて解説する.

1.1 サービス学技術ロードマップ策定の経緯

サービス学技術ロードマップの策定は,経済産業省が産業政策に活用するために策定した「技術戦略マップ」(1)に,2008年版から「サービス工学分野」が追加されたことに端を発する.当初はサービス工学に関連する学術分野の多様性を考慮し,要素技術を「観測」「分析」「設計」「適用」のループに関連付けて整理することで技術を俯瞰する技術マップが作成された.また,時間軸に関しては分野の多様性を考慮し,個々の業種業態における実時間における議論を避け,各技術の「導入」「普及」「発展」の進化過程に対して各要素技術をマップするという形でロードマップが作成された.

2009年版では,より具体的なイメージを得やすいように技術の適用対象がヘルスケアサービスに限定されたロードマップが発表された.2009年版のもう一つの特徴は,技術が支援の対象とする具体的な機能として「プロデュース」「モジュール化」「評価メカニズム」「生産管理」「合意形成」「社会制度活用」「人材育成」の7つを挙げ,関連する要素技術が整理された点にある.また,この2009年版では社会の将来像として初めて「売り手社会」「買い手社会」から「価値共創社会」へのパラダイムシフトのビジョンが示された.

2010年度版では改めて分野を限定しないサービス工学のロードマップ策定を目指し,技術要素の粒度をそろえ,工学的技術に絞っての整理を実施した.加えて,具体的なイメージを持つための補助マップとして,2009年版を継承したヘルスケアに加えて小売・飲食・金融サービスのマップも策定された.

その後,2011年以降の国内・国際社会情勢の変化に伴い,技術戦略マップの積極的な公開がなされない状況が続いている.サービス工学分野の技術ロードマップについても省内における小規模な改訂にとどまっていた.この状況をうけ,改めて技術ロードマップによる産学の研究開発の活性化を目指し,サービス学会の主要メンバーが参加して2013年度に技術戦略マップサービス工学分野の改訂が実施された(2)

2. サービス学ロードマップシンポジウム

この技術ロードマップの普及を目指して,8月8日(金)に東京大学にてサービス学ロードマップシンポジウムが開催された.講演者は策定委員長であった新井氏(芝浦工業大学教授・サービス学会長)をはじめ,ロードマップ策定に貢献した持丸氏(産総研サービス工学研究センター長),戸谷氏(明治大学教授),坂下氏(日本情報経済社会推進協会)というメンバーが名を連ねた.また,講演者に経済産業省サービス政策課の朝武氏を加えて,産総研サービス工学研究センター本村氏のコーディネーションのもと総合ディスカッションが実施された.このシンポジウムは産学の幅広い分野から113名が参加して活気ある議論がなされたと同時に,新規の会員5名を得ることが出来,サービス学会の主催する初のイベントとしては大成功であった.以下に各セッションの概要を紹介する.どれも豊富な事例を交えた興味深い講演であったが,紙面の都合上,サービス学技術ロードマップに関連する論点に絞って紹介する.また,総合ディスカッションについては議論の流れを可能な限りふまえつつ要約して紹介する.

2.1 趣旨と全体説明(新井氏)

社会のパラダイムシフトにより将来が予見しづらくなることによって,教育が難しくなり作業効率が低下している.また,社会が適切にこのパラダイムシフトに対応しないと,生産活動や対価の支払いに関する生産側と消費側の理解にずれが生じる.社会のサービス化が進む現代においては,このパラダイムシフトに社会全体が対応する必要がある.このために,サービスをモデル化して考えるサービス学が重要となる.

サービス学技術ロードマップの策定は,重要になる技術を考えることでサービス全体を理解する取り組みにあたる.しかし,変化しやすい,厳密な定義が難しい,多様な評価軸が存在するという特徴を持つサービスを対象とする場合,その技術予測・ロードマップ策定は困難である.そこで,将来像からの内挿法により技術予測を実施し,サービスの本質理解に基づく技術の俯瞰を目標とした.最新版は策定に経営系,経済系の研究者が加わり,戦略立案支援層と基盤技術層が追加された点に特徴がある(図1).

経済産業省の技術戦略マップは学術界における研究テーマ選択,産業界における開発対象選択,省庁における研究開発プロジェクト採択基準の証明など様々な役割を担ってきた.今後,サービス学会ではSIG(Special Interest Group)を設立し,サービスの本質を理解する取組を通じて技術ロードマップ策定を続け,サービス学の発展に必要な重要コンセプトの提供を目指す.

図1 技術ロードマップの構造(持丸氏資料より)
図2 戦略立案支援層(持丸氏資料より)

2.2 経産省「技術戦略マップ(サービス工学分野)」からサービス学会「サービス学ロードマップ」へ(持丸氏)

モノやシステムを対象にする場合に比べ,サービスを研究対象とする場合には,プロセス観測を埋め込む難しさ,得られた形式知の一般化の難しさ,多様な因子や時間変動への対応等,様々な難しさが存在する.これまで産総研サービス工学研究センターでは,サービス現場による自律的なPDCAサイクル実施を目指し,従来の技術ロードマップで示された「観測」「分析」「設計」「適用」に沿った各種の技術について,これらの難しさに対応しながら研究を進めてきた.

技術ロードマップの更新にあたり,経営系・経済系の先生から顧客接点支援層だけでは不十分であることが指摘された.例えば,商品の数が極端に少ないサービス業では,商品再設計は経営の根幹に関わるため現場判断が難しく,経営層を積極的に支援する必要がある.そこで戦略立案支援層が追加され,要素技術が「現状把握の支援技術」,「意思決定と判断の支援技術」に整理された.この層に属する要素技術の検討はまだ不十分だが,この層の追加はサービス学の発展に向けた大きな一歩である.

また,ここで整理された要素技術については,開発の緊急性,社会に与えるインパクト,企業経営に与えるインパクト,導入のしやすさ,国際競争力,国による支援の必要性等の観点から委員の投票に基づき重要度が判定された.新設された戦略立案支援層にだけではなく,これまで産総研が取り組んできていた顧客接点支援層にも重要技術が含まれていた.これらは,心理セグメンテーション,サービスベンチマーキング,サービスロボット,人材育成など,これまで産総研が取り組んでこなかったところが選択された.これまで残された挑戦的な課題が重要技術と判定されたと認識している.時間軸への展開にはまだ議論の余地があり,素直にご批判を受けながらより良くしていきたい.

現実のサービスの問題は,工学の技術よりもマネージメントによって解決すべき場面も多くある.今後,文理融合を進めるサービス学会で技術ロードマップを策定するからには,こういうマネージメントの技法を要素技術として取り込みたい.

サービス工学分野の技術戦略マップは,経営学的な側面の強化,サービス産業の特性に適した指標開発,サービス化社会への転換とサービス産業におけるデータ活用の推進の重要性を指摘して総括された.今後,改訂を進めるにあたって,要素技術の粒度の調整や戦略立案支援層の要素技術の充実,サービス理論研究の方向性という課題が挙げられる.産業戦略を考える技術戦略マップから産学連携・文理融合の指針となるサービス学ロードマップへの展開に向けて継続的な検証と改訂を進めて行くにあたり,サービス学に関わる文系研究者,産業関係者を巻き込んだ議論が重要となる.

2.3 サービス「工学」ロードマップに追加された「経営的」視点(戸谷氏)

今回の改訂でようやく文理融合のスタート地点にたてたという印象があり感慨深い.初期の策定では「戦略」「心理」というとその技術は何か,「人」の部分は工学分野なので対象外,と指摘されどうにも手を出せない状態であった.この数年の間にサービス学会が設立され,文理融合の活動がサービス学会に関連して進む中で,今回,技術ロードマップに戦略立案支援層が入った.実は要素技術に関してはまだ有識者ヒアリングさえ出来ていない状況であり不十分ではあるが,これは大きな成果である.

この層は有形ではない価値(知識・技術・概念モデルなど)の作成を支援する技術と想定している.他の層と比較すると,工学系の人には開発すべき技術が不明瞭であると予想される.しかし実際の企業活動では,まず戦略があって戦術がある.戦略が無い戦術は場当たり的になって必ず失敗する.この新しい層の追加は戦略が重要であるということが認知されたという象徴的な出来事である.

例えば飲食サービスで,「一日に二組しか受けない予約制の隠れ家レストラン」と「ファストフード」という異なる戦略においては,異なる戦術が選択される.サービス工学的にデータ基盤層のデータを用いて顧客接点支援層を最適設計しようとしても,戦略が無ければ,何をどう最適にするのか決まらない.何のための最適化かわからない.戦略立案支援層の重要性はこういう例で説明できる.

この層で重要技術の一つとして選定された「価値の測定技術」を考えるとき,測定すべき価値は「提供者・被提供者の両方がメリットを享受する」,「ともにリソースを提供して価値生産する」,「共創プロセスは刻々と変化する文脈に依存する」,という三つの特徴を有する共創価値であると考えている.つまり,誰からどのような資源がいつ・どこで・どのように提供され共創価値の生産に活かされるのかということを分析する尺度の研究が重要となる.共創価値を考えるにあたり,サービストライアングル(図3)として知られる「企業・組織」,「従業員」,「顧客」の三者全てがハッピーになり,それらを取り囲む「社会」にとってもプラスでなければ,そのサービスは長続きしないというモデルを考えている.このモデルに従って共創価値を測定するときには,全てのステークホルダーについてベンチマーキングする必要がある.しかも,それらの文脈は相互作用により同時並行に変化するため,これを反映した測定と分析の指標を開発する必要がある.こういった研究には数理分野の研究者と経営分野の研究者の連携が必須である.このような論点は,技術面に落とすことが難しいため,技術ロードマップには反映されていない.

残りの重要課題として挙げられた「ビジネスモデル策定支援技術」と「サービス化支援技術」は並列ではなく包含関係であると考えている.「ビジネスモデル策定支援技術」はサービス企業におけるビジネスモデル(提供価値,戦略,事業体制,システム化,収束,チャネル,パートナー)を整理し,判断を支援する技術と定義されている.一方で,「サービス化支援技術」は製品とサービスの融合システムの検討や,農業,製造業等他産業のサービス化またはサービスの高度化検討を支援する技術と定義されている.農業・製造業のサービス化は新しいチャレンジなので焦点を当てた形になったが,サービス業の工業化も必要で両面から考えて理論や技術を整理する必要がある.サービス業の工業化・効率化については品質を下げない生産性の向上,生産性の再定義等の検討が必要である.ビジネスモデル策定支援技術についてはサービスの特性をふまえたビジネスモデル検討方法等が重要視されるためIHIP(無形性・不均質性・同時性・消滅性)の再評価等も必要ではないかと考えられる.

図3 サービストライアングル(戸谷氏資料より)

2.4 データ活用とサービス学(坂下氏)

データを使った分析や可視化の例は話題になっている面白い事例に事欠かない.しかし,学問はただ面白いというだけではなく,論拠に基づいて効果を示すことが求められる.サービス工学の意義は(1)サービスの受け手である顧客をモデル化することで,サービス向上・高度化の機会を創出する,(2)サービスの価値とコストを客観的に評価する指標を提示することで経営力の強化に活かす,ことにあると理解している.

事業プロセスの中において,データ利用やモデル化の効果が発揮されるのは付加価値が高いとされる「設計・開発」,「アフターサービス」のプロセスである.本来,このことは「生産」「加工」「販売・提供」という産業構造の各段階で当てはまるが,サービス学技術ロードマップで対象としているのは「販売・提供」と顧客を含む範囲にとどまっている.今後,サービス学で得られた知見を「加工」に「生産」にとフィードバックして広げることで産業全体を最適化できる.

データ基盤層に関連した国際情勢として,解析の難しさ,データアナリストの不足から解析を受託する事業者が登場している.日本でもこのビジネスモデルは成り立つが,ここを公共性の高い独立行政法人等が担うことも可能である.データを預託して解析結果を受け取る,企業の分析人材の指導や育成に協力するといった仕組みを国内でも具体化する必要がある.

センサーデータの活用はニーズも高いが,センサーは普及すると儲からない.センサー産業を活性化するにはセンサーデータ蓄積し利活用する仕組みが重要である.例えば,蓄積データによる多対多のデータ取引を活性化することで経済効果を得ることが出来る.このようなデータ取引基盤や活用の基盤がセンサーの普及と定着を実現するためには重要である.

データ基盤層の要素技術にはよく指摘されている割には意外と進んでいないコード標準化を入れた.また,プライバシー保護はパーソナルデータ活用を考える上でどうしても必要になるので入れた.

サービス理論の今後の発展のための課題の一つに,「経営レベルへの昇華」が挙げられる.このためには経営者に響く指標を考える必要がある.現在,データの経済価値分析がOECDで進んでいる.事業者の持っているデータがどこまでその事業者の資産価値を引き上げているのかを生産関数を使って分析している.ある企業では,全体成長の6割にデータが寄与していることが分析でわかった.これを明らかにしたことで,データベースの投資効果が見え,経営判断の材料となる.このような知見の蓄積についても,サービス学でも取り組むべきであろう.

もう一つの課題は消費者データの活用時の障壁である.米国政府のレポートでは既にカメラや地理空間情報等多くのセンサーで,どこに居てもデータが取られる環境で生活していることを認め,プライバシーに気をつけながら積極的に活用して行くことを提言している.オンライン広告では個人を突き詰めてリーチして行くが,データサービスセクターではプロファイルに集約して行く.現状,自動で個人のプロファイルが作成されると実世界の状況が変化(例えば無職から就職した等)してもなかなか更新されない問題がある.消費者が自身のプロファイルについて認識・更新出来るようにしないと,今後の活用は難しいと考えられる.

国内ではパーソナルデータの利活用に関する制度改正大綱が出て,グループが作ったルールを第三者機関により認定する仕組みが提言されている.将来的にはサービス学会におけるパーソナルデータの利用ルールを定義し,認定を受けることで学会内での研究目的での利活用が進められるのではないかと考えられる.

サービス工学からサービス学に変化することで,高齢社会や情報社会に対応する産業レイヤーが存在するように,サービス学に対応する新しい産業レイヤーが出来,技術ロードマップが具体化して更新されて行くことに期待する.

2.5 総合ディスカッション「サービス学の展開とロードマップ」

総合ディスカッションは各パネリストによるこれまでの講演の感想からスタートした.サービス学に関わる人々の認識の変化によって戦略立案支援層が加わった経緯を新井氏,持丸氏が振返り,その重要性を再確認した.戸谷氏は坂下氏によるデータの経済価値分析や,経済価値だけでは測れない知識や感情の尺度について考える重要性を指摘した.また坂下氏は技術ロードマップの更新において産業の現場に関わる人々との対話の重要性を指摘した.

まず,サービス工学のサービス学における主要な役割はとの会場からの質問に,持丸氏は「経営分野の手下となってツールとなる技術を提供する」「経営分野とともにサービスを通して社会や生活を良くするというもう一つ上のレイヤーにダイレクトにリーチする工学を目指す」という二つの可能性を示し,その両方が重要であると指摘した.

次に,経営分野が工学分野に望むことは何かという質問が紹介された.まずは部分最適ではなく全体最適の実現を目指し,一緒に活動することを望むと戸谷氏から回答された.また,文化の違いによる相互理解の難しさとそれを乗り越える必要性を指摘した.

ここでコーディネーターから一緒に活動するための共通目的や共通言語の必要性が指摘され,共通目標としての「共創価値の指標」についての質問がなされた.戸谷氏は数値として直接計測できない知識や感情の扱いの難しさを指摘した.また,企業にとって価値があるならば企業収益として経済価値に変換されるはずだという仮説に基づく長期計測の可能性と,その一方で社会貢献としての企業活動を考えると経済価値として企業収益に反映されない部分がある可能性を指摘し,その難しさを説明した.同時に,そのように社会に還元された共創価値を定量的に測ってその企業の社会貢献を見えるようにすることの重要性も指摘した.

この回答をうけ,データからの客観的価値と共創的価値の接点についてコーディネーターが質問した.坂下氏はデータの価値について,データの取引市場が出来る前に共通指標を作る必要があるという認識を示し,改めてデータの資産価値の計算方法の重要性を示した.共創的価値の観点についてはVRM(Vender Relationship Management)のコンソーシアム設立の動きを紹介した.これを受け,持丸氏からは共創価値,データの経済価値,Relationshipの定量計測の難しさ,また難しいからこそ工学の対象としても今後重要となるという指摘がなされた.

これらの指標を具体的に計測して行く研究の進展について,新井氏からは現状は共通認識を構築している段階であり,これには数年レベルの時間がかかるであろうと指摘された.問題設定の捉え方,新規性に対する考え方,あらゆる点で文化の違いが出るのでまずは場や問題設定においても共通の土台を作って行く必要が示唆された.これと同時に,次のステップとして,経営側が主体となって,工学側がこれに協力する形で新たなサービス学のロードマップを策定してみるという取り組みも提案された.

ここで朝武氏はサービス工学技術の社会への普及の障壁としての「難しさ」を指摘し,中小企業との連携強化への期待について述べた.また,人間が取り組むべき仕事,ロボット化すべき仕事についてもサービス学の中で明らかにされることに期待を示した.持丸氏からはサービスの中の対物プロセスの効率化へのサービスロボットの活用の可能性を示し,付加価値を下げないロボット活用について説明した.合わせて,需要変動に合わせざるを得ないサービスロボットの稼働時間は短く,購入のコストに見合わない可能性を指摘し,稼働時換による課金サービスと,サービスロボットからデータを収集及び分析して価値を集約する活動をビジネスモデルに組み込まないとうまくいかないと主張し,サービスロボット研究は従来のロボット研究に加え,経営や情報分野も取り込んだ研究分野にする必要性を示した.これに対して新井氏からは製造業においても既に,下流の組み立て工程ではロボットの稼働時間が短くなり,セル生産方式に移行した経緯が説明された.また,サービスのロボット化については情報サービス,物流サービス,人の移動サービスが一つとなったサービスエコシステムがロボットの活用にも効果的だと予測されるが,管轄省庁の壁がサービスエコシステム実現の障壁になる可能性を指摘した.これを変えるためにも,モノの生産を基準とした考え方ではなく,生活を基準とした考え方へのパラダイムシフトをサービス学会から発信していきたいとした.これを受け,朝武氏からは現状のサービス産業の実務者もこの規制に慣れていて,実際に要望を聞いても出てこない現状を紹介し,実務者の意識改革の必要性についても指摘した.

戸谷氏はロボットの稼働時間課金はまさにロボット産業のサービス化にあたると指摘し,関連して,工学系研究者,企業からの参加者に対して実際にサービス化に取り組んだときに社内フェーズや課題認識の状況等の成功・失敗の事例収集について協力をよびかけ,これを分析して明確にパターン化することの重要性について説明した.また,金融業界において省庁の管轄外の事業者からイノベーションが起きた事例を紹介し,官庁の規制がイノベーションの妨げとなっている実態を指摘した.また,同じロードマップ作成においても経産省と文科省の反応の違いについて説明し,サービスの特性を政府もよく理解するべきであると指摘した.持丸氏はこれを受けて文科省とNISTEPで策定に取り組まれているロードマップについてもサービス学会が協力している状況を紹介するとともに,サービスを構成する要素の多くが,工学的な知見ではなく経営的判断によって決定されていると指摘し,ビジネスモデルが工学系・経営系研究者と企業で連携する共通のプラットフォームになり得るという期待を示した.

ここで話題はサービス学会の具体的な取り組みの紹介に移り,グランドチャレンジ,各SIGの活動について説明された.

会場から,現在の技術ロードマップが経済優先のマッピングになっていて,社会的な価値「社会経済」についても合わせて考えないと生活基準の社会へ移行しないとの指摘がなされた.また,信頼性と安全性はサービスの要なのでデータ活用についてはネガティブな部分にもしっかりと目を向けて対策することも企業の視点からは重要であるとした.戸谷氏も同意し,サービストライアングルに社会を入れ,全てのステークホルダーにメリットがあり,社会にもプラスでないと継続的ではないというモデルを再度強調した.持丸氏は,その思いは現在のマップにも込められているが元々サービス産業の生産性向上のために作ったマップであるという成り立ちから,産業向けの印象が拭いきれていないと回答した.また,改めて文部科学省で取り組んでいるマップ策定に言及し,ここでは明確に社会をマッピングしていると解説した.

サービス業の生産性向上から議論されているが,製造業も似た問題を抱えており,サービス学の知見を製造業に活用したいという期待も会場からコメントされた.さらに,別の参加者からは共創価値のうち感情についての言及が少なかったと指摘された.人間が論理ではなく最終的には直感的な感情で動くことからサービス学では感情の取り扱いが重要となるという主張,経産省の感性創造価値イニシャティブについても説明された.これを受けて持丸氏は,感性創造価値イニシャティブが現在クールジャパンに引き継がれ,デザインが良いから買いたいという交換価値からコンテンツの使用価値,さらには共有価値にフォーカスが移っているという流れを紹介し,サービス学との関連についても解説した.また,朝武氏から広島の複数の食品スーパーによるデータ共有のプロジェクトについて触れ,事業者,消費者,地域社会にどのようなメリットがあるか明らかにしようと取り組んでいることが紹介された.また,感性価値のマネタイズに関して,課金のビジネスモデルについてのモデル化研究を進めると適用範囲も広くて良いのではないかという提案が会場からあった.また,サービス学会という国際学会を設立して活動する中で,国内でサービス学を議論する意義を考える必要があるという指摘がなされた.これに対して,新井氏は日本のサービス研究の国際化について,日本でやる意義付けと国際水準との比較検証の二点で遅れていると指摘し,対策は研究者の研鑽でしかあり得ないが,日本でやる意義については日本の先進性よりも課題先進国としての状況から説明した.

会場からの最後のコメントは,技術ロードマップに関連して,どういう世界を思い描いているのかを明示したうえで,技術ロードマップに落としてほしいとの意見であった.持丸氏はサービス化社会の進展した姿は一通りではない可能性が高いことから,まだサービス学として将来像を整理しきれていないと説明した.また,新井氏からは今回の技術ロードマップはサービスにおけるPDCAの方法論にフォーカスしているため,敢えて将来像を描かなかったと補足した.また,坂下氏からはこのロードマップだけでなく様々に関連する政策提言を政府が取りまとめて未来像を提示できる可能性を示唆した.戸谷氏も持丸氏と同様,社会としての将来像は多様性が高まった社会であって,具体的に描くのが難しい点を指摘し,あくまでも全体にとってプラスになるということが重要であると強調した.

最後に,朝武氏は製造業のサービス化もその多様性の一つにすぎない点を指摘しつつも,モノだけを作って完結する社会はもうあり得ない,サービスはバリューチェーンの中には必ず入ってくると,サービス化社会そのものを将来像と見ていることを示唆した.

3. シンポジウム後座談会

シンポジウム終了後,講演者とコーディネーターが集まり,技術ロードマップ策定の裏話も含めてインタビューをさせていただく機会をいただいたのでここで紹介する.ここからは文体を変え,紙面の許す限り発言を抜粋することで,和やかな雰囲気もお伝えしたい.

3.1 技術ロードマップの使い道について

(聞き手,以下—) 学会への新規入会もあったということで,シンポジウムは大成功でした.この座談会は学会誌の記事向けですので,技術ロードマップで学会員に向けてどのようなメッセージ発していきたいのかをお伺いしたいと思います.

持丸「学はともかく産業界からのインパクトはあったんですかね?」

新井「現実の技術に近ければ近いほど産業界は見ますね.ヨーロッパのやり方だと目標と数値設定をするけれども,現実から少し離れてもコンセプトを書いた方が良いということもありました.今回のロードマップは2040年にどのような社会があってどのような世の中になっているのかというのを書かなかったので,きっと使いにくいと思う.」

持丸「質問にも出ていましたね.」

新井「実際の使われ方というのは非常にはっきりしていて,社内でも必ず技術ロードマップというものは作っている.そのときの参考例にする.こういうのは世の中のコンセンサスだからやらない,もしくは追いかけるというように.」

持丸「確かに,私のところに相談にくる企業も,ほっといても学がやるのか,学が進んだときに自社としてやっておかなければだめなのか,学にお金を出してでも一緒にやるべきなのかというのを判断する材料としてロードマップを見ているというところはいましたね.そういう意味ではまだ完全ではない時間軸が役に立つのかはわからないし,普通の工学のロードマップが性能向上の数値を出すのに比べると「心理セグメンテーションができる」というのも,何ができたらできたんだよ,みたいにイライラするところもあるかもしれないですね.」

戸谷「サービス業は中小企業も多いので,あそこに出ているような技術が存在するということがわかるだけでも役に立つという側面がある.知らないものがいっぱい出てきているはず.」

持丸「確かにね.そういう意味では若干恥ずかしいんだけど,学会員の方々にもこういう技術があるんですよ,というのを知っていただきたいかな(苦笑).」

同じ学会員なのに(笑).

持丸「それはさすがにかなり恥ずかしいか.「サービス工学ってこんなことやってたんだ,知らなかったよ,この学会にいたけど」って言われたり.」

新井「しかし現状,そのレベルだと思いますよ.私もあそこに出てくる全部の単語をちゃんと説明はできないと思う.」

一同「確かに」

そこが分野が広い,まさに文理融合のこの学の特徴でもあるんだと思います.

3.2 ターミノロジーについて

持丸「技術ロードマップにはいっぱい単語が出ている.あれをシソーラス的に整理することを通じてお互い理解するのも大事では.多分あれを全部言える学会員はさすがにいないのでは.経営のも入っていれば,えらいテクニカルなのも入ってるし.」

戸谷「そもそもあの表の中の『SWOT』が『SEOT』に(誤植)されてたりしてちょっと恥ずかしいんですが(苦笑).なんて読むのこれ!みたいな.」

持丸「失礼しました(苦笑).(やらかしたのは)俺か(笑).僕が最初に間違えたのをみんなコピペしてそのまま最後まで気づかれなかったんだな.

学会の新規性の話をすると,確かにわかんないんですよ.経営学で前から言われている,あ,そうなんだといったように.せめて単語レベルでは少しわかるといいかなあという気はしますよね.」

新井「ターミノロジーに関してはある種の権威付けが必要になっちゃうんですよね.で,権威付けは二種類あって,一つは公的な権威付けで,まさに標準化みたいな話.もう一つはみんなが読む本という意味での教科書ですね.」

 そういう意味ではサービス学の教科書はまだ無いですね.

新井「いや,経営学の教科書ではまさに近藤先生や井上先生の本だとか良いのがあると再認識しています.むしろサービス工学の方がなんやかんや言っても情報処理の人が多い状況なんですよね.だからほんの少し人間観察のあたりに新しさがある.というようなことになっちゃってますよね.」

持丸「そうですね,教科書なんかは無いですね.事例集とかですね.」

3.3 「サービス理論」について

本村「あの縦軸はすばらしい発明だと思ったんですけども.縦軸の登場は革命でしたよね.」

 真ん中に大きな柱として「サービス理論」という絵が書いてあるんですが,これって具体的に何が中に入っているんだろうと.外にたくさん具体例が取り巻いているんだけど,ここの中に入っているものって技術ロードマップのどこを探しても無いなあって(苦笑).

(一同笑い)

新井「その通り.」

 それを皆さんこれから作っていただくんだろうと期待しております.

3.4 文理融合について

 座談会のもう一つのテーマが文理融合です.表面的に一緒に集まっても別々のセッションでやっていては意味が無く,真の意味で「一緒にやる」ことが重要だと思います.実際に共同研究されている事例で言葉が通じないという話がシンポジウム内でもありましたね.具体的には?

戸谷「まず,言葉が通じないだけじゃなくて,同じ言葉を違う意味で使っていることがある.で,それに気づかないでそのまま話していることがある.」

持丸「サービス学で出てくるワードは『サービス』そのものもそうですが『理論』とか『モデル』とか,いかにも違った意味で使っているんだろうなと思いながらやってたりしますね.」

本村「NGワード集が必要ですね.『モデル』だけではなく『〜モデル』とか必ずつけましょうとか.」

戸谷「確かに.」

 「モデル」という言葉自体は同じ情報分野の中だけも相当違いますからね.

文理融合の具体例として,話題は現在の戸谷・持丸の共同研究でのエピソードに.詳細は諸般の事情で記載出来ないが(苦笑),工学分野の共同研究では企業側が「仕様」を切り出してくることが多く,その根拠となるマーケティング結果を経営の専門家として確認して行くと非常に曖昧であったという経験が何回かあったという話題になった.

持丸「工学って分担するのが基本じゃないですか.だからここを決めることにしたんだから,その担当部分をやれとなるが,今,すごく面倒なことをやっている.分担しているにも関わらず,でも,これでマーケティングパートの成果が変わったらどうなる?というとそれ以外のパートも変わらずを得ない.そういう意味では,今回の共同研究も効率悪いです.しょっちゅう戸谷先生を含めたミーティングして情報共有しておかないとうまくいかない.」

戸谷「マーケット調査してきているものと,今まで作ってきたものが違う結果出たらどうするんですか,ときかれて,いや,変えますよ.と答える.」

持丸「リーダーとしては,そうなったら,それはエンジニアリングなんだから,売れないとわかっているものをそれでも作るのか,と言うしかない.ただし,そのときに培った知見そのものは0にはならないから,それをマーケティング結果に対応するように使っていこうよ,となる.」

3.5 マインドセットの問題

戸谷「製造業のサービス化の話のときに,サービス化しなきゃいけないと思っている中堅の人と,経営層をどうやって説得すれば良いかという話に常になる.」

本村「これは本質的で構造的な問題ですよね.学会としても一つのアプローチを示さなければ死屍累々だと思うんですけど.」

 経営層をいかに説得するかという特集記事を組まなくては行けないんじゃないですか(苦笑)

本村「マインドセット変換は避けられないですよ.」

新井「それはきっと一番重要な話で,マインドセットを変えるための説得材料を準備することだと思うんですよね.簡単ではないですよね.その前の段階として,複数のいろんな考え方というのを作りたいと思うんですけれども,そのためにはさっき言った文理融合で議論しなきゃいけない.で,それの手間がどのぐらいかかるか.私の経験から言うとだいたい3年ぐらいかかると思う.だから,部屋を分けてやったりしていては絶対無理ですね.」

持丸「確かにそういう意味では,何か機会を作って,少しトピックを決めてディスカッションして行かないとなかなか先に進まないですよ.学術集会だけではなかなかね.」

その後,産総研を含む工学系の組織における周囲のマインドセットの違いからくる苦労話に.ここも詳細は割愛させていただきます(苦笑).

戸谷「でも,産総研では世の中に普及したとか,使ってもらえたとかっていうことを評価軸に入っているんですよね.」

持丸「そうですね,産総研の話は置いといて,すごく大事なことでね,なぜかというと学生さんなんですよ.サービスの研究をする学生さんたちを増やすのに,工学的なマインドセットで行くと非常に入りにくい訳です.論文化しにくい,育ちにくいところなんですよね.」

新井「それでグランドチャレンジの話がでてくるわけですよね.で,あとは賞だと思います.評価するのを自分たちでやる.学生たちががんばるためには賞というのは良い制度です.」

3.6 戦略立案支援層について

戸谷「戦略立案支援層は本当に中身まともにしないとだめですね.」

 逆に工学で何かサポートできるかってところでしょうかね?

持丸「今回は時間がなかったので「方法」とか「技術」とかつけてみる?というノリで,つけるとあまりに荒唐無稽なものは外したというぐらいの作り方だった.」

 この層を充実させるために,事例を集めて分類して戦略を立てるときの選択肢を明らかにしていくような技術イメージなのか,実際に企業さんが戦略を立てるプロセスを中に入っていってそこを観測するなり,プロセスそのものを明らかにして一般化するというアプローチで技術というものを作っていくのか,どっちのイメージなんでしょうか.

戸谷「両方あって,とにかく事例はたくさんあるんです.ただ,企業の意思決定とか戦略策定のプロセス等が詳細に記録されているようなことは無い.結果として中期経営計画がこうなりましたとかはでますけれども,そのプロセスというのは普通は公表されない.プロセスを分析するのであれば入って産業観察みたいなことをしなくてはいけないし,ヒアリングやインタビューをやらないとできない.それは経営の研究者がやるべきこと.工学的なという意味では,そこから先かもしれないですけど,そこで仮説を立ててアンケートをとるなりなんなりして進めて行く.」

本村「Appleなんかもやってる最中は全然そんなことを一言も言っていなくて,あとで振返ってみるとiPodからiPhoneまでのプロセスは戦略としてあったことに気づくという順序じゃないですか.ケーススタディで過去を見るということは出来ると思うんですけど,未来側については,デザイン系はもっぱらワークショップとか共創的なアプローチになっていますよね.これに対してはエンジニアリングは成り立つのか.ワークショップを支援する技術というのであればわかるんです.ワークショップでやっているようなことをエンジニアリングとして支援するのは難しいので,ロードマップもそういうことになっているのでは.」

持丸「今回その意味で入っているのかはわからないけれども,エンジニアリングで言えばプロービングだよね.観察するだけじゃなくて経営のアクションが仮に測れて,そういうものを分類や分析して,それに関する知識ベースがあって,あるアクションのときにはこれをこうするとこうなったという知識として再利用するのはあるかもしれない.」

新井「今の話を実際の行動とか研究にすると,例えば,アクションの種類というのは当然限定されたものになる.それがどのくらいの意味があるかというのを検証するのは難しい.効果を検証するのはなんとかできるし,やらなきゃいけないからやるのだけれども,それも非常に少数の事例になる.そういう形にならざるを得ない.それに研究費をつけるとみんなが文句を言うことになる訳です.で,そういうふうにどうもワークショップの支援とかプロービングのやり方を作るときの支援とかは,理屈の上では考えられるんだけれども実際問題まだまだ非常に例が少ない.」

持丸「やっぱり,系が開いちゃっている.実験室じゃないから.だから,効果を測定するときに,ただ小西さん(技術ロードマップ策定委員の一人.計量経済学者.)に言われたように我々もちょっとお勉強はしておかなければ行けない.今あまりにも工学系の効果測定はプアなので.社会に開いているから,常にフェアになる訳じゃなくて,その間株価も変動したからそのせいかもしれないし.景気がなんとかだからそのせいかもしれないし.そこはやっぱり難しいですよね,実験室のようにはいかない.」

3.7 技術ロードマップの普及と更新について

坂下「これまでなかなか議論に入れなかったんですが,このロードマップは今後どうするんですかね.もし,普及させろと言われたら,このロードマップを有識者にいくつかのロードマップで合わせたもので本書かせると思うんですね.なぜかというと中小企業の社長さんと大企業の社長さんでは知識に対するリーチが違うんですね.大企業ではこのロードマップを出したときにボトムアップで挙げて行くというリーチになる.中小企業の場合はリーチが短いですから社長さん自らに読ませる方が話が早い.中小企業の方が多いので,簡単な本を作って出版してしまった方が話が早い.そういうことをまずやると思うんです.

更新については,サービス学会という事業者と学の固まりがあるのであれば,アイデアソンをやると思うんですよ.どういうニーズがあるのかというのを洗い出して整理して,今回戦略マップの中に入っている優先度と突き合わせをやって精査すると思うんですね.その結果優先度が変わるというのであれば,そこから手を付けると思うんですね.そういうのをやるとみなさんが見えていないニーズがどどっとでてくるというそういう気がします.」

 今の坂下さんのご意見はロードマップをどう広げるのか,どうローリングするのかというご意見だったと思いますが,今後学会としてはSIGでどういう形でこれに取り組まれるのでしょうか?

(一同爆笑)

本村「SIGでアイデアソンとか.」

坂下「それはちょっと違うような.」

新井「状況わかっているのにそんな質問しないでよ.」

(一同爆笑)

 いや,一応,学会員に向けて技術ロードマップをどうするのかという主旨の座談会なので(苦笑).

新井「だってメンバーが新井・竹中・戸谷・持丸・新村・浅間などなど,これで集まるはず無いんだもの(笑)」

坂下「まあ,間口を広げると良いですよ.例えばJAXAは新産業創造室というのを作って中小企業に間口を広げてくれました.去年91件問い合わせがあって21件協力をやり,12件は有償だそうです.技術マップを普及しながら産総研にも間口をあけて問い合わせを受ける.経産省に言ってサービス工学利活用100選を作ってもらう.事業者に声をかけてデータ出させて産総研が全部分析して本を出しちゃうとか良いと思います.」

 ロードマップに出てきている技術が実際社会にどれだけ出てきているのかというのをそういう形で検証していく,という発想ですかね.

新井「ロードマップのSIG活動についてまじめな話をするならば,やっぱりサービスロボットが使えるかとか,サービスロボットに対してサービス側が要求するある種の仕様のチェックリストみたいなものをある程度作って,それでロボット系の学会とコラボしたシンポジウムをやってみたい.また,サービスでは当然のことながら情報獲得のための収集のための道具となることが圧倒的に多いとか,そういうところをある程度フェーズを分けて意見を聞くということのために,SIGとしては少し人数を集めて一回集まんなきゃいけないなぁと.一回でやるとしたらいったい誰がデータを解析するの?とかなるんで.本当のことをいうと大学でそういうことを一年ぐらいやってくれる学生がいると良いんだけれども.そんなのはねぇ,無理だもんねぇ(原先生に).」

(苦笑)

持丸「まぁ,だんだん広げて.」

3.8 書籍・学会誌の活用について

本村「マインドセット問題とか学生の問題考えるとやっぱりある種の啓蒙書がそれなりの数あると便利かと思うんですけど.その啓蒙書を書くのをアシストするようなツール提供やコンテンツ提供を一つ戦略としてはどうでしょう.作家募集というような.コンサルタントの方は結構書かれていますよね,サービスに関して.しかし学会とのリンクというか裏付けが無くなりがちじゃないですか.ある程度の中立性と言うか裏付けの上に,ある程度色を足すのは,むしろWin-Winなのではないかと.」

戸谷「それは書かれている方がOKであれば」

新井「学会としては,これに対してはこれに役立つものです,これとこれは一緒に読みなさいというのは(いえるかもしれない).ただ,なかなか学会としてその本の評価に直接触れるのは厳しいという問題がある.」

本村「書評はどうですか」

新井・持丸「書評は良いですね.学会誌で.」

新井「このままいくと,私は工学部の学生の将来が心配なんです.将来無いとはいわないけれども,まさにハイテクの分野で生きてく人たち以外は,製造業の人数が減る.そもそも製造業の中核的なところが設計とメンテ以外のところは無くなってしまうかもしれない.そうするとやっぱり,設計と全体の管理みたいなことがわかる人間を増やすしかないだろうと思っているんですよ.いわゆる工業系の大学ほとんど産業界にしか行かないわけで,そういう大学に取っては死活問題なんですよ.今の芝浦工大で取っている方針はグローバル化に対応しようとしている.言い方を変えれば,何も日本で働かなくても良い.しかしそれもまたね,わざわざ夫婦が一緒に住めなくなるとかね,日本文化から離れることになるとかね,意味があるのかどうかもよくわかんない.」

戸谷「今から,製造業のサービス化とかをそういう学生さんたちに教えていくことが必要ではないでしょうか.」

本村「人間系の研究のある意味オーソドックスな定石みたいなものを工学者は知らなすぎて,人工知能学会で一回あったんですけれども,人間系の計測の実験真理のいろはを学会誌で連載したことがあったんですけど,すごく評判よかったですね.そういう基本的な考え方のレベルは,もしかしたら教材か出来るかもしれませんね.」

「理系が学ぶ経済教室みたいな.」

本村「その逆もありますね.」

 それは,学会誌で特集とかは?

櫻井学会誌編集長「特集ではなく連載でしょうね,ロードマップに書かれている重要な技術項目を順番に解説しつつ,それに関連する書評も入れるという企画.」

一同「それは良い企画ですね.」

 最後に学会誌の企画がまとまったところで本日の座談会お開きにしたいと思います.ありがとうございました.

4. まとめ

本稿では,主にサービス学ロードマップシンポジウムの概要と講演者による座談会の様子の紹介を通してサービス学技術ロードマップについて解説した.読者諸氏には是非文献(2)をご参照いただき,現在の技術ロードマップの全体像をご覧いただき,今後のサービス学の研究活動や自社の技術開発にお役立ていただきたい.

著者紹介

  • 大隈 隆史

(独)産業技術総合研究所主任研究員.1999年奈良先端科学技術大学院大学博士後期課程了.同年電総研研究員.2001年組織改編により現職.2003〜2005 学振海外特別研究員(コロンビア大学客員)兼務.2007〜2009経産省サービス政策課兼務.複合現実感技術,仮想現実感技術,サービス工学研究に従事.博士(工学).

参考文献
 
© 2018 Society for Serviceology
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