2014 年 1 巻 3 号 p. 44-45
Frontiers in Service Conference.サービスの研究者であるならば,恐らく一度は耳にしたことのある国際会議であろう.1992年にはじまった本会議は,特にサービスマーケティング・マネジメント分野における代表的な国際会議として知られている.今年は,University of Miamiにて6月26~29日に行われた.筆者は今回,自身の研究発表とサービス学会の広報活動の双方を兼ねて,サービス学会の新井民夫会長ならびにJST RISTEXの中島正人氏とともに初の参加をした.
ご存じの方も多いかと思うが,来年のサービス学会の国際会議ICServ2015は,2015 Frontiers in Service Conferenceの直前に同じ会場で開催する.本稿では,来年の参加を検討中の学会員の皆様が多いと想定し,その一助となるべく会議の様子をお伝えする.なお,筆者のバックグラウンドは工学系であることから,本号の特集テーマにも資する様に,筆者が感じた文化の違い等についても敢えて言及したい.以下,2014 Frontiers in Service Conferenceを本会議と記す.
まず特筆すべきは,会議当日の発表が主体であって,いわゆる講演論文(Full Paper)にあたるものがないことであろう.工学系の国際会議の多くの場合には,(a)Abstract申込 → Full Paper提出と査読,(b) Full Paperの直接提出と査読,のいずれかのプロセスを経て採否が下されることが一般的である.本会議では,例年11月下旬頃にA4で1ページ程度のAbstractを提出し,それによって最終採否が決まる.
ただ,Abstract査読だからといって発表のレベルが低い・敷居が低い訳ではなく,採択率は50%程度と競争的である.参加経験のある方々に意見を伺った限りでは,中途の段階にある研究(Work-in-Progress Research)なども対象であり,「おっ」と思わせるような問題設定や,新たなコンセプトの提案が重視されている印象を受けた.
会議日程は以下の通りであった.例年,ほぼ同じ構成・曜日で開催されていることから,来年も同じと考えて良いであろう.
主催側が後日公表したレポートによれば,本会議には30カ国から約200名の参加があったという.この規模感は,大きすぎず小さすぎず,コミュニティを形成し,活かしていくに適している.ネットワーキングのためのソーシャルイベントも充実しており,特に会場での朝食を取りながらの毎朝の交流は新鮮であった.新井会長と筆者は今回が初参加であったが,一橋大学の藤川佳則先生のご助力もあり,数多くのキーパーソンと意見交換を行うことができた(図1).彼らが異分野からの参入者に対しても好意的であった点は幸運であり,さらにはサービス学同様,総合的なサービス研究の必要性を強く意識し求めている様子も伺えた.
参加者の比率でいえば,筆者の予想よりもアジア圏,欧州圏からの参加が少なく,少々残念であった.要因のひとつとして,会議のスコープが重複するAmerican Marketing Association(AMA)の国際会議SERVSIG(第2号の会議報告を参照)がギリシャで2週間前に行われたことが挙げられる.この様な状況ではあったものの,欧州圏に限るならば,ドイツとイギリスからの参加者が比較的多くみられた.
初日のオープニング,TeradataのBill Franks氏によるPlenary session “How Big Data Changes Service”では,ビックデータの概念と顧客経験を向上させる活用方法について包括的な紹介がなされた.技術的観点に留まらず,Service Dominant Logic(SDL)に沿う様な,顧客側の能動性とリソースを活かした展開に言及がなされていたことは,本会議ならではの点であろう.
その他,最終日に行われたMonterrey Institute of TechnologyのJavier Reynoso氏による Plenary session “Service Research at the Base of the Pyramid ”が印象的であった.本講演では,Base of Economic Pyramid(BoP)の市場に対するサービス創造に必要な研究のプライオリティについて,こちらもSDLと豊富な事例を元に論じられた.現在日本で行われている問題解決型サービス研究では,その性質上,日本の経済や社会に焦点を当てたものが多い.しかしながら,本講演を通じて,世界全体の視座に立って「サービス学は何に貢献できるのか」を再考する必要性とその可能性の双方を改めて認識した.
さて,次はConcurrent session(一般発表)である.本会議では約120件の発表があり,何と10部屋同時での進行であった.さらに特筆すべきは,一定のテーマを基にセッションを組む(≒発表をまとめる)様な構成ではなく,1件1件が完全に独立した構成になっている点である.そのため,1件の発表が終わる度に皆違う部屋へと忙しく渡り歩く.自身の興味に応じた発表を聴講できるという点では,大きなメリットがある.一方で,“Service Design”など,一定のテーマを基にしたセッション構成と比較すると,同一セッションの中で互いの共通点や相違点を見出しながら議論を深めていくことがやや難しくなっている様に感じた.
つまり,本会議では1件1件で勝負なのであって,このことは聴講者数の偏りにも顕著な影響を及ぼす.例えば,著名者による発表と競合し,かつ疲れが出始めて皆が休息をとりがちな後半日に配置された暁には,聴講者数がわずか数名という状況に陥りかねない.実際に本会議では,開始時間になっても聴講者0名のため自主的に終了・・・という悲惨な発表も多数あった様である.多くの分野からの優れた研究に対して門戸を開く一方で,各発表への期待は実にシビアである.したがって,自らの発表に足を多く運んでもらうには,単に待つだけでなく,ソーシャルイベントでの地道な対話と関係性構築が鍵を握る.このあたりは,サービスマーケティングに端を発する国際会議らしい点であると同時に,参加者への強いメッセージでもあろう.
発表内容そのものに話しを戻すと,従来のサービスマネジメント・マーケティングのテーマに加えて,SDLを論拠とした価値共創に関する発表がやはり多くみられた.それらも,価値共創のエコシステムあるいは複数主体間のネットワークに関する方向性へと向かっており,システム論的な展開が指向されつつある様に感じた.その様な中,新井会長からは,“Unified Description of Services: Smile Model of Service Activities”との題目で,日本におけるサービス学/サービス科学の紹介と,二者間に立ち返った価値共創のための概念的フレームワーク(第2号の村上輝康氏の特集記事を参照)に関する発表がなされ,好評を博した.とはいえ,日本からの発表は例年10件弱であり,本会議のコミュニティ内での勢力は大きいといえない.会員の皆様からの今後の貢献が待たれるところである.
来年のAbstract〆切は,2014年11月20日である(もうすぐです!).サービス研究に携わる一人として,来年のICServとFrontiers in Service Conferenceの併催が,バックグラウンドの異なる研究者・実務者間の更なる相互交流を促すことを期待している.結局のところ,互いの活動領域に踏み込み,互いの流儀を学び,互いに研鑽していくという土台こそが,本号の特集テーマでもある「サービスマーケティングとサービス工学の融合」をより力強いものにしていくのであろう.
〔原 辰徳(東京大学)〕