サービソロジー
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特集:「公共サービスにおけるイノベーション創出のキーワード」
富山市におけるコンパクトなまちづくりの背景
京田 憲明本村 陽一山下 倫央
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2015 年 2 巻 1 号 p. 34-39

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1. はじめに

近年,富山市が進める公共交通を軸としたコンパクトなまちづくりが注目を集めています.これまでの富山市の取り組みに関しては,今特集の「コンパクトシティ戦略による富山型都市経営の構築」において,富山市都市整備部 京田 憲明様に執筆していただきました.高齢化を背景として,コンパクトシティというコンセプトは今後ますます重要になってくると考えられていますが,富山市の取り組みを模倣するだけで,狙う成果が得られるでしょうか.本インタビューでは,コンパクトシティの構築において富山市が成功を収めた背景を京田様に伺いました.

2. コンパクトシティの始まり

2.1 コンパクトシティの土台

山下 富山市がまちづくりであったり,環境事業であったりということで,日本全国というだけでなくて,世界からも注目を浴びています.

今回の特集記事では,京田様に富山市の取り組みや今後の展開について書いていただいておりますので,このインタビューでは記事に書ききれなかったお話を聞かせていただきたいと思います.まずは,富山市のコンパクトシティに向けた取り組みが始まった背景を教えていただけないでしょうか.

京田氏(以下敬称略) 富山市がコンパクトシティと言い出したのは,平成14年に森市長が市長になったときがスタートだと思っています.ただ,その前にも富山市の中でも,これからはまちづくりというか,まちの目指すことはこれまでとは違ってきているのではないかという議論がありました.

その始まりは,平成4年に都市計画法の改正により規定された18条の2によって都市計画マスタープランを作るということが決まったことです.そのときに,蓑原 敬さんという建設省におられた後,独立して都市計画事務所を持たれた先生に相談したのだけれども,「これからは昔みたいに,どんどんどんどんでかくしていこう,っていうまちづくりじゃないよ」と言われたんです.だけど,当時の富山市はまだコンパクトシティをよく分かってない.車をどんどん走らせて,環状道路をドーンと引いて,っていうことをやっていた時代なのです.都市マスタープランを作りながら,相変わらず富山市は放射道路とか環状道路という絵を描いていました.東京大学の都市工学科の学科長で退官された後,長岡技術科学大学におられた森村 道美先生にも,「まだまだ道路を増やすような計画作るの?」と言われたのです.

そういうことがあって,これからは中心市内って都心がどうあるべきか,コンパクトな核になるのはどうしたらいいか,っていうマスタープランを作っていました.

富山県内の山田村は各家にパソコン全部1台ずつ配って電脳村と言われた時代があって,平成12年に当時の小渕総理がそれを見に来た時に,総理が「これから,歩いて暮らせる町まちづくり事業というものをやります」と全国に向かって発表されたのです.富山に来られた時に総理が言われたことだから,我々も応募するために書類を作りました.その時にたたき台になったのはその前にやっていた都心マスタープランを計画した時の議論で,これからの町はこうあるべきだって,歩いて暮らせる町を作っていくべきだ,っていうものを作って出したのです.その結果,全国20都市の1つのモデル都市に選ばれて,歩いて暮らせる町まちづくり事業を国の予算で調査をするということになりました.蓑原先生を委員長にして,計画づくりをして,警察庁がスーパー防犯灯といっている道路の照明灯と警察に連絡がつくものを設置したんです.国土交通省の直轄でそれまでは車道照明しかなかった国道に歩道照明を付けたりして,何か変わり始めるきっかけになっていたと思います.

2.2 森市長の就任

山下 変化の素地はその当時からあったわけですね.平成14年に森雅志市長が就任された後の変化についてもお教えください.

京田 森雅志市長が就任して,平成15年に国土交通省から2人目の助役,2人目の副市長を呼ぶことになって,そこから何かくすぶってちょっと何となく煙が出そうになったやつがボッと火がついて,広まったっていう感じでね.

ただ,そのときも平成15年に市長から,まずは市の職員がコンパクトなまちづくりって一体何かと,ちゃんと自分たちで考えろ,と言われて,10人ずつの2チームを作って,まちづくりについて研究する職員の研究会ができたんです.私はそのころ40半ばぐらいで片方のグループ長をやれと言われて,他のメンバーは30代ぐらいの人たちが集まって,コンパクトなまちづくりは何が必要か,考え始めました.

職員自身がそもそもコンパクトシティ,そんなもの必要なのっていうところが,まだほんの10何年前でした.それでもいろんな外国の事例とか何とか勉強していくと,やっぱり必要だと職員も思い始めます.

同時に市長はタウンミーティングで市民の人たちに「これからはコンパクトな町が必要です.今は自動車で生活できるけど,既にもう3割の方は自動車の運転ができません.高齢化がどんどん進んでいる中で,どんどん自動車が運転できなくなります.あなたもできなくなります.そのときに公共交通がないと言っても手遅れです.だから,今のうちに公共交通をしっかり残しながら,少しずつ自動車だけに頼り過ぎない生活に変えていきましょう」と言っていたんです.

そのためのモデル的な事業というのが,1つはLRTです.公共交通をしっかりさせようということで,富山港線を路面電車にして使いやすくしよう,というのがありましたコンパクトシティは公共交通をしっかりさせて,沿線に人を住まわせる狙いがありました.そのため,2つ目は沿線に住む人には補助金も出します,新しく住宅を選ばれるなら,路線沿線の町の中に住みましょう,ということをやりました.3つ目は中心市街地の活性化です.郊外のショッピングセンターに行ったら,建物の中に広場があって,子どもが遊ぶ場所があるけど,町中にはない.それなら町の中に替わる物,親子連れが来ても楽しい場所を用意するということでグランドプラザという広場を造りました.

2.3 まちづくりの成果

山下 富山市のコンパクトなまちづくりの取り組みはどのように受け入れられたのでしょうか.

京田 LRTやグランドプラザが平成18年,19年に出来上がって,どちらも評判が良かったんです.LRTは利用者が2倍,3倍に増えるし,グランドプラザは人が全然居なかったのだけれども人が集まってくるし,どちらも評価が高かったです.それは外からも言われるし,市民も「あれはすごく良かったね」って言ってくるようになりました.

市長が「これからはコンパクトなまちづくりが必要だ」って,「そのために電車とか広場とかそういうものをこれから作っていくんだ」って言って,目に見えるものの評判が良いので,概念的な目に見えないものもみんないいと思ってくれました.その目に見える象徴的なものが良いとなったら,コンパクトシティは良いというふうになってきた.

本村 そうですよね.実感としてもコンパクトシティが何かはその地域ごとに違って当然だし,どの形になるかをやっぱり自分たちなりに消化して定着することが大事ですよね.コンパクトシティをくださいといって買ってくるようなものではないのですよね.

京田 そうですね.富山の場合は,象徴的な事業が2つうまく成功して,さらに,他にもいろんな事業をいっぱいやっています.

今度やろうと思っているのは,町中にマンションを持っている人は友達が遊びに来ても,あるいは親戚,家族が来ても,マンションだと駐車場がない,だから来づらいでしょうと,だったら市営駐車場の一角を空けておくから,そこに停めていいよということです.それからこの春に新幹線が金沢までつながりますよね.そうすると富山から金沢に通学をする人たちの通学定期券に月額2万円を補助します.

もういろんな手を打って,富山はコンパクトなまちのために切り口を変えてやっているところを見せてこうとしています.包括的にやってきたことが,富山のコンパクトなまちづくりにつながっていると思います.

本村 そうですね.コンパクトシティっていうのは,今のような個別の政策のパッケージのブランドですね.

京田 そうなんです.だから例えば,電車のことについて視察に来られるけど,電車を通そうとしても,全然うまくいかない,って言われる.しかし,そもそも富山の場合は電車が先じゃなくて,コンパクトシティがあって,その1つとして電車もやります,あれもやります,と言っています.電車を否定すると,コンパクトシティそのものの否定で,他のものも否定してしまうことになるので,電車だけでいい悪いという議論はあまりありませんでした.

3. コンパクトシティを支える組織

3.1 横への広がり

本村 コンパクトシティを進める上で,いろいろな政策を打ち出すということで,都市政策の通常業務に加えて,コンパクトシティに関する業務も合わせて行うのは非常に大変だと思います.富山市は,どのように対応しているのでしょうか.

京田 昔だと都市計画は,道路をどうしましょうとか,用途地域をどうしましょうとか,建築の許可はどうしましょう,といった都市計画法,建築基準法といった特定の法律の中でしかなかったんです.でも,富山市の取り組みは横串でグッと刺しながら,何か新しいものをいっぱい引っ張り出してくるみたいな話ですよね.それは大変です.

本村 そうですよね.それに関わる他のセクションも合わせてという動きになると思います.何か特別なマネジメントはしているのですか.

京田 市長が「セクショナリズムを廃止しろ」っていうのはもう口酸っぱく言っています.これまでは,自分の所のテリトリーを守って,これはうちの仕事,これはおまえの仕事って,変な物はこう押し出して,自分の所を守って,でもここはかっちりやるという,いわゆる専門性を深めていくという人たちがそこの部署のプロで大事と言われていた時代が長かったです.でも,今はそれではちょっと駄目だと.専門性はちゃんとしっかりしてなきゃいけないけど,横とどうつながれるかという方が大事だという意識に変わりつつあります.

本村 以前伺った時に,コンパクトシティの良い効果を考えると,町というよりは健康まちづくりという形で,人の部分が入ってきたとおっしゃっていましたよね.そうすると福祉系の意識も必要っていった時に,どういうふうにして,隣のセクションのことまで考えられるようになるのでしょうか.具体的にはどういうふうに進化していくのかを教えてください.

京田 横に広がった部分は深く知るわけもないし,知見も持っているわけではないです.だけど,ちょっとはみ出して見た時に,何か関わりがありそうな所が見えてくる.それで,見えてくると「何かここでうまくやれることがあるんじゃない」と言って,自分の専門的なことを知っている人とか先生とかと話をすると,またその人たちが「あまり深くは知らないけど,知っている人を教える」と話になると,うまくクロスして,何かが出てくるっていうような感じですね.

コンパクト&ネットワークと国土交通省が言っていますけど,そのネットワークは,国土交通省が言っているネットワークは,交通のネットワーク,富山で言うと『団子と串』の串の意味で言っているのですが,実はそのネットワークは手段で,動いているのは人とか情報が動いています.そういう人とか情報のネットワークがコンパクトでありながら,どうネットワークがつながっているかっていう,そこに行き着くような気がします.

3.2 ぶれない方針

本村 これは個の意識が変わることがないと,いくらトップでそういった空気を作っても苦労すると思うのですが,どうして富山市の職員の方はそういう連携ができるのですか.

京田 10年かかりました.ただ,10年かかって,ようやく何かそういう気配が見えてきたというところです.これから何か変われる可能性があるなっていう感じになっている.それから10年間方針がぶれない.特に首長がぶれないのがすごく大事です.ぶれないということがスピードにつながっていると思います.

富山の場合はありがたいことに,市長が絶対ぶれない.だから,目指すものがあって,何か話を進めようとする時に,例えば担当者が調査の段階で「こうだ」って言う人に対して「いや,それはノー」と市長に聞かずに言えるんです.それを担当者も言える.係長も言える.課長も言える.部長も言える.そうすると声の大きい人が何か言い始めても,きちんと対応できるのです.富山市はもうこういう形になっていて,何を言ってもう下から上まで,みんなが同じことを言うから,駄目だと諦めてくれて,結論が早く出るんです.

そうすると余計なことに悩まなくなるんです.この件で,市長は絶対こう言うに決まっていると,こう言うわけがないと.外部に対応した後から「これはこうって言っときましたよ」と報告すると,市長も「おお,それでいいよ.もし俺の所に来てもそう言うから」と言ってくれるので,安心して仕事できます.そうすると本当に仕事の回りも早いし,その間手も空いてくるから,余計なこともできるし,いい循環に入る.

本村 そうですね.これはコンパクトシティでなくても,組織として理想的ですよね.

京田 はい.その中で10年ぐらいやっていて職員の意識が同じ方向に向き始めているということですね.

本村 それでも10年はかかったっていうことなので,実際の効果としては見えにくい所ですよね.コンパクトシティについて是か非かではなくて,コンパクトシティという共通の目標を掲げて,体制意識改革ができたっていうところを学ぶ必要があるというわけですね.

京田 そうですね.コンパクトシティだからって電車走らせましょう,広場作りましょう,では絶対駄目ですよ.

3.3 長期的な視点

山下 実は今日の京田様のインタビューでは,コンパクトシティには,こういうモノが必要で,富山市はそれを準備した,という話を聞けると思っていました.でも,そうではなくて組織が変わって,共通の目標に向けて動き始めるということが重要だということが分かりました.まちづくりという公共サービスを進めるにあたって,どのようなことを重要視しているかをお教えください.

京田 富山市では,新しく家を建てるのであれば,公共交通の近くの方が便利で,将来に向かって良いですよ,ということ言っています.でも,今まで住んでいる人はしょうがないから,そのままインフラは維持しなきゃいけない.じゃあ,移り住んでもらっても効果がないのかというと,そうではありません.

全員が移り住んだら,社会資本を止めてスリム化できて,道路の補修,水道の供給,ごみの収集とか一挙になくなりますが,全員がいなくならなかったら行政のコストの削減にならないのでは,と言われる人もおられます.

実際,その通りです.でも,その通りだけど,公共交通の近くに住んでもらうと,公共交通が維持できるのです.20年,30年,40年後に公共交通が残っているのと残ってないのでは全然違う.

本村 富山市は,市民が想定している期間よりも,もっと長期的な視点でコンパクトシティを評価されているのですね.富山市は,コンパクトシティの効果を評価する時に,長期の財政基盤的なメリットがあるというロジックも持たれていたと思いますが,他の自治体はそういったことは意識していないのでしょうか.

京田 よく言われるのは,郊外にショッピングセンターを造りたいっていう商業者がいて,地元の首長が「そこから固定資産税も来ます.雇用の機会も生まれます.うちの市にとっても大変ありがたいことです」と言うことがあります.

確かに税金は建物が建てば入ってきます.だけど,ショッピングセンターは20年,30年しか使わない建物だから,固定資産税はそれほど入ってこないし,町中の商店町がさびれて地価が下がった時に減収する固定資産税と比較したらどうなのか,という試算が必要です.ショッピングセンターが来ると,これだけ入ってきます,って言っても,ショッピングセンターのせいで下がる部分を計算していないのです.

もう1つは,雇用の機会が増えると言うのですが,今,雇用機会はたくさん必要な所があります.特に福祉系の分野は,人が居なくて困っている.恐らくショッピングセンターでパートとして働くような女性と,福祉系の現場で働くって人は重複しています.必要な所からはがして,雇用の機会が増えると言っても,その人はもらえる給与はあまり変わらない.そこの町という視点からすると,福祉が駄目になっていくことは,どうするのかと.そういう影響の方が大きいんだけど,その議論はないでしょう.

本村 だから,その見ているのが一歩先しか見てないのと,その後どうなるっていう,その先まで見ている差ですよね.

京田 全貌を見る癖をつけないといけないと思います.私は市長でもないし,うちの職員もみんな一人一人は市長ではないけれども,自分の部だけを見ていて,これはいい,悪いって言っていたら駄目です.全体で,市がどう動いているか,今どこが弱っているか,どこが足りないか,そのことを常に職員一人一人が意識していると,いいとか悪いとかっていう見方がずいぶん違ってきます.

3.4 公共事業の乗数効果

本村 かなり共感がありますね.ただ,今の教育体系の中でそれができる人が育つかというと,なかなかできない気がします.富山市では,職員の皆さんが全体を見られるようになるというのは,どうされているでしょう.

京田 今の富山市では,こんな事業やりたいと言った時に,1つの事業が1つの政策目的のために効果があるといっても採用されません.

例えば,おでかけ定期券*1を配れば高齢者が街中で買い物して,町の中の商店がにぎわって,中心市街地にぎやかになります.だから,このおでかけ定期券をやりましょう,と言っただけなら,今の富山市では蹴られてしまいます.さらに,おでかけ定期券を持っている人が出かけることで,健康になりますとか,それから乗客が乗らずに走っているバスに少しでも乗客を乗せたら,公共交通の収益性が高まりますとか,いろんなところの効果を説明しないと事業として認められない.こういうことをやっていると訓練になります.

本村 そうですね.波及効果のいわゆる,乗数効果が高いことを意識するようになるわけですね.

京田 そうですね.そうすると他の所のことも知らないと,うちは関係がありませんと思っていると,発想が出てきません.だからやっぱり商工部や農林部が今どんなことで困っているか,何をやっているか,どういうことを目指しているかということを知っておく必要があります.

本村 今の話はサービスの生産性向上というキーワードで,波及効果の乗数効果がまさに生産性ですよね.予算投入した額と同じ額増えたというだけでは不十分っていうことですよね.

京田 実際には今までの事業も,目に見えないところでそんな効果を出している事業はたくさんあるんだけれど,全然話題にもしないし,チェックもしないし,気にもしなかったけれど,今後は意識しなきゃいけないところです.

本村 それは予算を要求する時にもさることながら,実施した結果についてもやっぱりフォローアップを行うんですか.

京田 どうやったらその効果が得られるということは,すぐには難しいですね.例えば,おでかけ定期券が健康につながるということは検証が難しいと思います.

本村 そのフォローアップを何かビッグデータを使って見られる形にしてみたいですね.

京田 そうですね.例えば,都市整備部が健康とか福祉のことを気にすることができます.そうすると,結果的に見たら,都市整備部がおでかけ定期券っていう事業をやりたいといってやっているんだけど,そのことが長い目で見たら,福祉,健康施策に効果を及ぼしている,ということになりますね.逆に言うと,商工部が何か事業やった時に,それは商工部としての理由があってやっている事業だけど,その中に町中の中心市街地のにぎわいとかっていうことを,要素に入れてくれたら,商工部が中心市街地のにぎわい,活性化っていうことの応援もしてくれるってことになりますよね.

本村 複数のセクションでやるとすると,どっちの手柄だって話になって大抵はこじれる.それが起きないのが素晴らしいと思います.

4. 終わりに

山下 そろそろ時間となりました.最後に今後の富山市の展開についてお教えください.

京田 人口動態で見ると,最近になって社会増がはっきりしてきて,富山市全体としては社会増です.ここ10年で減から増に転換しています.ただ,自然増減の亡くなる方が多くて,人口と全体として増えるというところまでそれはいかないし,この先もそこは非常に厳しいと思います.

また,新幹線がこの春開業しますが,富山市は公共交通を整備していますから,その中で新幹線という高速大量輸送の交通手段ができたことは,最終形が全部セットで揃ったということなので非常に大きいと思います.だけど,新幹線が来たからそれだけでどうなる,ということは絶対あり得ないです.新幹線は単なるハードウェアで,その先にどうサービスにつなげるのかという話だと思います.

ここ10年ぐらいのまちづくりの経験で,職員がだんだん意識するようになっていったのかなと思います.問題の本質を探るというところができてきました.「ドリルを買いに来た人が欲しいのはドリルではなく穴である」という話がありますが,そういった部分を意識するようになりました.

都市政策部は「道路作ってなんぼ」,「公園造った.ほら使え」って言っていましたから.でも,それだけじゃやっぱり駄目だろうと思って,作った道路は誰がどうやって使ってくれるのかを考え始めたんです.

富山市にこれまでの積み重ねがあれば人は来るし,なければ来ないでしょう.観光ということで言うと,明らかに金沢のほうが先に進んでいます.そこは富山が見劣りするので,仕方ないと思っています.だからといって,いきなり富山が観光,観光と言っても,インパクトはありません.それなら,1回富山に来た人が富山を頻繁に訪れるためのリピーターになってもらう.観光だけではなくて,ビジネスでもあり得る話なので,いろんなことで関わりを持つ人を増やしていくことが今後の課題だと思います.

本村 最後に「ドリルと穴」の話が出てきたのは驚きました.今日の京田さんのお話を聞かせていただいて,コンパクトシティは単なるモノの話ではなくて,サービスと非常に親和性の高いテーマだということが分かりました.インタビューだけではなく,京田さんに富山市のコンパクトシティの話を『サービソロジー』に書いていただいて良かったと思います.

山下 今日はどうもありがとうございました.

著者紹介

  • 京田 憲明

富山市都市整備部長.昭和54 年明治大学卒業.同年富山市入庁.平成18 年都市再生整備課長.平成21 年農林水産部次長.平成24 年建設部理事.平成25 年都市整備部長.技術士(都市及び地方計画)

  • 本村 陽一

1993年通産省工技院電子技術総合研究所入所.2001年産業技術総合研究所情報処理研究部門.2003年同研究所デジタルヒューマン研究センター主任研究員.2008年同研究所サービス工学研究センター大規模データモデリング研究チーム長.2011年同研究所サービス工学研究センター副研究センター長.2015 年国立研究開発法人産業技術総合研究所情報技術研究部門副部門長,統計数理研究所客員教授,東京工業大学連携准教授兼務.

  • 山下 倫央

2002 年北海道大学大学院工学研究科 システム情報工学専攻 修了 博士(工学).2003 年産業技術総合研究所 サイバーアシスト研究センター 特別研究員.現在,国立研究開発法人産業技術総合研究所人間情報研究部門主任研究員.社会システムシミュレーションに関する研究に従事.

*1  交通事業者と連携し,満65歳以上の高齢者を対象に中心市街地から市域全域のどこへ出かけても公共交通料金を100円とする割引制度

 
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