サービソロジー
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Print ISSN : 2188-5362
巻頭言
アカデミアとサービス企業の切磋琢磨
田嶋 雅美
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2016 年 2 巻 4 号 p. 1

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「経産省と文科省では,勝手が違う……」平成26年度に始まった経済産業省の「産学連携サービス経営人材育成事業」の集まりで,アカデミアの声が漏れ聞こえる.「勝手が違う」の大きな要因は,「産業界のニーズを取り入れる」ことという.サービス企業は,自らの勉強不足もあり,本当のニーズを浮き彫りにできていないのが実情だ.混迷しながらも,こつこつと積み上げてきたアカデミア達の理論や研究を,ようやくサービス企業のオピニオンリーダー達が,にわか勉強(?!)で知り始めたのが現状である.

しかし,いざ勉強を始めてみると,思っていたよりサービス人材育成に必要なフレームワークが網羅されているのに気づく.一方で,大きな違和感も感じる.「理論を裏づけるケースサンプル数が少なすぎて信憑性に欠ける」「本質を,ざっくり言い当てているとは言い難い」というサービス企業側の声がこぼれ落ちる.「ケーススタディの深さも足りていない」サービス業は,成り立ちの背景からそこに至った経緯を繊細に仕分けしないと,表層的な分析では納得できない結論となる場合が多い.自分達が大事にしてきた哲学をばっさり否定された紋切り型の結論に聞こえるときもままあり,「マインド」を重要視するサービス企業の心情として,勉学に入り込む前に反発心のほうが先に立ち,スタートラインに立てないという戸惑いが見える.

しかし,わかってしまえば大した話ではない.産学の切磋琢磨により,アカデミアが実践サンプルを数多く取り入れ,サービス企業に届く言葉で語り始めれば問題はない.私は「しめしめ」とほくそ笑むのである.

今,サービス産業(特に生活産業)の人材育成には,大きな課題が2つある.1つは,「既存の事業者の再教育」だ.共通言語をつくらねばならない.サービス企業は,企業規模・組織成熟度と,人材の質・量が,必ずしも一致していない.製造業なら,同規模のメーカーの同じ役職であればコンピテンシーも数も大差ないように配置されていると思われる.しかし,サービス企業はそもそも組織が文鎮型のところが多く,直接,現場に関わる従業者層に比べ,経営を担う戦略メンバーは圧倒的に数が少なく,コンピテンシーもまちまちである.レベルをそろえるためには,業界を横断した経営者群の理解が必須なのである.

2つ目の課題は,「未来戦略にむけた投資」ができるかということである.サービス企業の大半が「研究費」を持たない.従来,オペレーション重視の経営で十分に市場で勝ち組になれたことに起因するのだが,IoT技術が進化する中,スマホ対応ひとつとってもすでに後れをとっている企業は多い.未来のサービスデザインをダイナミックに描くには,未来投資と人材育成をかねた「研鑽の場」が必要だ.サービス生産性をあげるには,人がすべきこと以外は徹底的にIT化・機械化するのは鉄則であるが,技術革新を先読みせねばならない時代に入った.例えば,データ分析リテラシーは,早晩,AI技術でカバーされると予測されている.テクノロジー進化をいち早く察知し,AI分析を利活用できるプレイヤーの育成に力点を置くべきなどと考えるならば,アカデミアとサービス企業の切磋琢磨する共同研究の場は「もってこいの場」となる.未来のサービス人材を育てるためにも,両者の躍進的な取組が創出されることを大いに期待したい.

著者紹介

  • 田嶋 雅美

(株式会社フランチャイズアドバンテージ代表取締役)

 
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