2016 年 2 巻 4 号 p. 34-39
下剋上プロジェクトとは,著名な研究者や実務家とサービス学に係わる若手研究者との交流を促すことでサービス学全体を盛り上げることを目的としたプロジェクトです.本記事ではこのプロジェクトの一環として,サービス学における重要なテーマについて,若手研究者2名が,実務家である株式会社ハチバン取締役 吉村 由則様にインタビューした内容をご紹介します.
株式会社ハチバンは,北陸地域を中心に「8番らーめん」のブランドで飲食店を展開する1967年創業の外食チェーン企業です.ラーメン店だけでなく,居酒屋や地産地消型レストランなど,幅広く食の価値を提案しています.1992年にはタイで1号店を出店し,現在店舗数はタイ全土で100を超えています.また食育の取り組みにも積極的で,定期的に自社食品工場・ハチバンフーズパークにて親子料理教室を開くなど,地域密着型の企業として親しまれています.今回のインタビューでは,この企業の歩みを踏まえ,特にお客様との出会いや価値づくりの場である,サービスエンカウンターのマネジメントに焦点を当て,その取り組みについてお話をお聞きしました.
白肌 御社の基本的なサービスの考え方についてご紹介ください.
吉村氏(以下敬称略) 当社経営理念の最初の一節が,『私たちはより多くの人々により良い商品をより安く,より良い環境の中でお届けし続けるよう努力します』で,これが全ての基本なのです.ハチバンのラーメンビジネスは高級なものであるとか,特殊なものを販売するのではなくて,一般大衆の方に食事していただく,それも楽しい雰囲気の中で,いい環境の中で食べていただく,それをいかに我々のチェーンビジネスとして安く価値ある商品を提供できるかが大切と考えています.

値段が高いか安いかじゃなくて,価値に対してどうかっていうことですよね.だから,我々も過去から値上げについては非常にシビアに考えていますし,常に品質の価値,そして原材料の価値を大切にしています.
ラーメンという商品はどちらかというと化学調味料を多く使っています.身体に少しでも配慮しようという思いで,何年もかけて化学調味料を少しずつ取り除いたり,健康にいい素材を取り入れたりしてきました.
それから,8番らーめんの営業はランチタイムが特に忙しく,お客様で混雑します.皆さん1時間の休憩の間に早く食べたいわけです.どれだけ多くのお客様が来店されても,基本は8分以内に提供しなさいということで,スピード提供というのは重要な要素になっています.いかに早く提供するか,そのための機械の開発や,調理オペレーションの開発を重視してきました.
今,一番の重要課題は接客の価値を上げること.もともとハチバンはサービス業なのです.良い接客が当たり前ですけども,近年,物販業の接客レベルが非常に上がっています.特にコンビニの接客レベルは高い.ですから,我々もこれまで以上に接客の価値を上げる必要があります.従業員一人ひとりの意識を高めるために,接客コンテスト全国大会を開催し,モチベーションを上げながら接客レベル向上の取り組みをしています.接客の価値をしっかり上げていきながら,できるだけ一般大衆の方が食べられる価格帯で提供していきたいと思っています.さきほどの経営理念をそのままずっとやり続けているということです.
白肌 サービスエンカウンターの品質を高める上で,具体的にどのような工夫をしていますか.
吉村 お召し上がりいただく環境に関しては2つあります.1つはハードの環境です.お店づくり,空間.最近のお店は天井を高くして,より開放的で,外からの自然の明かりが店内に入りやすい空間を造っています.昔のお店はカウンター席中心で,席と席の間隔もぎりぎりで狭い.でも,今はカウンター席でもゆったりと座れるようにしたり,また高齢者に配慮していすの高さも低くしたり,ハード的には,ゆったりと食べられる空間にしています.
もう1つ大事なのが,間接の接客です.接客の中には,直接の接客と間接の接客の2つがあると思っています.直接の接客は,「いらっしゃいませ」と言ってお水を持って行って,「ご注文をお伺いしてもよろしいでしょうか」と,お客様と直接のやりとりをすることです.間接の接客は,お店の中に入った瞬間の空間の雰囲気です.そこで大事なのは,従業員同士の言葉のやりとりです.例えば味噌らーめんとギョーザを注文したら,「ギョーザご注文頂きました」と注文を通す,というふうに.お店の中の活気やちゃんと注文を取っているという安心感です.というのも,従業員同士のおしゃべりなど,間接の接客に対するお客様からのクレームが多いのです.昔は例えば,麺が伸びているとか,スープがぬるいとかでしたが,今は従業員同士がしゃべっているとか,店長が新人教育して「(失敗したときに)こら,何やってる」と言って怒鳴る,それが,「せっかく家族で食事しているのに,そんなところで叱るな」と言われてしまうのです.従業員同士のやりとりにもお客様は敏感なのですね.お客様がゆったりと安心して食事を楽しめる空間を造るようにしています.ハードの部分とソフトの間接の接客を重点的に教育,指導しています.
増田 コスト削減と,サービス品質上,落としてはいけない部分とのバランスについてどうお考えですか.
吉村 当社の考え方は,商品の品質は絶対に落としてはいけない,さらに価値を上げていかなければならないということです.商品の品質や素材以外の部分でコスト削減しています.接客のレベルを落とさないで,機械化していくこと.券売機のテストもしています.券売機を使うことによって,注文を伺いに行く人,会計する人が不要となります.実はこれ,コスト削減というよりは,人手不足への対策でもあります.最近の飲食業はどこも人が集まらないのですよ.
飲食業というのは休日も週末も仕事で,やっぱり体力も使うし,過酷な仕事なので集まりにくい.だから,コスト削減というよりは,いかに人手をかけずに同じ品質・接客で提供できるか.そういう細かいところの削減をしています.キッチンの中を3歩で行くところを2歩で済ませられるようにとか,10分かかって調理できるものは,8分にしようとか,5分にしようとか,そういう機器の開発も自社で色々とやっています.工場でできることは工場で,お店では注文を受けてから提供するまでの時間を短く,それから,あまり技術が要らないように.だから,品質以外,接客以外のところで,どうやってコストを下げるかが課題ですね.
白肌 サービス学会でも調理場のプロセス改善に科学的に取り組む例が報告されています.
吉村 そういった計測をして効率化を図るようなチェックやテストみたいなことはやっています.8番らーめんの調理では大きな鉄のフライパンを振るので,かなりの重労働です.これは教育するのも難しい.昔の人と違って今の人は,なかなかそういうことすらしたくないのです.このことを簡単にして,作りたての美味しさをお客様に提供できるように,調理場の中では,重労働をしなくてもラーメンを作れるようにするテストをしています.社内の商品開発部内には店舗と同じキッチンを造っています.そこで様々な時間の計測をしたり,プロセスをきちっとチェックしたりして,マニュアルを作り,それをお店で実証する.例えばスープは,昔は寸胴からレードルですくって入れていましたが,今はボタンを押して,一定量入るような機器を開発しています.
白肌 関連して,ラーメンのドライブスルーを導入したと聞きました.ユニークな取り組みですね.
吉村 北陸のラーメン屋さんでは当社が初めてで,他のラーメン屋さんではやってないと思います.もともと外食産業はお店の中で食事をしていただいておりましたが,食べ方が変わってきたと思います.今は,お昼にコンビニの駐車場に車が10台止まっているとしたら,半分以上が車の中で食べていますからね.
お店の中を見てもそんなに人はいない.1人でお店に入って食べるということが減っています.今の子どもは小さいときから自分の部屋を持ち,自分の空間をものすごく重視します.車の中でテレビを見ながら自分の空間で食事したい.カウンターの横で知らない人と一緒に肩を並べて食事することに抵抗がある.だから,お一人様に対してはドライブスルーとかお持ち帰りが出来るようにしています.特に女性が1人で入りにくいことにも対応しています.ドライブスルーを利用する人の6割近くは女性ですね.8番らーめんのお店に来ていただけるお客さまは6割が男性で,女性が4割です.ドライブスルーになると逆転して,女性のほうが多いのです.小さなお子様がいてお店に連れて行けないとか,おじいちゃんおばあちゃんは食べたいけどもう足が悪くて8番らーめんに行けない,だから買って帰ると言うのです.
白肌 ここまでお話をお聞きして,色々な挑戦をする企業風土があるように感じます.
吉村 そうですね,当社はラーメン以外で色々なことをやってきました.弁当屋,うどん屋,焼き肉レストランをやったり,業務用冷蔵庫の開発をしたり,あらゆることに挑戦して,残ったのがラーメンと和食の2業態です.企業風土としたら,常に新しいことにチャレンジする,時代の変化に対応した目標への挑戦を続けようという風土はあります.
特に当社は,まずこういう商品を売ろうと,商品作りから入りますので,商品開発が中心になって新しい業態のメニュー開発を行い,よし,これは行けるぞということで,それから店舗作りに入っていきます.ですから,新しい業態を造るときは,基本商品の開発が中心となってスタートし,ある程度見えてきたなと思ったら,調理機器の開発,オペレーション開発,店舗デザイン開発のメンバーでプロジェクトチームを立ち上げて新業態を造っていきます.
白肌 タイでは100店舗を超えました.どのようにして現地で支持されてきたとお考えですか.
吉村 いわゆる海外については,基本は日本と同じシステムでやっています.お店の中ではできるだけ標準化・単純化をして,誰でもできるオペレーションを作って,その手前に必ずセントラルキッチンを造って,そこである程度の原料を加工したものをお店へ送り込んでいくやり方です.創業者の考え方は,「100店舗を造るための1店舗を考えなさい」です.ですから,タイでスタートしたときも,店を造る前にセントラルキッチンを造りました.ラーメンですから,麺やチャーシュー,スープなど,色々なものをセントラルキッチンで作るのです.それがある程度見えてきたらお店を造っていきます. 1店舗を造って繁盛したら,工場を造って多店舗化しようか,ということではありません.多店舗化できる仕組みを造ってから,1店舗を造ります.
また,日本の接客レベルをそのまま提供しています.内装空間も日本の8番らーめんのイメージを出すために,日本のイメージを前面に出して店づくりをする.ただし,商品については国によって嗜好は違いますので,現地をマーケティング調査して,ボリュームはこうしよう,味の濃さはこうしようとか.それでも,食べてみて8番らーめんだと納得できるように,現地に合わせる部分と,ここは絶対日本の品質を守るという部分はしっかりと守っています.
増田 人材育成について教えてください.海外の場合は日本とやり方を変えているのでしょうか.
吉村 基本は一緒です.調理もサービスも接客についても.海外で展開する場合は,現地のパートナーの実行部隊,セントラルキッチンを管理する人,お店を管理する人,そういう人に必ず最低3カ月間は日本で研修してもらいます.日本のお店と工場で,まず経験してもらいます.タイを例にとると,日本とは習慣が違います.だから,ともかく日本の習慣,考え方,日本の食文化も分かってもらわなければならない.まず日本で我々と一緒に現場に入って経験してもらうことが大切です.また,タイの場合は本当に人の流動性が激しいのです.入ってもすぐ辞めてしまう.店長教育して店長になると,すぐに他社から引き抜きにあう.教育は本部で集合教育します.日本に来て学んだ人が教育者になって,調理,接客の基礎を教えてから店舗に従事してもらいます.常にこれを繰り返しています.
タイでは,ショッピングセンターの中でレストラン形式の店舗を造って営業しています.基本は日本と同様に,お客様が来店されたら,まず「いらっしゃいませ」と言いなさい,「ご注文をお伺いしてもよろしいでしょうか」「お待たせしました」「ありがとうございました」と日本と同じ接客を教え,現地で再現しています.彼らは素直に日本のやり方を学んでくれました.初めてタイへ行ったとき,屋台では1食20バーツぐらいのところ,8番らーめんは1食40バーツぐらいの倍の価格で販売しました.その価格の差は何かというと,やはり日本スタイルの接客,あとはテーブルも照明も日本と同じものを使い,日本の8番らーめんとまったく同じお店をタイに再現したところです.店内用のポスターも日本のものをそのまま持って行きました.日本語が読めなくてもいいのです.日本の8番らーめんと同じ店内で,同じ接客サービスを受けて,ラーメンを食べていただくことが最重要.基本は日本のものをそのままのスタイルで営業して,上手く行かなければ変えていきます.
白肌 良いものをお客様に届けるという点で,エンカウンターの質と間接的に関係するのが,生産者との連携です.御社は地元の食材を積極的に使っていますね.
吉村 もう7,8年前ですけども一番始めはキャベツからでした.キャベツの年間使用量は一番多いですから.8番らーめんは,キャベツの品質によってスープの味が変わってしまうのです.現在ほぼ7割の店舗には同じ産地のキャベツを供給していますが,キャベツの仕入れはもともと各店ばらばらでした.時期によって色々な産地からものを仕入れ,お店によって違う.そのキャベツの品質の違いによってラーメンの味が変わってしまう.それはいけないということで,安定した品質で鮮度のいいものを使うために,物流を考えたら,やっぱり近いところからの調達が第1という結論に至り,河北潟の農業総合研究所様と一緒に8番らーめんに合うキャベツはどれかと品質の選定をしました.何十種類もキャベツを試験場で作ってもらいました.そして糖度は何パーセントが適正か,形や色もある程度基準を決めて品種選定をして,それをまず地元の農家さんに作ってもらう取り組みをしました.農家さんの写真を撮り,直営店でパネルにしたり,モニターで表示したりと,今日のキャベツはこちらの農家さんが作りました,という表示をしました.そのときのアンケートを見ると,お客様がキャベツに求める第1優先は「安全・安心」でした.地元の顔が見える農家さんが作ったという安心感です.
それから地元の生産者の方に,この品種で作ってくださいとお願いしても,最初は「分かりました」って言う人は誰もいないのです.農家さんは作ったことのない品種は作りたがらないのですよね,失敗したくないし.当然ですよね.でも,そこを「いや,8番らーめんではこのキャベツが欲しいから,これを何とかやってください」と,「できたら全部買い取ります」というお約束をして,少しずつ生産農家さんを増やしてきました.
「中島菜」のケースは,まだまだ生産量が少ないときにJAさんを訪問して,8番らーめんの新商品として開発中の「菜めし」に使用したいとお願いしました.最初はなかなか積極的になっていただけなくて,納品された「中島菜」の品質はばらばら,サイズもばらばらで,加工したら歩留まりが悪くて大変でした.1年目,2年目はいろいろ大変でした.けれども,当社は決めた量は必ず買い取るからお願いします,ということで,かれこれ5,6年継続しています.生産者さんも少しずつ量を増やしていただいて,8番らーめんなら安心やろうと.これはもう信頼関係しかありません.
そういうことで,商品開発自体も地元の食材で何かラーメンの具材であるとか,他の具材であるとか,そういうものを活用できないかなと,常にアンテナを張って情報収集をしています.2年前にも福井県の「越のルビー」という糖度の高いトマトを使って,「野菜トマトらーめん」を販売しました.そうすると福井県が一番売れるのですよ.やっぱり地元愛ですね.
白肌 その土地だからこそ取れるものがあります.寒い地方ならではの寒玉キャベツもそうですね.
吉村 8番らーめんでは1年を通して品質の安定したキャベツが必要です.寒玉キャベツは気温の高い時期は糖度が下がりますので,夏は北海道から,秋は地元北陸,冬から春にかけては雪の降らない愛知,滋賀から調達します.年間のキャベツ産地カレンダーを作って,生産者の方と農事会議を開いて,この時期はここから,と言うことで,北から南まで,順番に産地を決めています.これまでやってみて分かったことは,同じ品種でも気候風土によって品質が変わること.この土地ではこの品種がいいと言うのがあって,適地適作ですね.当初は品種を先に決めていましたが,安定した品質(糖度,形状,色)で調達するためには,産地の土壌に合った品種の中から8番らーめんに適したものを選んでいます.
増田 季節ごとにプッシュできる商品が変わりますね.
吉村 日本人は飲食の中で季節感を重要視します.ラーメン屋と言えども,お客様にこの季節感を感じ取っていただくために努力しています.気温や湿度によって身体が求める食べたくなるものが変化します.春から夏は冷たいメニュー,気温が30度を超えると酸味の効いた冷めんが良く出ます.「野菜トマトらーめん」は福井県のトマト「越のルビー」を収穫後の9月に販売します.「菜めし」に使用する「中島菜」の収穫は10月から3月までなのです.だから,その時期に収穫したもの確保して加工する.他の時期は野沢菜と他のもの使ったりしますけども.地元のものは一番いい時期に取れたものを使うことが,まず前提です.どうしてもチェーン店ですと,通年同じものという発想になりますが,無理してやっても良いものはできませんので,良いものが取れる時期だけ使用すると決めています.ただ,キャベツは通年必要ですので,年間を通して安定した品質のものを,産地を変えて調達しています.
白肌 地理的表示保護制度も始まり,食品のブランド化を取り巻く状況が変化してきています.ブランド野菜の活用についてはどうお考えですか.
吉村 ブランド野菜は基本的には取り入れていきたいと考えています.問題はコストと量と品質の安定です.特に品質と量については,「中島菜」もそうですけども,農家さんから「今年駄目やったわ」で,それで終わります.「越のルビー」のトマトも,「いやあ,今年は計画の半分しかできませんでした.」「ああ,今年は駄目か」って,それで終わってしまうのです.そこの扱いが非常に難しい.でも,ブランド野菜はある程度コストが高くても,そこに物語がしっかりできて,その価値を消費者が今は求めていますから,それはやっていきたいです.だから,本当は「もうちょっとやってよ」って言いたいところですけども,あんまりそこは関係を崩さないように,8番らーめんのことを信頼していただきながら,少しずつ量と品質を積み上げていかざるを得ないと思っています.
白肌 やはり農家さんの担い手不足の問題が大きいのでしょうか.
吉村 担い手の問題はあると思います.農家さんも高齢化していますので,手間の掛からない,売れるものを作りたいだろうと思います.「越のルビー」は小さいし,量も取れない,価格は普通のトマトの2倍ぐらい,スーパーで圧倒的に売れるかっていうと,そうではないのです.そうなってくると,生産者も,人手を使わずに大量に作れるものに,どうしてもシフトしてしまう.なかなか難しいのです,正直言って.最後は自社で.自分たちで栽培することもやっていかないと将来的に駄目かなとは思っています.いかに原料をしっかり押さえるかは,我々の一番重要なところですから.重要な分だけ内製化するしかないかな,と思っていますけどね.
増田 地域と食を関連づけることで生まれる物語に注目して食の価値を提案する取り組みが進んでいます.
吉村 今どこのお店へ行っても,まずいものは売っていません.どこで食べてもそこそこ食べられる.じゃあ,それにプラスどんな価値を付けなければならないのか,高いコストの原料を使えば,より良い商品はできますけど,それに見合った価格で売れるかというと,売れないわけです.だから,レベルの高い接客,リッツ・カールトンとまではいかないにしても,おもてなしの心でお客様に気の利いた一言をかけられる,決まった言葉以外に臨機応変に話しかけられることがものすごく大事なところです.特に男性の年配の方には声をかけると固定客になっていただける.そういう教育はこれから必要です.あとは,他にないもの,まだ知られていないようなものを我々が発掘してくること.「中島菜」はあの当時,多分誰も知らなかったと思います.我々も金沢にいて知りませんでした.なにしろ地元スーパーにも並んでいませんでしたから.本当に限られた地域で昔から食べられていたもので,そこにちょっと健康にいい効能がある,「中島菜」は血圧を下げる成分が入っていました.それを我々が商品化していく.それをしっかりPRして販売するとお客様は,それを1つのきっかけにして,また8番らーめんへ来てくださる.そういうことの繰り返しです.
今,酸辣湯麺(サンラータンメン)を販売しています.日本でまだそんなに酸辣湯麺という名前も知られていない,どこにも売ってなかったのですが,中国に行くと,酸辣湯は日本のみそ汁のようなもので,どこの地方都市へ行っても,酸辣湯があります.酸味とか辛味とか,中に入っている具材は多少異なりますけど.当時,日本人は誰も知らなかったから,じゃあ,これを日本人の我々がラーメンに合うものに作り変えようということで作ったのです.スタートのときはあまり売れなかった.でも十何年前に発売してから,毎年少しずつ認知度が高まって,徐々に販売数が伸びています.さらに改良し,米酢から黒酢に変更して,健康にいいですよと,いろんな価値を付加しながら,育てています.そうすると「じゃ1回食べてみようか」と,1回食べて,「あ,これは結構いけるね」で,少しずつ定着してきました.特に保守的な北陸の人は,新しいものにはあまり飛びつかないのです.8番らーめんのお店に行ってもメニュー見る人は少ないのです.お店に入る前から今日は何を食べるのかを決めていますから,新しいものをどうやって体験していただくか,それには商品に何か物語を付けて,頭にイメージさせて,「じゃあ,たまには1回食べてみようか」と思っていただけるようにしています.
増田 社会ではITを用いたソーシャルネットワーク化が進んでいますが,やはりおいしいものを提供するだけではなく,例えば,コミュニケーションを提供しようといった考えも必要になるのでしょうか.
吉村 今取り組んでいるのは,Facebookです.8番のハチコというキャラクターを作り,ハチコが常に季節限定や新商品の情報を発信しています.また新しいお店が出店したときや初めてドライブスルーを導入したときは,ハチコがお店へ取材に行って投稿する.ともかく興味を持ってもらうことが重要です.その他に,『なんでやろドットコム』のメール会員様にも,新情報の発信や割引クーポンの配信を常に行っています. 5年前から開始して現在,会員数は約7万人です.今の若い年代の方はテレビや新聞を見ることから,PCやスマホに変化しています.北陸ではまだテレビCMを打つと一番反応が大きいのですが,それでもやはりテレビCMの視聴が減っているのは間違いない.ホームページ,Facebook,メール会員に力を入れています.
ご質問を社会とのつながりという側面からとすれば,市内は別として,例えば奥能登とかの郊外へ行くと,周りにお店がなくなっています.食べるところすらどんどんと.個人商店は皆さんどんどん閉めちゃって.だから,我々もどうしようもなくて,閉めたくても閉められないです.地元の方になくてはならないような存在になっています.そういうお店に行くと,夜は居酒屋代わりになっています.街中はいろんな選択肢がありますけど,高齢化していくと移動も嫌ですし,地元の近いところで,慣れたところで,知っている人のお店で,という.必然的にコミュニティの場所にならざるを得ないと思います.
次に,加賀市本店の移転を計画していますが,石川県で加賀地区は一番高齢化が進んでいます.今中学生の人口が一番少ないし.極端なところなのです.だから,3世代のお客様が非常に多いです,3世代の人もゆったり座れるような客席,車いすの方も気を使わずに入れるお店を考えています.やっぱりそういう要素は大切です.これから人口は減っていきます.昔みたいに,取りあえずかっつめて,狭いところで食べたらさっさと出ていってみたいな高回転の商売では,お客様は満足しなくなります.高回転の商売が成り立つのは,ショッピングセンターのフードコートや,駅中のような特殊なところになります.ロードサイドのお店は,ある程度大きなお店を造って,ゆったりとした空間で食事を楽しんでいただくことじゃないかなと思いますね.
白肌 今後の展開についてお聞きかせください.
吉村 今の食事スタイルは中食が増えています,中食の対応をどうしていくか.高齢化イコール,外へ出なくなりますので.中食が増えます.今後はデリバリーもやっていかなきゃいけないでしょう.
また,8番らーめんは北陸でこれ以上出店する場所がなくなって来ています,北陸以外へ出店していかなければ企業は成長しない.人口の多い関東のショッピングセンターのような,ああいうコンパクトなスペースで,低投資でオペレーションコストが安い,いわゆる人手をかけずにできるお店.さらに,品質は落としたくありませんので,より品質の良いものをということになると,先ほど申しましたように,産地との連携や,新しい調理技術の開発が絶対に不可欠になる.だから,そこがきちっとできること,仕組みができていなければチェーン展開は難しいと思います.それを今テストしながら開発しています.タイは全店レストラン型の出店,香港は全店フードコート型の出店で展開しています.香港でやっていることを逆に日本へ逆輸入していこうと考えています.
8番らーめんは創業50周年を迎えようとしています.創業の思いを忘れず,これまで以上に新しい価値を提案し続ける企業でありたいと考えています.

株式会社ハチバン 取締役執行役員 8番らーめん事業部長.1984年の入社以来,長く8番らーめんの商品開発に従事し,国内事業のほか,タイ,北京,マレーシア,香港,台湾,上海,大連等の海外出店事業においても,現地食文化の分析と,それに合わせた商品開発,店舗開発を行う.

北陸先端科学技術大学院大学 准教授.博士(学術).2009年JAISTの助教を経て2012年より現職.2010年にはテキサス州立大学マーケティング研究科にて客員研究員.持続可能性をテーマにしたサービス活動のあり方や,サービス発想に基づく地域や企業のイノベーションについて研究.

北陸先端科学技術大学院大学 助教.博士(経済学).京都大学大学院修了後,現職.主に,サービスにおけるコンテクストを考慮したコミュニケーションと評価に着目し,メタモデリング・アプローチによるITのサービス適用に関する研究に従事.