サービソロジー
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会議報告
明治大学ビジネススクール&明治大学ビジネススクールネットワーク共同開催 新規事業/ウェルネスセッション
丹野 愼太郎
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2016 年 2 巻 4 号 p. 42-43

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1. はじめに

2015年9月13日,東京・御茶ノ水の明治大学駿河台キャンパスにあるアカデミーコモンにおいて,明治大学ビジネススクール(以下,MBS)と明治大学ビジネススクールネットワーク(以下,MBSN)の共同開催による公開セミナー「新規事業/ウェルネスセッション」が開催された.MBSは,多くのビジネスパーソンを対象に,社会情勢に応じたセミナーや実務の最前線で活躍しているMBSの教授による講義,パネルディスカッション形式のシンポジウムなどの多様なイベントを毎年定期的に無料で開催している.本セッションは,MBSとMBSNの共同開催の第1回目となる.この共同開催は,MBSの教授や現役生,そして卒業生や一般の方を巻き込むことで有機的なセッションにすることを目指したものである.今回は2部構成で,第1部はMBSで教鞭をとる戸谷圭子教授による基調講演,第2部はウェルネスと関連する新規事業を実践している実務家を交えたパネルセッションが行われた.MBS並びにMBSN関係者のみならず,一般参加も含め約80名が参加し,興奮冷めやらぬまま終了した.

2. 基調講演

戸谷圭子教授より,「サービス化が変えるQOLとビジネス 〜サービス・トライアングルと共創価値~」と題した講演がなされた.

講演内容は,「なぜ今サービスなのか?」という参加者への問いから始まった.Levittの著書にあるドリルの話を例にソリューションの重要性に触れ,交換対象としてのモノやサービシィーズ(services)だけではなく,双方を統合したソリューションとしての“SERVICE”が必要不可欠だと語った*1

また,価値共創についてはスマートフォンを例に話題を広げた.スマートフォンは従来の携帯電話とは異なり,顧客自身が資源を投入してアプリ等をアレンジすることで,顧客の生活に欠かせないガジェットとして成立するのだという.実際,会場内でもスマートフォンを携帯電話として使用していると答えた人はわずか2,3名しかおらず,メールを見る,情報検索,音楽プレーヤーといった様々な回答が挙がった.使い方は人それぞれであり,メーカーが用途を押し付けず,顧客と共に様々な使用価値を作り出している良い事例である.QOL(Quality Of Life)を向上させるためには,前述の価値共創に見られるように金銭以外の価値が非常に重要である.顧客と価値を共創する考えは昔から知られており,今に始まったことではない.このことに気づき,マネジメント出来ている企業が生き残っているという.

しかしながら,効率化のみを目指して人をITに置き換えるなど,サービスに対する間違った取組も多く,価値共創が出来る企業が1つでも多くなることを望んでいると締めくくった.

写真1 パネルセッションの風景

3. パネルセッション

第2部では,戸谷圭子教授に加え,ウェルネスに関わる新規事業を実践している実務家として,井上 成氏(三菱地所株式会社 新機能開発室長),大橋 啓祐氏(森永製菓株式会社 新領域創造事業部長),高橋伸佳氏(株式会社JTB)が参加し,MBS卒業生の新井卓二氏(株式会社VOYAGE)のモデレーションでパネルセッションが行われた.

  • ●   共創によるモノ・ハコのサービス化
  • ●   新規事業のポイント
  • ●   ウェルネスにおける共創

の3つのテーマについて,各実務家の話題提供をもとにディスカッションが進められた.まず,3名が取り組んでおられる新規事業について簡単に触れておきたい.

井上氏からは,三菱地所が大丸有*2で取り組んでいる新たな街づくりが紹介された.安全・環境・健康についてステークホルダーと共に課題を解決する活動を行っており,最近では,異業種間で価値共創する場の提供や健康をテーマに新たな街づくりをしているという.大橋氏からは,オフィス設置型販売「森永プチチャージ」が紹介された.森永製菓が顧客の手元に近づくことを目的に,今年から東京23区でスタートさせた実証実験的な新事業である.顧客の利便性に対する意識や価格など,顧客接点を持つことで新たな発見があるという.高橋氏からは,JTBの新事業である医療の国際化支援を目的としたメディカルツーリズムが紹介された.旅行業の仕組みを病院へ応用し,医療目的の外国人観光客のみならず,既に日本にいる観光客らが安心して医療を受けられるシステム構築を目指すという.

新規事業を始めるにあたり,井上氏,大橋氏,高橋氏が揃って語ったのは,1人(自社のみ)で事業を行わないことである.今回のパネリストはそれぞれ異なる業界にもかかわらず同じ視点を有していることは興味深い.特に,井上氏の語った「大丸有健康都市構想」*3では,政府の成長戦略の1つである「健康経営」を鑑み,大丸有で働くと健康になるというコンセプトを掲げている.これはオフィス空間に健康要素をプラスすること,地域にウェルネスサービスを提供すること等を目指している.このような街づくりを進めるには,サプライヤーやテナントユーザーはもちろんのこと,行政も巻き込んで,価値共創を考える必要がある.

もう1つ,3名が述べたことは,新規事業はスモールスタートで始めることである.規模の大小を問わず,企業では,新たな事業を始める場合に市場規模,収益性,事業リスク等を勘案して計画を立てる.既存事業の範疇で新たな事業を計画する場合でも理解を得やすいわけではないが,新たな事業,特に既存事業と大きく異なる収益規模や収益源を想定した計画では,理解を得にくい.この壁を乗り越えるのに3名ともスモールスタートの重要性を説いている.素早くスタートし,仮に失敗してもリスクは小さく,かつ得られる経験は大きいという.

4. おわりに

セッションの最後は,木村 哲明治大学教授の挨拶によって締めくくられた.挨拶では「社会貢献をしてビジネスを生み出すことが本来の姿である」と述べられた.社会貢献も含めた価値共創については,パネルセッションの趣旨には賛同するものの,実現の難しさが話題となっており,筆者にとっては改めて重要性と実現の難しさを再認識する良い機会となった.

繰り返しとなるが,MBSではこのようなセッションをはじめ,多様なセミナーが数多く公開されている.これからも多くの方が参加できるような,有益で興味深いセミナーが開催されることを期待したい.

写真2 セッション終了後の集合写真

〔丹野 愼太郎(産業技術総合研究所)〕

*1  サービスについて,ここでは「交換対象としてのサービス( = services)」と,問題解決のための提供プロセス全体を含めた「ソリューションとしてのサービス( = SERVICE)」を使い分けていることに注意されたい.

*2  大手町,丸の内,有楽町の3つをあわせたエリアを指す.三菱地所のビジネスにおけるメインエリア.

*3  「大丸有で働くと健康になる」というコンセプトを具現化する都市構想.オフィス空間の生産性向上と同時に健康要素を付加する,また,街全体にウェルネスサービスを取り入れる他,企業の健康に対する取組を評価する指標の構築など,多くの取組を行う予定だという.実証実験として,カフェ等で様々な検査が出来る「まるのうち保健室」が開催された.

 
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