東京大学名誉教授,神戸大学名誉教授 上田完次先生が2015年11月10日,大阪府堺市において急逝されました.享年69歳であられました.
上田先生はサービス学会の設立に際しては発起人としてお力添えを頂いたばかりでなく,監事として学会の運営に対して極めて多大なご尽力を賜りました.当学会にとって初の国際会議となったICServ2013においては,発足間もない当学会に対し, プログラム委員長として,国際会議の進め方を懇切丁寧にご指導頂きました.同国際会議における重要企画の1つであったパネルディスカッション「Serviceology: its concepts, theories and applications」においては,Value Creation Modelを価値の創成を実現する基本モデルとして提示され,このモデルに関する議論を通じて,サービスをその論理的構造の視点から考察することの重要性を国内外に対して広く,そして力強く周知されました.このことは,本学会の英語表記であるServiceologyという名称を,これまで以上に相応しいものとして位置づけさせる記念碑的な出来事となりました.
上田先生は1946年に奈良県にてご生誕され,大阪大学工学部をご卒業後,神戸大学,金沢大学,再び神戸大学を経て,2002年,東京大学人工物工学研究センター共創工学研究部門教授に着任されました.2005年からは,同センター長に就任されました.東京大学を退職後は,産業技術総合研究所理事,兵庫県立工業技術センター所長等の要職を歴任されました.先生は人工物工学研究センターの発足当初より,設計学の理論的研究に参加され,創発的シンセシスの理論をもとに,製品やサービスと言った人工物の価値を研究対象とするための理論的根拠の整備にご尽力され,サービス工学分野にも極めて大きな影響を与えられました.
Value Creation Modelこそが,その中心に位置する一大成果です.このモデルは価値創成のクラスモデルとも呼ばれ,価値提供者と受給者とのインタラクション,設計目的と使用目的の差異,目的の不確定性などについて明らかにすることにより,設計学の視点からサービス学の体系に大きな影響を与えるものとなりました.サービソロジー創刊号の記事「下剋上プロジェクト」の中で,「サービス・製品の機能発現や価値創成は,サービスや製品の開発時点で決定できるわけではない.環境や行動主体(製品・サービスの生産主体と消費主体)との相互作用から創発されると考えるべきである」と先生ご自身の言葉でその考え方が説明されています.Value Creation Modelはこの視点のもとで,生産・消費・環境の三者の特性から価値創成の3つのクラスを明らかにしています.このモデル概念の詳細については,是非,原著論文をご参照下さい.
上田先生は国内では主として機械系の学会において活躍をされましたが,行動経済学,科学哲学,そして人間行動としての設計論に深い造詣があるという,類い希なる研究者であり,また指導者であられました.国際的には生産工学分野において最も権威ある国際組織であるCIRP(国際生産工学アカデミー)で活躍し,2014年8月からの1ヶ年,その会長として世界を飛び回られました.上田先生のご急逝は,未だ黎明期にあるサービス学会にとって極めて大きな損失であります.上田先生のご尽力にお応えするためにこれまで以上に本学会の発展に尽力し,先生のご厚情とご支援に対するお礼の一部と致したく思います.
上田完次先生のご指導に深く感謝を捧げ,心からご冥福をお祈り申し上げます.
〔サービス学会長 新井 民夫(芝浦工業大学)〕