サービソロジー
Online ISSN : 2423-916X
Print ISSN : 2188-5362
会議報告
Service Design Japan Conference 2016
長谷川 敦士
著者情報
ジャーナル オープンアクセス HTML

2016 年 3 巻 1 号 p. 44-45

詳細

1. 会議の概要

Service Design Network(以下SDN)*1日本支部*2は,2016年1月23日に,Service Design Japan Conference 2016(以下SDJC)を開催した.

SDNは,ドイツに本部を置く国際的なサービスデザインに関してのネットワーク組織である.SDNでは,年に一度のService Design Global Conferenceの開催や,Touchpointという会報誌の発行などの活動を行っている .同組織は支部制をとっており,2016年2月現在で,全世界で16の支部が存在している.本会議はこの日本支部が主催する会議として位置づけられる.

写真1 会議の模様

SDJCは,これまで 2013年,2014年に会議を開催しており,今回が第3回目となる.会議は前回に引き続き,慶応義塾大学日吉キャンパスの藤原洋記念ホールを会場として開催され,製造業,サービス事業,エージェンシー(デザイン・コンサルティング)など,さまざまな業界から約200名が参加した.前回の2014年は,ICServ2014*3と基調講演を共有する形での開催であったが,今回は単独の開催となった.

2. 日本でのサービスデザインの発展

日本国内でのサービスデザインの普及・啓蒙を目的に発足したSDN日本支部であるが,発足から3年が経過し,設立当初に比べると「サービスデザイン」という言葉の認知もだいぶ進んでいる.大学やNPOなどによるサービスデザインを冠する教育プログラムも目にするようになり,サービスデザインを提供するデザイン会社やコンサルティング会社も増えてきている.また,企業内で部門名としてサービスデザインを冠するケースも見られるようになってきた.

こういったサービスデザインの普及を背景として,第3回目となる本カンファレンスでは,テーマを「日本のサービスデザインの発展(Evolution of Service Design in Japan)」と設定し,日本でのサービスデザインの実態やこれまでの成果を共有し,海外からのスピーカーによる講演などを通じて,これからの発展に向けた課題を洗い出すことを狙いとした.

3. プログラム構成*4

会議は2部構成で行われ,第1部ではグローバルにサービスデザインの業界をリードしている米Adaptive Path社のデザインディレクターであるJamin Hegeman氏による基調講演,GE社のシニアUXリサーチャーであるKatrine Rau氏によるGE社における最新のデザインプロセスの講演,Novo Nordisk社のシニアUXリサーチャーであるAlisan Atvur氏によるグローバルのイノベーション事例の分析と紹介,リクルートライフスタイル社の大宮 英紀氏による新サービスのAirレジ立ち上げのプロジェクト紹介がなされた.講演後には,登壇者に加えてSDN日本支部共同代表である筆者がモデレーターを務めてパネルディスカッションを行った.

写真2 基調講演を務めた,米Adaptive Path社のデザインディレクター Jamin Hegeman氏

第2部では,まず日本IBM Interactive Experience事業部の工藤 晶氏からIBMが取り組むデザイン思考アプローチの実践と,実際にプロジェクトとして手がけたリクルート社のスキルマップ作成プロジェクトの紹介が行われた.その後大日本印刷 サービスデザインラボ(SDL)の山口 博志氏から,社内横断組織である同社SDLの遍歴と現在までの成果についての報告がなされた.また,グローバルにサービスデザイン教育を行っているTenny Pinheiro氏からはスタートアップ企業におけるサービスデザインについての講演がなされた.講演後には,SDN日本支部共同代表の武山 政直氏をモデレーターとしてパネルディスカッションが行われた.

4. プログラムトピック

Hegeman氏の基調講演では,サービスデザインという事業に関わる「デザイナー」と「非デザイナー」間での「ギャップ」について考えるものであった.サービスデザインという分野は,事業とデザインというこれまで離れていた職能を持つ人々のコラボレーションであるが故に,さまざまな衝突が起こっている.氏はそういった衝突を解消していくためには,組織においての共通言語化と相互交流が重要であると説き,多くの参加者の共感を得ていた.

GEのRau氏は,GEで進められているサービスデザインプロセスの紹介を行った.現在GEは製造業に集中する事業戦略に基づいて改革を実施しているが,特にIoTを活用したサービスを推進するにあたって,GEと顧客との間で共創(co-creation)を取り入れた標準プロセスを展開している状況を紹介した.本会議には国内の製造業から多数の参加者があり,多くの参加者が高い関心をもって質疑などに参加していた.

リクルートライフスタイルの大宮氏による新サービスの立ち上げの講演では, サービスの立ち上げ時には新サービスをとりまくエコシステム(生態系)の発展が企画当初から意図され,サービス開始から2年がたつ現在もそのプランを更新しながら探索をしている状況が紹介された.サービスデザインでは,このエコシステムのデザインが重要なテーマとなるため,その後のパネルディスカッションにおいても,その点は多くの人の関心を集めていた.

第1部のパネルディスカッションでは,日本の事業者と海外のプレイヤーによって,日本でのこれからのサービスデザインの課題について議論された.その中では,リーダーシップとビジョンの重要性,組織規模によるダイナミクスの違い,パートナーシップ戦略の重要性,効率化と新規事業の始め方の違い,などが日本でのサービスデザインの論点として提示された.

大日本印刷の山口氏の講演では,同社での組織の立ち上げから,プロジェクトを遂行していくジャーニー(旅路)が披露された.企業において,横断組織として実績を積んでいくストーリーは多くの参加者の賛同を得ていた.

第2部のパネルディスカッションでは,組織デザインに焦点を当て,サービスデザインの導入・実施に求められる人材モデルやスキルセット,そして組織形態などについての議論がなされた.

5. これからの日本のサービスデザイン

本会議を通じて,日本でのサービスデザインの到達点および課題が明らかになった.リクルートライフスタイルでのAirレジによるエコシステムデザインの実例など,欧米から始まったサービスデザインの波に対して,日本からも独自のアプローチで成果を出していることも確認された.今後は,事業成果としての評価や,グローバルな事業展開においての成果が求められる.また,新しい時代のビジネスモデルの探索も大きなテーマとなる.SDNおよびSDN日本支部ではこのサービスデザインの発展を支えるための情報提供やカンファレンスなどを積極的に実施していきたい.

〔長谷川 敦士(株式会社コンセント/Service Design Network)〕

*1  Service Design Network https://www.service-design-network.org/

*2  Service Design Network 日本支部 https://www.service-design-network.org/chapters/sdn-japan

*3  The 2nd International Conference on Serviceology http://icserv2014.serviceology.org/

 
© 2019 Society for Serviceology
feedback
Top