サービス学会は,サービスイノベーション,サービスサイエンス,サービスドミナント・ロジックを成長の3要素として2012年に発足したが,先行して2010年に始まったJST/RISTEXの問題解決型サービス科学研究開発プログラム(S3FIRE)は,サービソロジー研究とはどのようなものであるかについてのイメージをサービス学会に対して提供し続けてきた.そのS3FIREも今年度でその短い歴史を終えるが,その過程でいくつかの発展段階をもって研究スコープを拡張してきた.
第1に,サービスドミナント・ロジックの影響を受けてスタートした日本のサービスサイエンス研究は,発足当初,その中心概念である顧客価値共創をめぐって,主にサービスの受け手サイドの顧客接点におけるサービスコンテンツ,チャネル,コンテキストに係わるテーマを中心に展開された.
第2に,やがてそれは顧客価値共創による利用価値の実現というサービス行動のステージを超えて,満足度評価や事前期待形成を扱うものにまで発展し,受け手サイドにおける価値共創の再生産サイクル構造の着想に繋がっていった.
第3に,さらに,マーケティング分野で生まれたサービスドミナント・ロジックが,どちらかといえばサービスの受け手サイドの顧客接点に着目するのに対して,サービス価値共創は送り手サイドの企業内部でも起こっているという認識のもと,送り手サイドの経験価値共創,さらには学習・評価というステップを経て,知識・ノウハウの蓄積にまで繋がる経験価値共創のサイクル全体に係わる研究成果を蓄積しつつある.
第4に,これらの利用価値と経験価値の価値共創サイクルは,単純再生産のサイクルであるが,これを持続可能な拡大再生産のサイクルにするには,市場における交換価値が持続的に成長する必要があることから,共創価値は,送り手,受け手,市場という3つの側面から捉えられるに至っている.
このサービス価値共創の概念的フレームワークの多面的な側面を扱っているのが,本号で取り上げるS3FIREの平成24年度採択の5本のプロジェクトである.中小路は顧客接点における触発型コンテンツ,村井は経験価値共創による知識・スキルの可視化,貝原は交換価値の成長プロセス,戸谷は価値の三面性の下での価値尺度形成,中島はFNSというサービスのデザイン方法論をそれぞれ扱っている.
S3FIREの終了を受けて,JST/RISTEXでは,今年度から未来共創型のサービス研究開発のフィージビリティスタディへの取組みが始まる.S3FIREが,どちらかといえばサービスの可視化や構造化というサービス理解を中心とした研究開発であったのに対して,新たな取組みはサービスイノベーションのプロセスのデザインに重点をおいた社会実装そのものを扱おうとするものであり,その意味でサービソロジーのフロンティアにむけての新たな跳躍に挑戦しようとするものである.
サービソロジーがサイエンスであろうとする以上,サイエンスのフロンティアに向かって新たな挑戦を行うのは当然である.しかしながら,サービソロジーは,常に産業界や行政との接点を保ちながらサービスイノベーションの実現に貢献したいという,社会に向かう実践科学的な側面をもつ.確かにS3FIREはサービス価値共創の概念的フレームワークのほぼ全側面を扱うものとなってはいるが,それはまだ,全側面について薄く広くパイオニアとしての網をかけただけともいえる.これらが,真に産業や行政において使えるものになっていくのには,まだまだ研究は端緒についたばかりであり,各側面について一層の掘り下げが必要である.そして,その広範な掘り下げの役割を担うのが,サービソロジー研究のコミュニティであるサービス学会であることは言うまでもない.
産業戦略研究所/株式会社NTTドコモ