サービソロジー
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特集:「サービス × テクノロジー」による革新とその社会的影響
インタビュー記事:ドローンが拓く未来
野波 健蔵
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2017 年 4 巻 1 号 p. 16-19

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1. はじめに

本記事では,近年の進展がめまぐるしいドローンについて,その第一人者である野波健蔵教授へのインタビューを紹介する.インタビューでは,ドローンのサービス/ビジネスへの応用やドローンにより解決できる社会的課題,またはドローン活用により生じる社会的課題について,お伺いした.

2. 技術の発展が超えるべき壁

インタビュワー:現在,ドローンの活用が注目されていますが,社会の反応について教えてください.

野波教授(以下,敬称略):いつの時代も,技術はその進化により「あり得ない」,「できるはずがない」と言わる理想を実現してきました.そして,多くのイノベーションを生み出してきました.そして今,次の大きなイノベーションは,ドローンにより起こるだろうと言われています.恐らく,ここ数十年のうちに,有人飛行機の数以上に無人機が飛び交う時代が来ると考えています.

先にも述べましたが,新しい技術というものは,なかなか社会に受け入れてもらえません.そのため,技術が社会に受け入れられるには,相当な時間がかかります.例えば,交通手段が,馬車から自動車へと変わった時も大きな抵抗があったはずです.しかし,自動車という技術が発展し,法・規制や社会システムが整備された今では,馬車が交通手段であったことが想像できなくなっています.

ドローンは,ちょうど今が社会で受け入れられるか否かのターニングポイントを迎えています.ドローンを社会に実装するにあたり,様々な企業や団体と連携して,法・規制や社会システムを整備しています.法・規制や社会システムの整備は非常に難しく,ルールが厳し過ぎては社会実装が難しく,ルールが緩すぎては事故が起こり,社会に受け入れられなくなってしまいます.ただし,これらの社会システムの整備に掛けられる時間は,あまり多く残されていません.もし,ドローンの発展を阻害するような法律が可決されてしまえば,社会実装ができないだけでなく,技術の発展自体がそこで終わってしまうからです.今まさに,どこで線引きすればよいか,紙一重のところが非常に問われています.

2.1 社会活用にむけたドローンの技術的課題

インタビュワー:ドローンの技術的課題を教えてください.

野波:技術課題は3つあります.1つ目は「非GPS環境下での自律飛行」,2つ目は「センス・アンド・アボイド(飛行中に遭遇する障害物や鳥を回避する技術)」,3つ目が「ピンポイントでのランディング(着陸誤差を10cm~20cmに収める技術)」です.これらの技術的課題は,ドローンの運動機能や平衡感覚の精度向上に関するもので,現在のドローンでもコーナーリングはしっかりできますし,風が吹いても揺らぎません.また,与えられた軌道を正確に飛行することができ,目的地の場所に自動着陸もできます.ただ,大きな技術課題として残っている点は,ドローンに「大脳」が備わっていないことです.つまり,飛行中に出現する鳥の群れを「鳥」と認識し,電線を「電線」であると認識することができません.

インタビュワー:挙げていただいた技術的課題は,どのように解決しようとされているのでしょうか.

野波:いくつか技術課題を挙げましたが,社会実装に向けて解くべき課題は,ドローンの大脳をつくることです.ドローンの大脳をつくるためには,人工知能やIoT技術が必要だと考えています.今後,これら技術の進歩により,ドローンも1つのデバイスとしてネットワークに繋がると考えています.ネットワークに繋がることで,ドローンが装着するカメラで撮影した画像は全てクラウドで共有され,3次元地図としてドローンに飛行位置を教えることができます.そうなれば,これまではドローンが把握できなかったものの位置が判断できるようになり,ドローンに目的地さえ与えれば,最短コースで自動的に飛行できるようになります.

2.2 サービス/ビジネス活用での課題

インタビュワー:ドローンをサービス/ビジネスで応用する場合の社会的課題を教えてください.

野波:物流サービスへの応用を想定し,福島県の海上でドローンを飛ばしました.この時,時速43kmで12km飛ばしましたが,ドローンは時速80km程度を出すことができます.実は,時速43kmで飛ばしたことには,理由があります.それは,飛行中のドローンに並走するボートの最高速度と関係しています.現在,飛行中のドローンの飛行状態等を実時間で監視するために,ドローンと地上局を実時間通信しています.しかし,福島県浜通りの海岸は通信網が脆弱で,実時間通信ができません.このためドローンの真下をボートが並走しているというわけです.更に,第三者の上空を許可なく飛行させることも禁止されています.全ての土地,川,海,道路,必ず誰かが所有または管理していますので,飛行させるためには,それぞれの所有者または管理者の飛行承認が必要となります.今後,ドローンをサービス/ビジネスに応用するためには,この「目視外飛行のドローンと地上局の実時間通信」と「第三者上空の飛行承認」という課題を技術的に,もしくは社会システムの中でクリアすることが必要です.

図1 インタビュー風景(野波教授)

3. サービス/ビジネスへの活用

インタビュワー:現在,手掛けていらっしゃるドローンを活用したサービス/ビジネスがあれば教えてください.

野波:現在,我々が手掛けているドローンを活用したビジネスは,大きく5つの領域があります.

  • ●   農薬散布
  • ●   橋梁やダム,メガソーラーなどのインフラ点検
  • ●   建設現場や工事現場の施工点検
  • ●   警備
  • ●   事故,自然災害時の緊急対応

多くの企業がドローンを活用したビジネスを手掛けていますが,いくつかの企業では黒字を出し始めています.ただ,ビジネスに活用され始めたばかりのため,まだ全体の1%程度しかマーケットは拓けていません.

インタビュワー:いくつか挙げていただきましたが,具体的な内容について教えてください.

野波:最も期待されているのが「農業」への活用です.人手で行う農薬散布は農家の経験と勘に依存するため,散布が必要な箇所を見極めることや害虫を見つけることは困難です.更に,労力と時間が非常に掛かる作業です.我々のビジネスでは,この農薬散布の効率化を目指し,ドローンを活用しています.実は2000年頃から使用されていたのですが,現在はより高度な作業への活用を目指しています.農薬散布にドローンを使用した場合,人が行った場合の10倍の速さで作業を行うことができます.また,飛行中に高さ40~50mからスペクトルカメラで空撮することができ,空撮した画像の解析により,稲熱病(いもち病)が発生している場所を特定できます.更に,いもち病以外の害虫が,どこで発生しているかを特定することもできます.そのため,害虫駆除に適した薬剤を選択することができ,薬剤を必要とする場所に,必要な量だけ散布することが可能です.つまり,「農業」にドローンを活用することで,適材適所の農薬散布を実現することができます.これにより,これまで農薬散布に掛けていた労力や農薬量を削減でき,過剰散布による正常な稲への悪影響を減らすことができます.また,人手では困難であった稲の病気を発見できるため,人手の場合と比較して,収穫量が3~4割増加したという結果も出てきています.

4. 千葉市における国家戦略特区での実証実験

4.1 実証実験の概要

インタビュワー:千葉市の国家戦略特区にてドローンの実証実験を実施されていますが,その取り組みについて具体的に教えてください.

野波:千葉市の国家戦略特区の実証実験では,非常にチャレンジングな取り組みをしています.国家戦略特区があるエリアの近くには,市川,船橋,習志野,浦安があり,様々な企業の倉庫が広がっています.この倉庫には,船で運ばれてきた貨物が保管されており,お客様の依頼に応じて,この倉庫から貨物を取り出し,トラックで配送をしています.これが現在の配送サービスです.配送サービスでは,BtoBのビジネスとして倉庫から会社へ配送する場合とBtoCビジネスとして家庭に荷物を運ぶ場合とがあります.そこで我々は,このエリアにおけるBtoC向けの配送サービスに着目し,倉庫から新都心に建つマンションのベランダに荷物を届けるという構想をもっています.しかし,ドローンが直接個人宅に荷物を届けるには,各家庭のベランダに着陸スペースが必要になります.もし,着陸スペースが確保できていなければ,荷物を配達しにきたドローンはそのまま倉庫に戻ってしまいます.そこで我々は,新たに建設するマンションの設計から関わろうと考えています.マンションの設計段階から関わることで,ドローンの着陸を前提としたベランダを設計することができます.これにより,ドローンポートを既存のマンションに設置するための追加コストや増築による景観への影響を抑えることができます.

4.2 実証実験で連携するステークホルダー

インタビュワー:ドローンの活用を見据え,マンションの設計段階から不動産会社に関わりたいというお話がありましたが,その他にはどのようなステークホルダーと連携されているのでしょうか.

野波:ステークホルダーとの連携として挙げられるのは,配送サービスへの活用に向けた宅配業者や,このエリアの住宅建設に関わる複数の不動産業者です.また,4,800戸の住宅が新規に建設されるため,学校や病院,公園の設立も想定しています.そのため,自治体との連携も重要だと考えています.更には,街全体を監視する警備会社との連携も予定しています.これは,警備会社の人に街やドローンを監視してもらうためではなく,ドローンによりこのエリアを監視する構想を実現することを見据えた連携となります.ドローンの本格的な活用に向けて,住人の安全を考慮した街を実現することが重要になります.そのため,街全体の設計に関われるように,あらゆるステークホルダーとの連携を進めたいと考えています.

4.3 ユーザー像

インタビュワー:このエリアの住人(ドローンのユーザー)は,どのような人を想定されているのでしょうか.

野波:今年の秋には,第1棟目の公募を開始するとのことですが,マンションの価格設定は未定です.また,この特区はドローンが飛び交う,世界に類を見ない街にしたいと考えているため,入居時には,ドローンが街を飛び交うことや飛行時に騒音が発生することに関して,承諾書を頂く計画です.現時点で,どのような方が入居されるかは明確ではありませんが,近未来都市型マンションですので,ドローンに理解のある方の入居を希望しています.そして,シニア層の入居者へは,ドローンによる薬や食事の配達サービスを考えています.

5. ドローン活用により解決できる社会課題

インタビュワー:サービス産業への貢献が大きく注目されていますが,ドローンを活用することにより解決できる社会課題を教えてください.

野波:ドローンを活用することで,少子高齢社会における労働者不足の問題が解決できると考えています.特に,ドローンの活用が期待されるのは,測量,物流,点検に関する仕事だと考えています.これらの仕事は,全て屋外での力仕事で,いわゆる3Kであると言われています.そのため,少子高齢社会では労働力が不足することは間違いありません.例えば,物流に関して,各家庭またはコンビニ等から集荷センターまでの集荷業務と,荷物を車から各家庭の玄関まで運ぶ配達業務とがあり,現在はどちらの業務も人間が行っています.配達員が高齢である場合,荷物を玄関先まで運ぶ力仕事が大きな負担となります.そこで,このラストワンマイルの力仕事にドローンが活用できるではないかと考えています.予め,配送車のトランクにドローンを積んでおき,ラストワンマイルまで近づいたら,最後の配送をドローンに任せるという方法です.

6. ドローン活用により生まれる社会課題

インタビュワー:ドローン活用により生まれる社会課題として,例えば,プライバシーの問題やデュアルユース*1の懸念があります.これらの点について教えてください.

野波:まず,テロを目的としたドローンの活用は論外として,ミリタリーユースは本来ドローン誕生が軍事目的でしたのでデュアルユースはその通りです.その上で,このような懸念に対する対策を講じておくことは,非常に重要だと考えています.我々も,その対策として技術認定制度やガイドラインを用意しています.ドローンを操縦するには,この認定制度の受講を必須としています.更に今後は,管理体制の強化を行う予定です.具体的には,ドローン販売者は,購入者にIDとパスワードを発行し,購入者履歴を残すことで,購入後の使用方法に危険性がないかを監視できるようにしたいと考えています.そのためには,購入者が異常な使い方をした場合,販売者側がドローンの動力やモーターを停止させられるような仕組みを埋め込もうと考えています.また,全てのドローンをネットワークに繋げることで,ドローンの1つ1つが,どこで,どのようなミッションを行っているのかを把握できる体制を整えたいと考えています.

7. サービス学会への期待

インタビュワー:サービス学会では,経営学,工学,情報工学,社会科学,人間科学といった多分野のアプローチからサービス研究を進めています.サービス学への期待がございましたら教えて頂けるでしょうか.

野波:ドローンは,サービスを実現するための1つの手段です.我々は,ドローンという空飛ぶ技術を活用し,数十円のコストで30分以内に荷物を届けられるような世界や,外出が困難な方には温かい食事を手元に届けられるような世界を思い描いています.このような世界の実現には,IoT技術との繋がりが重要であると同時に,技術のみでは解けない課題解決に対しては,サービス学会における知見や人との連携が必要と考えています.そうすることで,ドローンという空を飛ぶ技術とサービスとを掛け合わせることができ,多くの付加価値を生み出せると考えています.

インタビュワー:本日は長時間にわたり,ご貴重なお話をして頂きまして,ありがとうございました.今後,野波先生とサービス学会との共創ができることを,楽しみにしております.

著者紹介

  • 野波 健蔵

株式会社自律制御システム研究所 代表取締役 最高経営責任者.1979年東京都立大学大学院工学研究科機械工学専攻博士課程修了,85年米航空宇宙局(NASA)研究員・シニア研究員を経て94年千葉大学教授.2008年には同大学理事・副学長(研究担当),千葉大学産学連携知的財産機構長,11年日本学術会議連携会員,12年ミニサーベイヤーコンソーシアム会長,13年国際知的無人システム学会会長,14年から千葉大学特別教授.

*1  民生用と軍事用の双方の用途があること.

 
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