2017 年 4 巻 1 号 p. 2-3
サービスの高度化やイノベーションには,いくつかの要因があるが,テクノロジーの進歩や実用化がその1つであることは間違いないだろう.本特集では,このような「サービス×テクノロジー」に焦点を当て,最新動向や社会への影響について特集する.
本稿では,まず産官学それぞれの視点から,その動向について見ていきたい.サービス産業では,FinTech(金融×テクノロジー)やEdTech(教育×テクノロジー)など,様々な業界においてICT(Information and Communication Technology)の導入による新たな仕組みの提供が活発化している.また,危険や高負荷を伴う労働の代替手段としてサービスロボットへの期待が高まっていることも無視できない.さらに,加速する製造業のサービス化には,消費者や企業の価値観の変化に加えて,IoT(Internet of Things)やクラウド,人工知能などの発展が大きく寄与していると指摘されている(貝原 2016).官の動向として,内閣府は第5期科学技術基本計画(内閣府 2016)において,サイバー空間とフィジカル空間が高度に融合した超スマート社会を未来の姿とし,その実現に向けた取組を「Society 5.0」と呼び推進している.Society 5.0では,IoT,ビッグデータ活用,サイバーセキュリティ等の技術活用により,複数のサービスシステムの協調を実現する共通プラットフォームの構築を目標に掲げている.つぎに学術界,特にサービス研究の領域では,サービスを知識と能力の適用と定義するService-Dominant Logic(Vargo and Lusch 2004)が注目を集めている.Luschらは,テクノロジーとは知識の実応用のことであり,それゆえテクノロジー,サービス,イノベーションは相互に連結していると言及している(Lusch and Nambisan 2015).またNakashimaらはICTとデザインは互助の関係にあり,新たなサービスシステムのデザインにはICTが中心的な役割を担い,ICTもその進展や実用化にデザインを必要とすることを指摘している(Nakashima et al. 2016).以上のように,テクノロジーは,サービスの高度化やイノベーション,さらにはデザインといった観点から肯定的な見方がなされていることが分かる.
一方,サービスを通じたテクノロジーの社会適用による影響には,負の側面があることにも言及しておかなければならない.例えば,最近では,人工知能による雇用消失や自動運転における責任の所存など,いくつかのトピックで活発な議論がなされている.我々は,法制度の整備を待つだけでなく,ELSI (Ethical, Legal and Social Issues)の観点からこれらの議論に耳を傾け,適切な倫理観やリテラシーを育む必要があるだろう. そして,社会とテクノロジーとの間をつなぐサービスの提供者や利用者として,可能な限り負の側面を顕在化させないように振る舞うことが求められる.
本特集では,情報処理やメカトロニクス,センサ・ヒューマンインターフェースという技術分野の中から人工知能,ドローン,VR,パーソナルファブリケーションに注目した.各テクノロジーとサービスによる革新と社会的影響について,各分野で著名な4名にご寄稿いただき,科学技術社会論(Science and Technology Studies, あるいはScience, Technology and Society: STS)を専門とする1名の研究者に総括いただいた.
まず,人工知能に関して,東京大学の松尾氏による寄稿では,様々なサービスに対するディープランニングの可能性が述べられている.具体的には,画像認識と深層強化学習を用いたロボット・機械による動作学習を軸に,ヒアリング調査の知見に基づいて,サービス産業のセクター毎に,イノベーションの可能性とその社会的影響について幅広い視点から論じている.
つぎに,ドローンに関しては,自律制御システム研究所/千葉大学の野波氏に,研究者と実務家としての視点から,サービス/ビジネス活用に向けた社会的課題や国家戦略特区で取組まれている実証実験等についてインタビュー形式で話を伺った.ドローンの研究開発に留まらず,技術認定制度の整備や様々なステークホルダーとの協働を実践されており,総合的なサービスデザインが志向されている点が印象的であった.
また,VRについて,東京大学の檜山氏,稲見氏の寄稿では,既存サービスの効率化,新サービスの創出,および価値共創の促進における役割がまず述べられている.続いて,VRを用いたサービスの社会的影響と解決し得る社会的課題への言及がなされているが,未来の社会をデザインしていく上では,展望にある通り,「テクノロジーそのもののサービス化」ではなく,「テクノロジーが性質としてもつ社会的価値から導かれるサービス」という視点が重要になるであろう.
さらに,パーソナルファブリケーションについて,慶応義塾大学の田中氏は,2010年より日本とアジアにおいて「ファブラボ」展開普及を通して得た経験を基に,「モノづくりの個人化」という現象をサービス/共創という視点から論じている.最後に登場するエンゲージメント中心社会は,共創,ひいてはサービス学のキーワードであり,本誌での継続した議論が望まれる.
最後に,科学技術社会論の立場から,東京大学の江間氏の寄稿では,技術の社会的影響についてアクター別で分類・整理した上で,技術の設計思想について述べている.最先端技術ありきではなく,人と機械と環境との相互作用を再構成するための適度な粒度を探す「哲学」が,サービス学を「工学」ではなく「学」たらしめていく上で重要との指摘は示唆に富んでいる.
本特集では,これまで本誌で明確に議論されてこなかったサービスの社会的影響をELSIの観点から扱っている.前述したように,サービス,テクノロジー,イノベーションが相互に連結して発展していくと考えると,サービス「学」の発展と「実務」への応用には,これらの観点は非常に重要である.本特集が,サービス学会での今後の議論の出発点となれば幸いである.
日本電気株式会社 サービス事業開発本部所属.2011年早稲田大学大学院人間科学研究科修士課程修了.2011年4月より同社中央研究所にてサービスプロセスの研究に従事.2016年10月より現職.
日本電気株式会社データサイエンス研究所所属.2016年首都大学東京システムデザイン研究科博士後期課程修了(博士(工学)).主な研究トピックは,サービス工学,Product-Service Systems,設計工学,人工知能.
東京大学 人工物工学研究センター 准教授.2009年 同大学院工学系研究科 精密工学専攻 博士課程修了(博士(工学)).2013年3月より現職.サービス工学,製品サービスシステム, 観光情報サービス,接客サービスなどの研究に従事.観光情報学会,サービス学会の各理事.情報処理学会,日本機械学会,精密工学会の各会員.CIRP 副会員.