サービソロジー
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会議報告
日本学術会議・公開シンポジウム《サービス学の参照基準》開催
前川 恒久
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2017 年 4 巻 1 号 p. 36-37

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1. はじめに

2016年12月11日,地下鉄丸ノ内線茗荷谷駅近くの筑波大学東京キャンパスに50名余りが参加し,日本学術会議第3部総合工学会・第1部経営学委員会・サービス学分科会主催の公開シンポジウム《サービス学の参照基準》が開催された.

図1 講演の模様

2. 基調講演

最初に登壇したのは文部科学省高等教育局で大学・短期大学・高等専門学校等を所管する土生木視学官「高等教育行政の現状と課題」をテーマに,以下3項目について基調講演を行った.

  • (1)   高等教育の現状
  • (2)   分野別質保証の取組み
  • (3)   サービス人材養成の現状

現在,日本には大学・短期大学・高等専門学校は計1,175校,その内,国立が135校,公立が111校,私立が927校あり,これら高等教育機関に約350万人が学んでいる.大学・短期大学数は平成14年を境に減少に転じ,国立大学も同様の傾向にある.

日本を除く,米国,欧州,中国,韓国,アセアン諸国は卒業者を増やすべく熱心に取組んでおり,大学進学率は豪州が91%で1位,日本48%の21位で,韓国55%で18位に比べ大幅な遅れをとっている.

ドイツのインダストリー4.0や“生産性革命”が叫ばれ,我が国でも高等教育改革に取組み,分野別質保証では専門職大学院評価を導入,あるいは日本技術者教育認定機構による技術者教育認定,大学の機能強化,大学院教育改革などを展開している.

“サービス人材育成”分野では経営・マネージャ人材育成に向け,産官学連携して専門的,実践的教育プログラムを開発,卒業生の就職者約41万人の内,約82%がサービス産業分野に就職している.

3. サービス学参照基準制度の経緯

次いで日本学術会議サービス学参照基準策定小委員会の委員長・筑波大学の西尾教授が,参照基準策定に取組む側からの説明を行った.

平成20年5月に文部科学省から日本学術会議に大学教育の分野別質保証の在り方について依頼があり,日本学術会議は「大学教育の分野別質保証の在り方検討委員会」を設け,検討を開始した.

その後,総合工学委員会・経営学委員会合同のサービス学分科会が活動を開始,そもそも“サービス学とは何か?”に始まり,サービス学をめぐる社会環境の変化に対応して「サービス学」参照基準策定の必要性について議論を重ね,サービス学の定義,サービス学の本質的特性と役割,さらにはサービス学を学ぶ学生が身に付けるべき基本的な素養,学修方法および学修成果の評価方法,市民性の涵養や教養教育としてのサービス学教育等が具体的に定義され,さらに生涯学習としてのサービス学教育体系にも触れ,解説を終えた.

4. コーディネータによる全体主旨説明

続いて現在,経営学委員会・総合工学委員会・サービス学参照基準策定小委員会のメンバーでサービス学会会長を務める関西学院大学の山本教授が「サービス学参照基準作成の要点」をテーマに“サービス学とはどのようなもので,何を学習できるのか?”等,大学進学を考えている高校生に分かるように説明した.また“なぜこのような学問領域が必要になっているのか?”について具体的に理解し易いようにまとめ,説明した.

参照基準の利用価値は幅広く,商学部や経営学部等の文系学部だけではなく工学部,情報系学部等理系学部でも間接的ながら関連し,文理を問わずこれからの仕事の中で重要な知識や視点を提供できるよう,経済のサービス化だけではなく,人々の暮らし方や企業経営の在り方に目を配る,さらには既存のサービス業や製造業との関連を示すなど,参照基準を策定する上での工夫について説明した.

5. 各分野の講演

  •    (1)産業界からの意見

最初に富士通株式会社マーケティング戦略室長の高重氏が登壇「サービス学の参照基準(案)に対する意見」をテーマに意見を述べた.

21世紀に入りインターネットが爆発的に普及,IoTさらにAIとロボティクスの時代へとあらゆるものがつながるハイパーコネクテッドワールド,所有から利用へのシフト,製造業とサービス業の境界が曖昧になりビジネスのサービス化,デジタルトランスフォーメーションが進んでいる.

こうした背景からサービス学の参照基準(案)がまとめられたことは大きな意義があるが,実現には①エコシステムを通じたサービス共創が必須とし,大学において「サービス共創」の実学を教える必要性を強調.また②成功のカギは新たな人材育成,とし,サービス人材教育や文化の醸成に大学が果たす役割は大きい.③100歳社会でのスキル再教育,生涯教育が重要.などの意見を述べた

  •    (2)サービス学関係者からの意見-1

サービス学会理事の東京大学人工物工学研究センターの原准教授が教育側の立場で「サービス学関連学会からの意見」を述べた.

東京大学・原研究室ではサービス工学を専門に,サービスの理解とデザインの方法,観光情報サービスとその社会実装,製造業のサービス化,接客サービスの分析と教育支援等について研究している.

人間の関わるシステムの中で様々な価値を共創的,ダイナミックに生み出す行為をサービスと定義した上で,サービス学を修める過程で学生が学ぶべきことは何か,それらを学ぶための学習方法にはどのようなものがあるのか,学修成果の評価法等,細部にわたり検討した.結果として「サービス学研究者のための学修モデルの試案」を示し,今回の参照基準との関わりについて分かり易く解説した.

  •    (3)サービス学関係者からの意見-2

同じく教育側から神戸大学大学院経営学研究科の南教授が「大学教育の分野別質保証のための教育課程編成上の参照基準:サービス学分野(案)」についてコメント,最初にサービス学の定義が分かり難いと指摘した上で,なぜ今“サービス学なのか?”その必要性について切り込んだ.サービスの提供側と受容側との共創および動態的側面を強調しているが,顧客の参加的側面の協調だけではなく,より網羅的にサービスの特徴を捉えるべきと強調.それにはサービスの4つの側面“無形性”,“不均質性”,“不可分性”,“消滅性”の視点で“サービス”を捉え,生産管理,SCM,管理会計,労務管理等を含めた経営学や商学,会計学領域においてサービス固有の議論が必要と強調した.

サービスがクローズアップされる環境変化としてICTの影響を強調しているが,本質的には経済活動におけるアウトプットの変化があり,サービスの特性から全体像を体系的にとらえて取組むべきと結んだ.

  •    (4)サービス学関係者からの意見-3

最後にサービス学参照基準(案)に対するサービス学関係学会からの意見として,北陸先端科学技術大学院大学の知識科学系の小坂教授が登壇,大学教育現場からの意見を述べた.

“サービス”は昔からあったことで今も進化を続けており,これらを説明できる基本的な学問,すべてのサービスを説明できる“サービス学”が必要と強調した.

旅館,“おもてなし”など従来のサービス業,製造業のサービス化,知識産業,情報,コンサルティング等々,全てがサービス学の範疇であり,サービスマーケティングやサービスマネジメントなどの体系化,サービスの生産性や可視化,知識ビジネスからインターネットを活用したビジネスモデルなど“サービス”に関連するものを集約した“サービス学”の創造が急務と強調した.

6. パネルディスカッション
図2 パネルディスカッションの模様

最後に発表者,講演者が壇上に並びパネルディスカッションが行われた.

標準化の目的や意義「サービス」という用語の定義等について国際的にはISO/IEC-Guide76で取組んでおり,海外ISOの次期ターゲット領域に“サービス標準の国際化”を進めるため,2016年6月にはスイスでワークショップが開催された.

我が国でも2016年12月に「サービス標準化委員会」を設けて研究会を重ね,運輸,小売り,宿泊,飲食,医療,介護等など,分野毎に必要とされる個別・具体的なサービス標準化にも貢献できることから,「サービスを科学にする」ことを通じ,今後の活動がおおいに期待されている.

〔前川 恒久 (日本品質管理学会)〕

 
© 2020 Society for Serviceology
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