サービソロジー
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会議報告
Designシンポジウム2016
赤坂 文弥
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2017 年 4 巻 1 号 p. 40-41

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Designシンポジウム2016が,2016年12月13日(火)~15日(木)の3日間,大阪大学・銀杏会館にて開催された.Designシンポジウムとは,「設計」や「デザイン」を包含する上位概念としての“design”を対象としたシンポジウムである.本シンポジウムは,日本機械学会,精密工学会,日本設計工学会,日本建築学会,日本デザイン学会の5学会が2004年7月に開催したのがその始まりである.その後,人工知能学会を加えた6学会の共催により,隔年で継続開催してきた.

Designシンポジウム2016の開催趣旨の一部に,以下のような記載がある.

現在,人々の生活,社会,産業,環境を取り巻く課題は高度化・複合化しており,縦割り的な専門分野ごとのアプローチでは対応が困難となっています.そのため,複数の専門分野が横断的に連携し,課題の分析(analysis)に加えて,課題を解決する新たなモノやコトの総合(synthesis)を行う設計やデザインの研究や教育,実践が非常に重要となっています.

この課題意識は,企業人である著者から見ても納得性が非常に高い.近年のあらゆる社会課題やビジネス上の課題は,世の中の仕組みを解明する分析的研究や要素技術を開発するような営みだけでは解決することが難しい.重要になるのは,分析的研究で得た知見や開発した要素技術を「世の中にいかに還元するか.社会に対してどのような価値を提供できるのか.」という,コト(サービス)の創出,すなわちdesignの議論を真剣にすることであると考える.その意味で,近年の産業界では,サービスやビジネスを創出する行為としてのdesignがホットトピックとなっており,designを対象とする本シンポジウムは,企業の研究者から見ても注目すべきシンポジウムの1つと言えよう.

今回のDesignシンポジウムにおける発表件数は全体で55件であった.セッション別の発表件数の内訳を図1に示す.また,参加者数は計88名であった.ただし,この数字は参加登録費を支払った一般の参加者をカウントしたものであり,聴講のみの学生(無料)は含まれていない.聴講のみの学生を含めるとおよそ100 名以上だったようである.

図1 セッション別発表件数

会議1日目(午後開始)には,1件の特別講演と口頭発表セッションが行われた.特別講演は,ニコニコ学会βを立ち上げた,産業技術総合研究所の江渡浩一郎氏によるものだった.本講演では,協業(Collaboration)と共創(Co-creation)の違いや共創によるイノベーションの本質に関する話があり,オープンで参加型なデザイン・プロセスの重要性を再認識した.

また,口頭発表セッションでは,「Design知識」と「学びと教育のデザイン」に関する発表が行われた(図2).これらセッションは並行して行われたため,著者は「Design 知識」に関する発表を中心に聴いたが,デザインを効果的に進行させるためのファシリテータの役割に関する研究やデザイン主体の対話プロセスの分析に関する研究など,デザイン・プロセスを科学的に分析する研究が複数見られ,非常に興味深かった.

会議2日目は,午前中に口頭発表のセッションがあり,午後は 2 件の特別講演とパネルディスカッションがあった.

口頭発表セッションでは,「Design理論」と「製品設計・製品開発」に関する発表が行われた.特に「Design理論」に関するセッションでは,設計思想に関する研究,デザイン教育の根幹を考察する研究,デザインを横断的に論じるための時間軸概念の研究など,デザインという概念をより俯瞰的に見る研究が多かった.

図2 セッションの様子

午後の特別講演の1件目はコマツ社・CTOの石野力氏の講演であった.コマツは製品とサービスを組み合わせて高い顧客価値を実現しており,近年,世界的にも注目を浴びている.本講演では,コマツにおいてどのように先進的なサービスが生まれてきたのか,という貴重なお話しを伺うことができた.また,特別講演の2件目は,建築家の山本理顕氏による講演であった.本講演の中では,建物や都市が人間の生活を規定する以上,「共感」を求めることが重要になるという内容のお話があった.このことは,建築に限った話でなく,サービスデザインの実践においても重要となる考え方であると感じた.

特別講演終了後には,本シンポジウムを共催する 6学会の若手委員がパネリストとなり,「ホットトピック共有による学会横断イノベーションの可能性」に関するパネルディスカッションが行われた(図3).パネルディスカッションでは様々なキーワード(3D化,効率化と差別化,設計・デザイン教育,発注の変化,深層学習,コミュニティデザイン,設計自動化,インクルーシブデザインなど)が出たが,図面の3D化やAIによる設計自動化に関連する話題がパネリスト間で特に盛り上がっていた.

図3 パネルディスカッションの様子

また,2日目の夜には,大阪大学内の施設で懇親会が行われた.乾杯のご挨拶を務められた慶應大学の松岡先生,閉会のご挨拶を務められた国立情報学研究所の武田先生からは,designが産業界・学術界の双方において注目を集める今,designにおける「How(どうやってデザインするか?)」だけでなく,「What(何をデザインするのか?)」や「Why(なぜデザインするのか?)」に関する議論が今後はより重要になる,というご指摘があった.

会議3日目は,午前・午後ともに口頭発表セッションが行われた.午前中は,「社会・コミュニティ・空間デザイン」及び「Design方法・方法論」に関するセッションがあった.午後には,「サービスデザイン」「感性デザイン」に関するセッションがあった.「Design方法・方法論」のセッションでは,設計における計算機利用の可能性を感じさせる具体的な手法提案が多かった.一方,「サービスデザイン」のセッションでは,何らかの手法や考え方を実際の現場やフィールドに適用した実践的な研究が多かったように感じた.Designにおいては,理論として構築する知とは別に,実践から得られる知も重要となる.そのため,どの発表も非常に興味深いものであった.

今回,著者にとっては3回目のDesignシンポジウム参加であった(Designシンポジウム2008,2012に参加).8年前に初めて参加した時と比べ,デザインの対象がモノからサービスに大きく移行してきたこと,手法提案の研究だけでなくデザインの実践に関する研究が増えてきたこと,をトレンドとして感じた.デザインに関する学会やシンポジウムは世界的に見ても増えつつあるが,Designシンポジウムの他には見られない良さは,「研究者とアプローチの多様さ」にあると感じた.冒頭に述べたように,本シンポジウムは 6学会の共催により運営されているため,参加している研究者のバックグラウンドが非常に多様である.加えて,研究のアプローチも,技術的な提案手法型のものから実践的な事例研究型のものまで,非常に多様である.異分野の研究者の考え方やアプローチから学べることは多く,Designという幅広い概念を議論する場としては,非常に有意義に感じた.より多くの研究者が参加し,より多角的な視点からdesignを議論できる場になるよう,サービス学会の会員の皆様にも,積極的な参加を検討して頂きたい.

〔赤坂 文弥(NTT サービスエボリューション研)〕

 
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