サービソロジー
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サービス学会 第5回国内大会
大隈 隆史
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2017 年 4 巻 2 号 p. 42-45

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1. はじめに

2017年3月27日(月),28日(火)の2日間,サービス学会第5回国内大会が広島県情報プラザにおいて日本電気株式会社(NEC)協賛のもとで開催された.学会設立趣意において「世界に開かれた学会であることを志向する」とされるサービス学会ではあるが,サービス研究を推進する上で産学の密な連携が必須であることから,国内大会は国内における産学交流の場として重要な役割を果たしてきた.今大会においても参加者数185名(登壇者含む)のうち,企業からの参加者は72名にも上り,各セッションや懇親会の場を通して様々な交流が行われていた.研究発表については口頭発表47件,ポスター発表28件とバリエーションに富む内容となっていた.口頭発表のセッションは3会場でのパラレルセッションで実施された.各タイムスロットにおける3セッションのうちの1セッションはサービス学会の2つのSIG活動テーマである「サービス・ケイパビリティ」と「製造業のサービス化」のスペシャルセッションが実施されていた.

2. 参加報告

2.1 1日目午前:口頭発表セッション1

この時間帯は「サービス現場とデザイン」(発表:4件),「サービス・ケイパビリティ」スペシャルセッション(4件)と,今年度から追加された「集合知とサービス」(4件)を合わせた3セッションで計12件の口頭発表が行われた.

著者が参加した「サービス現場とデザイン」のセッションではサービス現場を支援するシステムの設計に関する4件の発表がなされた.いずれもサービス提供企業と密に連携して研究を進めているという点は共通しつつも,それぞれ保育現場を支援する情報システム実装・運用に関する研究(董他 2017),将来の労働人口減少時代に労働現場にロボットが入る場合の顧客・従業員・マネージャーの満足度シミュレーションによる現場設計支援に関する研究(三川他 2017),先進的地域包括ケアシステムの事例研究(栄留他 2017),情報共有や決裁などを支援する社内情報システムとビジネスプロセスそのものの改善への実践的取り組みを通した段階的改善の方法論に関する研究(赤坂他 2017)など,現場や支援システムの設計に対するアプローチは4者4様であった.また,現場における実システムの導入や改善に取り組んだ研究に関する質疑応答では,現場関係者の心理的な障壁への対応の経験談など,一般化が難しく研究論文には現れにくいが実践的な取り組みを行うにあたっての貴重な情報を得ることができた.

2.2 招待講演1:スポーツレジャー産業を健康産業に発展させる

招待講演では(株)ルネサンス会長の斎藤氏から同社のこれまでの発展の経緯と取り組みが紹介された.企業内ベンチャーの健康スポーツ事業としてテニスクラブからスタートして総合フィットネス事業へと発展したルネサンスであるが,その過程で顧客が定着しやすい中高年向けに事業内容をシフトし,現在は病気予防や介護予防の課題解決産業にまで発展させている.病気予防や介護予防へ取り組みは国の政策にも合致したことから,厚生労働省が展開するSmart Life Project,経済産業省関連の次世代ヘルスケア産業協議会や「知恵の場」「おもてなし規格認証」など,様々な政策関連の活動と連携をしている.現在は若年層女性を顧客ターゲットとする新たな業態も展開し始めており, IT,IoT,SNSなどを活用する事例として,タブレットを用いた支援による継続率の向上,スマートテニスレッスン,カラダかわるNavi,VR Cycleなど,技術による付加価値向上の事例が紹介された.講演後の質疑応答では学術界に対するリクエストとして,産業界にもわかりやすい研究に取り組んでほしいというメッセージで締めくくられた.

2.3 1日目午後:口頭発表セッション2

この時間帯は「サービスプロセス」(4件),「サービス・ケイパビリティ」スペシャルセッション(2件)+「サービスマネジメント」(2件),「サービスとデータ」(4件)の3セッションで計12件の口頭発表が行われた.著者は「サービスとデータ」のセッションに参加した.対象を科学的に分析するにあたりデータを扱うのは当然のことではあるが,映画作品に関する監督や出演者などの属性情報(Tantawichien et al. 2017),サービス現場を再現したVR環境における体験者の行動・生体データ(大隈他 2017),航空機の客室を再現した環境における接客シミュレーション時の一人称映像を用いた回顧インタビューの内容(福島他 2017),介護現場における情報共有を支援するシステムで共有された気づき情報(福田他 2017)など,このセッションで発表された研究だけでも分析対象となるデータが多様であり,改めて現在のサービス研究の多様性の高さを感じることとなった.このセッションでは著者も発表者として登壇し,サービス研究に対する共通の意識を持ちつつも,バックグラウンドとなる専門性が異なる分野の方々とのディスカッションができる貴重な機会を得ることができた.

2.4 招待講演2 「忠恕の経営」

この日2件目となった招待講演では,私鉄グループの中でも最大級のICT部門を持つ両備グループの取り組みが,同グループ代表兼CEO小嶋氏の軽妙な語り口で紹介された.「真心からの思いやり」を意味するという「忠恕」をグループの経営理念として掲げ,地域公共交通と不動産業を通した「まちづくり・地域づくり」に取り組んでいるが,意外にも「忠恕」という言葉そのものを理念に掲げたのは小嶋氏が代表になった後,しばらくの時間が経ってからとのことであった.しかし,事業がうまくいかない時に社員数を減らすのではなく社員の仕事を作ることが自分の仕事であるとしてグループの事業範囲を広げ,現在50社にまでなったというエピソードや,廃線の危機を迎えた和歌山鐵道の再生を頼まれて断りきれず引き受け,有名な「たま駅長」誕生にまで繋がったいくつかのエピソードなど,講演の中に挟まれた様々なエピソードはまさに「忠恕」の精神を軸とした経営から生まれたものであり,感心させられるものばかりであった.また,「経営には思いやりが大切」というような単純な精神論ではなく,「思いやりとはお金に換え難い心の働きであり,これが含まれていることが価値そのものであり,この価値をサービスでどう創造するのかが大切である」という考え方が示された.また,今後現在の40%以上の仕事がロボットに代行されていくという時代に,まだまだロボットには難しい「思いやりを尽くす,先を考えて行動する」という行動規範をビジネスに率先してとりいれていく「サービス化」が重要となるという考えも示された.これらの考え方は今後サービス研究に取り組んでいくにあたり重要な心構えを示していただいたように感じた.

2.5 2日目午前:口頭発表セッション3

2日目の最初のスロットは「サービスと価値共創」(4件),「製造業のサービス化」スペシャルセッション(4件),「サービスモデリング・設計1」(4件)の3セッションで計12件の口頭発表が行われた.著者は「製造業のサービス化」のスペシャルセッションに参加した.本セッションはSIGメンバーを中心にオーガナイズされており,サービス化研究の現状について見通しよく情報を収集することができた.製造業がサービス化するに至るプロセスを成功事例分析により類型化し,その類型間の状態遷移のための取り組みとしてR&DやCRMを位置付ける研究(三浦他 2017)や,収益源とリソース配分を通したサービス化戦略立案に向けたICT事業におけるサービス事業の分類研究(沼田他 2017),30社の事例に基づいてサービス化戦略とマーケティング戦略の構成要素7Pとの対応づけを行い,マトリックス分析によりサービス化の阻害要因を抽出するモデルの研究(朴,戸谷 2017),価値共創の因子とサービス化の段階との関係をアンケート調査結果の分析を通して示した研究 (戸谷他 2017)について発表とディスカッションが行われた.議論の焦点がより絞られたスペシャルセッションは,その分野動向を整理して把握できるという点で大変勉強になるセッションであった.

2.6 2日目午前:出版委員会セッション

この特別セッションでは,学会論文誌への投稿や採択に関する状況や今後の方向性に関するサービス学会出版委員会からの報告と,大会前日に行われたサービソロジーワークショップの活動報告が行われた.

出版委員会からの報告では,論文誌への採択率が低くなっている状況について説明があり,現在の「サービス学」としての問題設定不足が課題であるとされた.また,サービス学研究と認められる研究テーマの例示があり,投稿論文においては著者によってサービス学におけるポジショニングを明確にすることが求められることなどが示唆された.関連して会場からは「学会の黎明期において他学会との差別化によるアイデンティティの確立と論文誌の品質の担保への取り組みとして出版委員会の方針について理解ができる一方で,あまりに厳格な分類や投稿ルールの適用は学生や若手研究者の学会への参入障壁を高めてしまうリスクがあるのではないか」との指摘もあった.サービス学会らしく,社会や会員と学会との価値共創の一端を担う仕組みとして論文誌が運営されていくことを一会員としても期待している.

2.7 企業講演:「共創を通した社会課題の解決」

世界人口の増加に伴うエネルギー消費の増加,都市化の進行とインフラ不足などの7つの社会的課題を,顧客・パートナー企業との価値共創とICTにより解決するという取り組みについて,本大会の協賛企業であるNEC執行役員の橋谷氏が講演した.7つの社会的課題として,地球との共生,安全・安心な都市・行政基盤,安全・効率的なライフライン,豊かな社会を支える情報通信,産業とICTの新しい結合,枠を超えた多様な働き方,QOLを列挙し,個々の課題に対してIoTを活用した具体的取り組み例が豊富に紹介された.また,人間の知覚処理においてAIを活用することで人との協調を試みソリューションの価値を増幅することを目指した価値共創プログラムや,交換価値・使用価値・文脈価値(意思決定支援)の共創を目指すビジョンが示された.

2.8 ポスター発表

ポスターセッションでは28件のポスターが並んだ.90分のセッションの前半と後半で半分ずつ説明員のコアタイムが設定され,発表者によるポスター前の混雑を避ける工夫がなされていた.また,会場入り口において任意のポスターに「見た」ことを意思表示するための足跡用と,ベストポスターの投票用のバーコード付きシールが配布された.参加者が実際に「見た」もしくは「説明を受けた」ポスターの横に足跡シールを貼ることで,どのポスターを見たのか,その上で足跡シールと紐付けられた投票シールで投票することによって,どのポスターに投票したのかがわかるような仕組みが構築されていた.90分のポスターセッションの時間のうち,1人当たり何件程度のポスターを実際に見ることができるのか,投票者がじっくり説明を聞くタイプなのかさっと見て回るタイプなのかの分類もできそうな仕組みで,どのように活用されていくのか今後が楽しみなシステムである.一方で,紙や会場の説明担当者により充分な教示情報が得られる状況であったにもかかわらず,投票用のシールをポスター横に貼り付けている参加者も見られた.投票用のシールと足跡用のシールを混同しているのか,そのポスターに賞を与えたいという意図で投票場所を間違えたのか,の両者の区別が難しいことが想像できる.今後は両者を区別しなくても良い仕組みにするなど,よりユーザーフレンドリーな投票システムへの改善も期待される.

図1 ポスターセッションの様子

2.9 2日目午後:口頭発表セッション4

最後の口頭発表セッションでは「サービス品質・評価」(4件),「製造業のサービス化」スペシャルセッションの後半(4件),「サービスモデリング・設計2」(3件)の3セッション,計11件の口頭発表が行われた.著者は「サービス品質・評価」のセッションに参加した.本セッションでは,レンタルショップでの体感滞在時間と実滞在時間の比をベースに一般的な体感時間や顧客属性に応じた不満度をモデル化してアンケートと対応づけて不満要因を分析する研究(橋本他 2017),ヘルスツーリズムにおける顧客の価値観を定性調査により抽出する研究(高橋,戸谷 2017),人工知能技術を用いた知的財産の評価システムが実務においてどのように活用されるかを調査した研究(白坂,神田 2017),現場を記録した動画からの行動ラベリングとラベリング結果の可視化に基づく現場改善に関する研究(桑原,谷崎 2017)が報告された.いずれも実地における調査や検証に基づく研究であり,その実用性の高さや将来性を感じることができる研究報告であった.

2.10 懇親会

懇親会は会議初日のセッション終了後に立食形式で開催された.和やかな雰囲気の中,参加者が一堂に会して,各賞の授賞式などが執り行われた.地元の料理と地酒が振る舞われ,主催者側のホスピタリティを存分に感じることができる懇親会となった.

図2 懇親会の様子

3. おわりに

本稿では一参加者の視点から第5回国内大会への参加報告を行った.日本国内における多様なサービス研究者が一堂に会し,コミュニティを広げ,価値共創を行う場として今後も国内大会がますます発展していくことを期待している.第6回国内大会は2018年3月10日,11日の2日間,明治大学(東京)で開催される予定である.

最後になったが,この素晴らしい第5回国内大会を準備・運営していただいた近畿大学の谷崎実行委員長をはじめとする実行委員の皆様に謝意を表して本稿を締めくくりたい.

著者紹介

  • 大隈 隆史

産業技術総合研究所人間情報研究部門主任研究員.Virtual Reality, Augmented Reality, サービス工学分野の研究に従事. VR/AR技術を活用した人間行動の計測や可視化に取り組む.博士(工学).

参考文献
  •   Tantawichien, J., Mizuyama, H., and Nonaka, T. (2017). Prediction Model for Movie Production: A Combination Approach of Mathematics and Game.サービス学会第5回国内大会講演論文集, 196-199.
  •   赤坂文弥,城間祐輝,中村和成,大森久美子 (2017).現場理解に基づく反復型のビジネスプロセス・リデザイン.サービス学会第5回国内大会講演論文集,21-28.
  •   栄留豊,嶋田敏,山本祐輔,碓井誠,原良憲 (2017). 地域包括ケアシステムの事例分析とその拡大推進に向けたモデル化 -けいじゅヘルスケアシステム-.サービス学会第5回国内大会講演論文集,13-20.
  •   大隈隆史,一刈良介,武田裕司,岩木直,橋本尚久,蔵田武志 (2017). Virtual Human-Sensingの提案.サービス学会第5回国内大会講演論文集,200-202.
  •   桑原良弘,谷崎隆士 (2017).工学的アプローチを用いたサービス作業の改善点抽出と生産性向上.サービス学会第5回国内大会講演論文集,91-95.
  •   白坂一,神田陽治 (2017).人工知能技術を搭載した知的財産価値評価に関する研究.サービス学会第5回国内大会講演論文集,86-90.
  •   髙橋伸佳,戸谷圭子 (2017).ヘルスツーリズムにおけるサービス品質構成要素の研究.サービス学会第5回国内大会講演論文集,80-85.
  •   戸谷圭子,持丸正明,渡辺健太郎,丹野愼太郎 (2017).FKE価値共創モデルに基づく製造業のサービス化パターンモデルの評価 −中小製造業を対象に−.サービス学会第5回国内大会講演論文集,162-166.
  •   董又碩,潘鴻,佐々木真弓 (2017).保育現場と保護者を繋ぐクラウド型電子連絡帳サービス.サービス学会第5回国内大会講演論文集,1-8.
  •   沼田絵梨子,細野繁,折戸昌子,畔田秀信 (2017).ICT領域におけるサービス事業分類の定義.サービス学会第5回国内大会講演論文集,153-156.
  •   朴範玉,戸谷圭子 (2017).製造業サービス化の阻害要因分析モデルの検討.サービス学会第5回国内大会講演論文集,157-161.
  •   橋本健一,水山元,野中朋美 (2017).レンタルショップにおけるCS評価モデルの提案.サービス学会第5回国内大会講演論文集,78-79.
  •   福島稜,立岡宏治,原辰徳,太田順,津坂有紀,有満也人 (2017).客室乗務員の「気づき」に関わる認知過程の分析.サービス学会第5回国内大会講演論文集,203-208.
  •   福田賢一郎,中島正人,三輪洋靖,西村拓一 (2017).介護施設における主観情報の共有によるサービスインテリジェンスの倍化を目指して.サービス学会第5回国内大会講演論文集,209-211.
  •   三浦玉緒 (2017).製造企業のサービス化における類型化の試み.サービス学会第5回国内大会講演論文集,147-152.
  •   三川史家,谷崎隆士,藤井信忠,新村猛 (2017).人とロボットの混在職場における CS,ES,MSの向上を目指した勤務計画の作成.サービス学会第5回国内大会講演論文集,9-12.
 
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