2017 年 4 巻 2 号 p. 54-57
サービス学会では2014年以降,国内大会の前日に合宿形式のグランドチャレンジワークショップを開催してきた.2017年の広島大会の前日にあたる3月27日には,グランドチャレンジのテーマに限らず,サービス学の理念,活動領域,対外活動・連携について集中的に討議するワークショップ(以下,WS)を宮島にて開催した.本イベントは理事会が主催し,筆者らの所掌である企画総務委員会がアレンジを担当した.
図1の集合写真に示すように,参加者は24名であり,うち6名が企業からの参加であった.本WSでは開始直後から3グループにわかれて個別に討論を進めた.良いアイデアが浮かばない時に厳島神社へと神頼みに行くなど,開催地ならではの雰囲気で進んでいった.その後,中途の報告会を実施し,参加者全員での共有と横断的な議論を行った.WSは同日22時頃に終了したが,グループによっては深夜まで引き続き討論が行われていたようである.
今回3つのグループが討議したテーマは,かねてより国内大会・国際会議,あるいは理事会・出版委員会などでも討議されてきた普遍的なものである.今回,これまでとは異なる環境と参加者間で集中的に討議することを通じて,各テーマの認識を新たにした他,今後につながる成果が得られたと感じている.
国内大会2日目には,出版委員会セッションの一部を利用し,大会参加者向けにWSの開催報告を行った.以下,グループごとのテーマ,討議内容,および成果を順に述べていく.これらは今後,学会のSIG(Special Interest Group)を1つの接点として,学会員の皆様と関わってくる可能性があると理解されたい.
第1グループでは,サービソロジーとは何かに関して議論し,議論の結果を以下の4つの提言にまとめた.メンバーは,村上輝康(産業戦略研究所),貝原俊也(神戸大学),平井千秋(日立製作所),平田貞代(芝浦工業大学),嶋田敏(京都大学),Ho Q. Bach(JAIST),小坂満隆(JAIST)の各氏である.
第5期科学技術基本計画などで,超スマート社会におけるサービスプラットフォームが議論され,サービソロジーは社会全体をとらえる広い概念をあつかうことが必要とされている.こうした背景から,サービス学会として以下の3つに取り組む必要がある.
サービソロジーの対象とする超スマート社会に対して,JSTの社会技術研究開発センター(RISTEX)のサービス科学プログラムで作成したサービス価値共創フレームワーク(村上他 2017)を拡張し,SIGを提案する.これは,図2に示すように,第3層の社会レベルの課題を,第2層のサービス価値共創フレームワークでとらえ,第1層の具体的な分野における研究開発プロジェクトに展開するという3階層のサービス社会システムである.
サービス学会の活動,具体的には学会発表や論文発表に対して,体系化されたタグを付与し,リポジトリー管理ができるようにして,サービス学会の活動実態が把握できるようにする(図3).このために,サービソロジーに対する適切なタグの設定に専門的に取り組む委員会を立ち上げる必要がある.
サービソロジー,サービスイノベーションは未来を創っていく学問である.未来志向のサービスイノベーション研究を学会として顕在化させるべきである.このためには,以下のような取り組みが必要である.
第2グループでは,サービス学会の活動領域について議論した.図4に示すように広範な議論がなされたが,最終的には具体的なフィールドを決めて3つのSIGを提案した.メンバーは,新井民夫(芝浦工大学),斎藤敏一(ルネサンス),白肌邦生(JAIST),波田野創(マキテック),原良憲(京都大学),増田央(JAIST),大隅隆史(産総研),山本昭二(関西学院大学),佐藤美和子(NEC)の各氏である.
スマートフォンやネットの利用が当たり前の現代では,例えば,家庭の主婦が空いている時間に家事スキルを提供できるようになった.この家事代行サービスに代表される,人間社会に断片化している見えにくいリソースを用いるのがシェアリング・サービスである.シェアリングエコノミーでは,需要と供給のマッチング,三方良しが四方良しとなる持続的かつ発展的な仕組みづくり,集めたリソースの質や信頼性を評価できるプラットフォーム構築など多くの検討項目があり,SIGとして議論したい.
サービスを提供する企業には,多様なコンピテンスを持つ従業員が存在する.人を含むシステムとしてサービスを設計・実行するにあたり,多様な顧客のコンピテンス・ニーズに合わせて,提供側も多様な従業員のコンピテンスを組み合わせてチーム編成を行い,またプロセスも複数から選択してマッチングするようなサービスシステムの構築ができないかを考える.従業員が能力を発揮でき,働き方改革へつながるシステムを,SIGとして議論したい.
サービスに関わるウェルビーイングとしての価値の整理と,ITによるその促進について考える.追究したい問いの例は以下の通り.
以上の内容をSIGとして議論していきたい.
2.3 サービス学会の活動方法と発展戦略第3グループでは,サービス学会の活動方法と発展戦略を議論し,議論の結果を産官学向けの3つにまとめた.メンバーは,神田陽治(JAIST),細野繁(NEC),山本吉伸(産総研),長岡晴子(日立製作所),丹野慎太郎(産総研),西野成昭(東京大学),木見田康治(首都大学東京),原辰徳(東京大学)の各氏である.学会の立ち上げ期にあたるこれまでは学術界向けの学会活動が多かったが,今後の発展戦略を考えていく上では,図5に示すように,産と官との連携をより意識したサービスのリデザインが必要である.本WSでは,その取りかかりとして,ステークホルダーマップなどを描きながら,それぞれのニーズを分析していった.
経営層から「サービス学とは何であり,ビジネスに直結する成果につながるのか」「サービス学で生まれた事例・実績は何があるのか」と問いかけられることが多いが,現時点ではこれらに対して明確な答えを出せていないのでは,との意見が企業参加者から出された.
事業部門は,グローバルを見据えた標準化等の動向,社会人学生の教育を期待する.その他,特に対事業所サービスを手がける企業として,ユーザーとなる顧客企業の最新/将来のニーズを知る場としてサービス学会に期待している,との発言が企業参加者からあった.
研究部門にとっては研究テーマの成果発表,最新動向の情報収集,人的ネットワークづくりに加えて,優秀な学生・人材確保の期待がある.また中小企業にとっては,自社活動の発信によるプレゼンス向上やお墨付きの便益がある,などの意見が寄せられた.
今回は官の立場に身を置く参加者はいなかったため,官との接点が多いメンバー(他グループのメンバーを含む)からの経験を交えて議論がされた.官の機能としては法制度,標準化,補助金,規制緩和,認証などがあり,官から学術界への要望として,それら施策の理論的根拠,中立的意見が挙げられる.また,学としての成熟,サービス産業を支える人材の育成なども当然ある.一方で,学術界から官へのニーズとしては,研究資金準備の他,大学改革での連動が挙げられる.日本学術会議において現在策定が進められているサービス学の参照基準は,この一環にあたるであろう.
また,学会と官との協働をより現実的なものにするためには,例えば学会の1事業として,官庁の課長・課長補佐クラスを招き問題意識を語ってもらうセミナーを開催してはどうか,とのアイデアが参加者の経験と共に語られ,可能性が感じられた.
教授クラスは,新しい教育・研究フィールドの確立,研究者養成機能(ポスドク人材などを含む)などの役割を学会に対し求めるとともに,一緒に進めている.
これに対して若手研究者にとっては,自身を中心に据えた研究活動の場であり,若手主体のSIG活動,受託研究費の獲得に向けた学会活動との連動,人的ネットワークづくり(雇用ポストの情報を含む)などを求める.なお,WSの若手参加者からは,教授クラスの研究者に対して,研究論文・ポジションペーパーの積極的な執筆などを通じて,対外的な広報と啓発に努めて欲しいとの具体的な要望が出された.
また,大学院生の存在も重要である.学会は彼らへの国内大会・国際会議での発表機会,近しい問題意識の仲間との出会い,就職機会などを提供する役割を果たしている.今後の学会サービスとして,学生向け表彰をより増やし奨励する他,ジョブフェアなどの試みが有効ではないかとの意見が出された.ただ,一口に大学院生といっても,人文社会学系,理工学系ではキャリア形成の文化も違い,ニーズや必要とされるサービスも異なる.また,研究に重点を置く大学ばかりではなく,学部生や社会人学生の存在も欠かせない.そのため,サービス産業への人材供給,経営人材育成,社会人教育等の視点も踏まえた学会サービスのデザインの検討が引き続き必要であろう.
本稿ではサービソロジーWSでの討議内容とその成果について報告した.今回の報告に留まることなく,次回以降および今後の学会活動につなげていきたい.
東京大学 人工物工学研究センター 准教授.東京大学 博士(工学) (2009).サービス工学,製品サービスシステム,観光情報サービス,接客サービスなどの研究に従事.サービス学会理事.
北陸先端科学技術大学院大学 知識科学系教授.サービスイノベーションの研究・教育活動に従事.サービス学会理事他,学会活動に従事.京都大学工学博士 (1984)
日本電気株式会社 サービス・テクノロジー本部長.北陸先端科学技術大学院大学知識科学研究科博士前期課程在籍.サービス学会理事.