2017 年 4 巻 3 号 p. 12-17
小売業の販売額を昭和55年から平成27年までで確認すると,販売額に多少上下変動は確認できるものの,平成以降の販売額は頭打ちの状況にある.ここで小売経営に影響を及ぼす度合いが高いと考える経営環境を概観する.
総人口の減少と単身世帯の増加及び,総人口全体の高年齢化に伴い,小売業にとっては主要顧客である一般消費者における購買行動の変化への適応力の向上の必要性が高まっている.また,流通業のIT活用の高度化と物流技術の発達に伴い,消費者は何時でも何処でも買物が可能となる購買環境が整備されつつあると理解している.それらを前提に近年では,消費者の購買行動の変化の特徴として,消費者の店頭では商品確認をし,ネットでの購買をするという購買行動がショールーミング化と指摘されており,それら消費者を囲い込む方策として,オムニチャネル対応などが散見される状況にある.
小売業各社は,消費者市場の拡大が困難な中で,顧客のニーズを如何に適応し,既存顧客を如何に保持し新規顧客を如何に開拓するかが,重要な経営課題となっている.なかでも,既存顧客の保持は小売経営にとっての基盤と言えることもあり,市場範囲を拡大する重要性よりも市場を深掘りすることの重要性が高いと理解できる.それには,小売業の一方的な価値提供のみでの適応は困難であり,店頭を介した既存顧客との価値共創マーケティングの展開の有効性が高いと考えられる.
そこで本論では,業績好調な小売業における消費者との価値共創への取り組みの実態を整理することで,価値共創マーケティングの理論構築に少しでも貢献することに資することを主たるねらいとし,取り組みの実態に焦点を絞って論じたい.
2000年代から価値共創に関する論点は,企業が提供する価値に対して,顧客が独自に判断する価値とその価値を共創すること,つまり顧客が価値を判断する主体であると捉えたものになってきている.価値共創の議論を展開する理論的基盤となるS-Dロジック(Vargo and Lusch 2004)とサービス・ロジック(Service Logic,以下,Sロジック)(Grönroos 2006;Grönroos and Voima 2013)では,グッズではなくサービスがその中心的な概念と位置づけ,企業と顧客との間における相互作用が強調されている.その意味では,価値共創議論の本質は,グッズを中心とする視点をサービスに転換することであると言える.村松 (2015)は,価値共創での顧客との接点の重要性を指摘している(村松 2015).
小売業に焦点を当てると,高橋(2004)は「サービスの生産と消費は不可分であるため,小売業者の生産性は顧客の参加による相互依存関係の中で達成されるという特徴を持つ」としている(高橋 2004).小売業は店頭において顧客と接する折に,グッズとサービスを同時に提供していることを考慮すると,小売業のマーケティング研究は,サービス研究を前提としていると理解すべきと言える.これらの視点によれば,顧客との価値共創の展開の可能性は,メーカーに比して直接顧客と接する小売業とサービス業の方が,より高いと理解できる(Lusch et al. 2008; 村松 他 2015).
以上を踏まえ,本論では店頭で顧客と接しながら多様な相互作用を展開している小売業に注目し,価値共創マーケティングの視点から,小売業が展開するマーケティングを検討することで,発展段階と言える価値共創の議論に実践的な貢献をもたらすことをねらいとしたい.このねらいのために,価値共創に関する先行研究を踏まえ,小売店頭における価値共創の実態を,ドラッグストアと量販小売業を対象に事例研究を行うことで,具体的な価値共創マーケティングの実態を分析する.これらより,価値共創に関して議論することで,小売マーケティング理論の発展に新たな知見を付与できると理解できる.
なお,小売業の価値共創に関して検討する上での研究課題として,如何なる文脈の中でグッズを消費しているかを理解することが重要である.そこで,顧客の来店のねらいを店頭での相互作用を焦点として,企業の価値共創事例考察のフレームワークの設定に当たっては,(村松 他 2011)を基にして展開したい.
ドラッグストア業界は,近年,競合関係が厳しくなっている(本藤2007).その中で,サンキュードラッグ(以下S社と言う)の売上高は,既存店舗の売上高が前年比プラスを実現している数少ないドラッグストアである.店頭で消費者との相互作用の成果であると理解できる.そこで,S社のマーケティング戦略に関して,消費者との店頭での相互作用に焦点を当て,如何にして消費者から高い支持を受けているのかを価値共創の視点から,その実態を分析する.
同社の事例を分析するにあたっては,筆者が主催していた中間流通研究会に,同社社長を3度の招聘(2012年,2013年と2015年)講演,及び同社主催の潜在需要開拓研究会を聴講(2014年)した.それに加え,同社マーケティング部門課長の中間流通研究会とセミナー(2014年,2015年)での講演,店舗訪問とヒアリング調査(2015年)の内容を基にしている.
3.1 S社の販売実績データ分析による顧客との相互作用北九州拠点のS社は,狭小商圏を前提としたビジネスモデルを展開し,店舗数の増加以上に高い売上高*1の伸びを実現している.その意味では,顧客数拡大ではなく狭小商圏内の限定された顧客を対象とした市場深耕策により,売上拡大を図ることを実現できている数少ない小売業である.
同社が狭小商圏を前提としたビジネスモデルを展開する方策として,販売実績データから,顧客の購買行動の背景を理解する場として,仕入先(メーカーと卸売業)と共同で「潜在需要開拓研究会*2」を推進している.そこでは,同社のID-POSを仕入れ先に提供し消費者価値を高める場として同研究会を運営し,販売実績データを分析し,消費者購買行動の背景を読み解くことをねらいとして,仕入れ先企業との連携化により検討の場を推進している.つまり,市場拡大ではなく,市場を深掘りすることが必要となるために,S社が顧客価値の最大化を図るために,商品の価値提供に長けている製造業者と卸売業者のノウハウを活用することによって,店頭で消費者の文脈価値を高める機会を提供する取り組みに関して確認する.
なお,同社の消費者価値を高めるための基本方針として①半径500 メートル商圏,②ドミナント出店,③調剤併設店舗展開を徹底している.
3.2 顧客に隠れ鉄欠乏性貧血の認知と改善薬を訴求し価値認識を促進した事例聖路加国際病院の岡田定医師の研究によると,わが国では,食生活の変化や婦人科疾患の増加に伴い隠れ鉄欠乏性貧血の女性は1千万人*3に達し,国民的の問題と指摘している.隠れ鉄欠乏性貧血の改善薬は貧血に対して改善効果があるものの,胃内で溶解するので結果として鉄分が胃を荒らし易いものである.
これに対して,「ファイチ」という鉄欠乏性貧血改善薬は,糖衣錠にすることにより腸で溶ける工夫をした結果,「胃を荒らさない」ことを訴求ポイントとして開発された.「胃を荒らさない」というメッセージは,隠れ鉄欠乏性貧血改善薬を利用し胃が荒れて困っている方・困った経験がある方には,その価値を理解できる.しかし,自覚症状がない方や隠れ鉄欠乏性貧血改善薬を知らない方には,訴求ポイントが意味をなさず,隠れ鉄欠乏性貧血改善薬の売場を認識さえしない.
そこで,S社は潜在需要開拓研究会でのメーカー・卸などと連携化することで,顧客の購買行動を分析し,自らが隠れ鉄欠乏性貧血とは意識していない人や,薄々気づいているが積極的に治癒したいと行動しない方々に,商品の価値を理解してもらうことが隠れ鉄欠乏性貧血の改善に有効と考えた.S社はこれらの人たちに隠れ鉄欠乏性貧血改善薬の認知を得るために,関連する売場(サプリメント用品,ダイエット用品及び生理用品の各売場)に陳列実験した.実験結果により,販売実績で高い効果のあったのは,生理用品の「多い日用」の売場であることを究明した.そこで「多い日用」の生理用品を買いにきた顧客に,隠れ鉄欠乏性貧血改善薬の価値理解を促進する工夫をした.具体的には,売場にセルフチェック用鏡を設置し「ここが白いと貧血かもしれません」と,下まぶたの下が白いかを鏡でセルフチェックを促すメッセージ付きイラストを掲示することで,貧血の可能性と貧血改善薬の特性を認識できる工夫をした.そのうえで,生理用品売場に,同商品のトライアルサイズを陳列した結果,高い反響があった.次に,トライアル購入者のレシートに,貧血改善薬の効果を高めるためには数か月の服用により高い効果が顕在化するとのメッセージを印字して提供した.その結果,中・大サイズの継続服用サイズ商品の売上高が大幅に増加した.結果として,S社の同商品の売上は対前年比7倍に伸張すると共に,同メーカーがS社の取り組みを全国の他のドラッグストアに横展開した結果,同商品のカテゴリー内5位のシェアが,トップシェアになり,同年の貧血改善薬全体の売上高が2 割増加するという成果が得られた.
これらの取り組みを確認すると,①日本の女性に多い隠れ鉄欠乏性貧血をデータで確認し,②実情として当事者の認識が弱いことをS社の販売実績データで確認し,③S社主催の潜在需要開拓研究会店頭で隠れ鉄欠乏性貧血の可能性を簡易に確認する方策を提供することで,④隠れ鉄欠乏性貧血対応薬で発生し易い対策薬及び,数か月の服用が効果的である情報を提供した.⑤それらの状況提供に対して,理解を示した顧客が多く,⑥まさに,S社店頭における消費者との価値共創の実現化と理解できる.
3.3 店頭で顧客に理解し易い情報提供により再購買の価値認識を高めた事例加齢と共に体の不調に効果的とされる漢方薬に,八味地黄丸がある.商品の訴求ポイントは多様であるが,高齢者が増加する中で顧客にその価値を十分伝達する方策の検討の必要性が認識されていた.そこで,潜在需要開拓研究会において,商品の消費者理解促進に向け,異なる2種類のメッセージで,顧客理解の促進によるリピート購入率に関して,仮説確認の店頭実験を行った.第1に,店頭において頻尿(夜間頻尿も含む)や排尿困難といった症状に焦点を当て「おしっこの悩みは,漢方薬の根本治療が効果的です」とメッセージ掲示した.第2に,疲れ目,腰痛,白髪などの加齢に伴う複数の症状を一括して訴求するものとして「年だからとあきらめていませんか?」とメッセージを掲示した.
これら2 種類のメッセージの掲示の店舗実験の結果は下記のようであった.第1 の店舗は,同商品のリピート率が,実験前の30.5% から39.9%へ9.4ポイント上昇し,第2 の店舗のそれは,実験前の28.7%から28.9%へ0.2 ポイント上昇した.
上記の第1 のタイプメッセージは,効果を実感させやすい訴求になっていたと推察されることから,顧客へ商品情報を提供するには,顧客が有効であると理解しやすい情報の提供が必要であることが,確認できる.これらの実験結果から,商品情報の内容で購買度合いが異なるのは,初期購買には「効果の期待」を顧客が認知できることが,顧客との相互作用に有効であること,再購買には「効果の実感」が相互作用としての有効性が高いことが,当該研究会の店頭実験により明らかになったと言う.これらの取り組みを確認すると,①加齢の進んだ方に購買されている商品が,②高齢化が進展する中で,多くの方々に効果を理解していただくために,③S社主催の潜在需要開拓研究会での仮説を店頭で確認することで,④顧客とのより効果的な相互作用の在り方を確認した.⑤それらの状況提供に対して,再購買には効果の実感を理解頂くことが有効である顧客が多いことが確認できた.⑥まさに,S社店頭における消費者との相互作用による価値共創の実現化と理解できる.
3.4 同時使用商品の同時購買可能性を高めた訴求方法により店頭価値を高めた事例S社の多くの会員は,同社で生活必需品を購入している割合が高いことが,販売データから確認できている.しかし,潜在需要開拓研究会で,ヘアケアカテゴリーの購買データを分析すると,シャンプーを全く購入していない顧客が多数存在したことが確認できた.
そこで,ID-POSデータの分析から,S社でシャンプーを全く購入していない会員は,60 歳代以上層が特に多かったこともあり,同研究会においてその理由を分析することにした.分析結果から,シャンプー購買者の60 歳代以上顧客の購入ブランドは,特定のブランドに偏っていることが明らかになった.60 歳代以上の顧客に人気の高いブランドは,店舗にとっての利益率が低い商品であることもあり店舗で積極的な販促活動をせず,店舗においても陳列棚の下段の目立たない位置に陳列されていた.結果的に,高齢者には見つけ難い上に,かがまないと商品を手にし辛い位置に人気ブランドが陳列されており,他の店舗で当該ブランドを購入している人が多いと推察された.そこで,当該人気ブランドの陳列位置を高齢者の目につきやすい,シルバーゾーン(ゴールデンゾーンの下段)に,複数フェース陳列に変更したところ,60 歳代以上の顧客のシャンプー購入率が3 倍に急増した.
さらに,ヘアケアの購買データを分析することで,シャンプー購入者のコンディショナー同時購買は53.3%であるが,トリートメントの同時購入は12,5%でしかないことが判明した.この数値は,シャンプーの価格帯により異なり,1,000 円以上のシャンプーは,トリートメント購入率が65%であるのが,500 円以上1,000未満のシャンプーは28.2%,500 円以下のシャンプーは8,6%になっている.また,高価格帯の場合は,シャンプーと同一ブランドのトリートメントの同時購入傾向になるが,低価格シャンプー購入者層は,トリートメント購入ブランドが分散していることが判明した.これらの顧客販売実績から,低価格シャンプーの購入者層は,シャンプーと同一ブランドに拘らないことから,低価格帯のトリートメントを品揃えすることを評価すると推測できる.そこで,各店舗で低価格トリートメントの品揃えを拡大した結果,低価格シャンプーの購入者のトリートメント同時購入率が上昇したと言う.これらの取り組みを確認すると,①生活必需性の高い商品の販売データを確認すると,②セット利用が一般的な商品購買の購買割合が低い事実をS社の販売実績データで確認し,③S社主催の潜在需要開拓研究会で,顧客購買分析から購買行動の類型化をし,④顧客属性に対応した仮説を設定して,商品類型別の品揃えと陳列方法を店頭で展開した.⑤それらの店頭展開の相互作用に反応した顧客が多く,⑥まさに,S社店頭における消費者との価値共創の実現化と理解できる.
3.5 顧客への商品の特性により異なる価値提供に関わる相互作用事例からの示唆ここまで小売店頭における顧客との相互作用による価値共創の実態を,販売実績データを前提に製造・卸売及び小売業との連携化により,商品とサービスの不可分性を前提とした顧客との価値共創の実態を確認した.ここまで確認したS社の取り組みの分析により,顧客の購買実態から店頭での顧客への相互作用に効果のある仮説を想定し,店頭でのメッセージや陳列方法などを工夫して提供することで,顧客との価値共創が展開できた.しかも顧客との価値共創に当たって,顧客の商品認知度や利用度によっても異なることが明らかになった.それは,消費者の認知を得ることで初期購入を促すのに効果的な場合や,顧客の購買経験が無い商品に対する購買意欲の喚起には,自覚症状や潜在的欲求に対して認知され易い情報提供が必要性になる.ファイチの展開事例は「多い日用」の生理用品の購買時に,下まぶたの裏の色を簡単に確認することで,貧血の可能性に自ら気づく機会を提供している.その一方で,購買経験がある顧客に再購買を促すには,商品の良さの再認識に加え効果を実感してもらうことが有効になる.ドラッグストアの扱う商品は,即効性の高さを実感できるものもあるが,継続使用で効果が出てくるものも多い.なかでも後者は,効果を実感するまで顧客の意識に留まることが必要になる.そこで,効果が表れるメカニズムや,改善効果が確認できる兆候などを納得できることが効果的である.
小売業のプライベート・ブランド商品(以下PB商品と言う)は,景気の後退感や小売業の意欲的な取り組みにより,消費者に商品としてその価値を認知されている*4と言える.しかし,ナショナルブランドの製造業者に比して,規模や販売小売業の認知度の差異もあり順調に消費者支持を得ているわけではない.その様な中で,企業業績を改善することに貢献したPB商品があるので,価値共創マーケティングの視点から西友を事例として紹介する.
世界最大の小売業である米国の“Wal-Mart(以下,ウォルマートと言う)”の子会社である量販小売業「西友」は,食料品・日用品などを扱う全国展開型チェーンストアである.
同社は,ウォルマートの子会社になってから業績回復に着手していたものの,その道のりは必ずしも順調ではなかった.しかし,同社のPB商品に対する消費者の評価を数値化して一定以上の評価を得たもののみを「みなさまのお墨付き」としたことで,消費者からの高い支持を得ることに成功したこともあるので,如何なる方策で実現化したかを確認する.
なお,同社の事例を分析するにあたっては,筆者が主催していた中間流通研究会に,同社の越智ディレクターを招聘(2015年)講演頂いたことと,ヒアリング調査をさせていただいたことと同社のHPによる.
ウォルマートのPB商品を販売した当初の西友のPB商品は,必ずしも消費者の高い支持を得ることが出来たわけではない.それが,今日的に消費者からの高い支持を得る契機になったのは「みなさまのお墨付き」と呼称された商品化を契機としているので,以下「みなさまのお墨付き」が店頭に陳列されるステップを確認する.
第1に,開発商品の消費者満足度調査を行うものであるが,ベーシックな商品開発のみならず,時代のトレンドに合わせた商品開発を行っても店頭販売になるわけではない.まず,全国から20歳代~60歳代の主婦の方々を,100名以上の参加で,ブランド名や販売者名に加えパッケージ等を伏せてテスト会場で試食又は,自宅にサンプルを送付して総合的評価を得ている.評価基準は4段階(非常に良い,良い,良くない,全く良くない)で,前2項目合計が70%以上得られた商品のみが店頭販売の対象になる.なお,70%未満の商品は再度商品開発段階に回される.
第2に,製品化に関しては,消費者の支持率が70%を超えて商品化が可能になると,同社の品質管理チームが製造工業の監査を行い,基準に合格した工場のみで生産が許可される.消費者の支持率と基準工場の評定を得て商品化されても,発売後1年~2年程度のサイクルで,再度消費者の満足度調査で支持率が70%を超えることが継続販売の条件になっている.このように,定期的に消費者の評価を得ることで,消費者にとってより良い商品を消費者に提供することを可能にしている.
これらの取り組みを確認すると,①必ずしも十分な消費者支持が得られていないPB商品の現状を理解し,②消費者との相互作用を可能とする方策を模索し,③主婦の方を主体に満足度調査で70%以上のもののみを発売するルールを作り,④それら条件を満たしたものを「みなさまのお墨付き」と呼称して店頭陳列を図った.⑤当然,1度のみの評価に留まらず,一定時間経過後に,満足度調査を実施し,⑥まさに,店頭における消費者との価値共創の実現化と理解できる.
本論では,顧客と直接接している小売業の中でも業績好調な小売業における価値共創の視点から小売店頭で展開する,マーケティングを検討した.
本研究は事例を主体としているものの,価値共創マーケティング研究に対して以下のような点で貢献できたと理解している.小売業の価値共創に焦点を当て議論することで,価値共創の「場」での,顧客の価値創造プロセスを理解することが出来た.そこでは,商品の消費使用を超えて初期購買と再購買の価値認識を可能とする情報の在り方を理解出来た.
また,小売業のマーケティング行為に対して,商品販売より顧客の価値創造に適合するという選択肢の有効性を明らかにした.加えて,顧客の価値創造を支援する方法として,店頭において顧客との密接なコミュニケーションの展開や商品の消費使用に関わる情報の発信などを提示することが出来た.その折の留意事項として,仕入先との連携化を前提に実績データなどの事実に依拠することで,店頭での価値提案が顧客との価値共創の起点であることの有効性を提示できた.
本研究は,小売店頭における顧客との相互作用に焦点を絞っているので,今後はより広い視点で価値共創の議論を深めていきたい.
東洋大学経営学部教授,流通政策研究所常務理事,公益財団法人流通経済研究所客員主任研究員,目白大学経営学部教授を経て,現職.日本フードシステム学会副会長,日本卸売学会副会長.