サービソロジー
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一般記事
会議報告: ICServ2017
増田 央
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キーワード: 会議報告, 国際会議, ICServ2017
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2017 年 4 巻 3 号 p. 24-27

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1. はじめに

サービス学会の国際会議であるICServ2017(The 5th International Conference on Serviceology)が2017年7月12日(水)~14日(金)の3日間,オーストリアのウィーン大学で開催された.参加者数は延べ140人で,日本からは70名が参加した.ヨーロッパ・その周辺からの参加者数は,近隣のAustria 18,Germany 10,Slovakia 2,そしてRomaniaとSwitzerland 5,FinlandとItaly 4,Poland,Spain,Swedenが2で,また,Croatia,Czech Republic,Greece,Luxembourg,Liechtenstein,Russiaからの参加があった.アジア・オセアニアからはAustralia 1,Republic of Korea 2,Taiwan 3,Thailand 1で,USAからも3名の参加があった.

ICServ2017はサービス学会の第5回目の国際会議で,その運営委員会はHonorary General Conference Chairとしてサービス学会会長・山本昭二氏,Steering Committee Chairとして前サービス学会会長の新井民夫氏,Program Chairとしてウィーン大学教授のDimitris Karagiannis氏,そして多数のプログラム委員,運営対応におけるOMiLABチーム(http://www.omilab.org/)の協力で構成・実施された.サービス学会は2012年にサービスに対する科学的アプローチの探求と,産業における課題解決のための技術開発促進を目的として設立され,その国際会議が,第1回目(ICServ2013)は東京,第2回目(ICServ2014)は横浜,第3回目(ICServ2015)はサンノゼ・カリフォルニア,第4回目(ICServ2016)は再び東京で開催された.なお,次回のICServ2018は,2018年11月13日~15日,場所は台湾・台中で,International Conference on Service Science and Innovation (ICSSI)との共催で行われる,ということである.

ICServ2017の構成は,口頭論文発表13セッション,ポスターセッション(3室),特別セッション4セッション,キーノート3件,パネル討論1件,ワークショップ1件,チュートリアル1件,である.3件のキーノートの登壇者とそのテーマは,高重吉邦氏(富士通)による“Co-creating a Disruptive Future”,清水美欧氏(NEC)による“Building Trust with Partners for Value Co-Creation in Service Systems”,山内裕氏(京都大学)による“Service as Intersubjective Struggle: A Study of Sushi”であった.

本会議報告では,口頭論文発表・ポスターセッションの概要,3件のキーノート,パネル討論についての報告を行う.

2. 口頭論文発表・ポスターセッション

ICServ2017ではサービスに関わる幅広いトピックの研究発表・議論がなされた.具体的に実施された口頭論文発表セッションのテーマは以下の通りである.

  • - Service Design
  • - Service Management and Operations
  • - Human-Centered Service
  • - Theoretical Perspectives on Service
  • - IoT-based Services
  • - Service Practices
  • - Service Engineering and Technologies
  • - Service Innovation
  • - Value Co-Creation and Context

また,特別セッション(Special Session)として以下が提供・実施された.

  • - Holistic Approach of Service Modelling
  • - Services and Green Economy
  • - Design and Support Technology for Value Co-Creation

そして,そのようなテーマに関連した30件のポスター発表が行われ,発表者と聴衆のフェイスツーフェイスでの活発な議論が行われた.

ICServ2017ベストペーパー賞として,2件の論文が会議最終日のクロージングセッションで発表され,表彰状が授与された.以下がベストペーパー賞を受賞した著者と研究論文である.

  • - Kenju Akai, Keiko Aoki, Kenta Onoshiro, “An Economic Lab Experiment for the Best offer and Approval in Face-to-face Service Interaction Situation”
  • - Nesat Efendioglu, Robert Woitsch, “A Modelling Method for Digital Service Design and Intellectual Property Management towards Industry 4.0: CAxMan Case”.

3. キーノート

3.1 Co-creating a Disruptive Future

まず1番目のキーノートとして,富士通の高重吉邦氏により,デジタル時代における共創(Co-creation)の観点から富士通の取り組みが紹介された.富士通では,どのようにこれからのIT企業が技術を用いて,価値やイノベーションを生み出していくのかについて考察しており,高重氏は,それは閉鎖的なIT企業からよりオープンな企業への転換になるという.この考え方には Human Centric Innovation があり,これは先進技術で人をエンパワーする(力を与える)ことによって,ビジネスや社会のイノベーションを生み出そうとするアプローチである.富士通では2017年において更にDigital co-creation という視点を見出し,共創はデジタル時代においても重要になるという.デジタル時代を迎え,新しいイノベーションやサービスのシステムといった,全く異なった新しいビジネスモデルが求められており,富士通では,これをデジタル・ディスラプション(Digital Disruption)と呼んでいる.富士通が2017年に実施したグローバルデジタル革新調査によると75パーセントのビジネスリーダーは,次の5年間で彼らの業界が抜本的に変化するだろうという結果を示しており,このような動きの中での重要な問いは,将来に対するディスラプティブ・ビジョンは何であるのか,どのような種類の価値を顧客に対して構築・提供できるのかであるとし,高重氏は,デジタル時代においては,専門知識とデジタル技術に基づくデジタル共創が重要になるという.今,私たちはデジタルにつながった新しいエコシステムを経験し始めており,このエコシステムでモビリティや人々の厚生,安全といった価値が共創される.富士通が結論付けたのは,これは産業が拡張された新しいデジタル・アリーナであり,産業はデジタル時代を迎えそのようなタイプの新しいエコシステムに姿を変えるだろうという.富士通はデジタル共創の支援を行い,組織のためにキーとなるデジタル技術を組み合わせてきた.データ収集,データ分析,活用から,最適化のプロセス管理など全てを連結可能とする,40の要素技術が顧客提供前に準備されている.それは,AI,IoT,Cloud,Security等の要素で,それらに基づいた様々なアプリケーションプログラムを提供している.これら全てのデジタル・ケイパビリティは富士通のデジタル・ディスラプティブ・プラットフォームを支えており,そのプラットフォームで外部のパートナー,エコシステムのパートナー同士をつなげる.更に将来的に,様々なデジタル・アリーナ,モビリティやセーフティなどがつながることで,自動化されたインテリジェントなネットワークとして,人々に対して,より大きな経験,より良い生活が提供できる可能性があるという.高重氏は,これをヒューマンセントリックインテリジェント社会と呼び,富士通はより良い世界を実現させるためにそのような共創をする最も良いパートナーとなることを目指しているとのことである.

3.2 Building Trust with Partners for Value Co-Creation in Service Systems

次に2番目のキーノートとして,NECの清水美欧氏により,国際的なICTベンダーが取り扱う標準化の観点からNECの取り組みが紹介された.今の時代は,企業や社会がデジタル・エコノミーに向かうビジネスモデル変革の黎明期であるとし,IoT時代には,収集した実世界の様々なデータをデジタル化し,活用できるようにするDigitization (デジタイゼーション)と,デジタル化したデータを活かしながら社会価値創出やビジネスモデルの変革を実現するDigitalization(デジタライゼーション)が重要な役割を果たすという.しかしながら,清水氏は,そういったデジタル技術だけでは十分に社会価値を創出することはできないとし,ビジネスパートナーとの信頼関係を構築したサービスシステムにおける価値共創が重要な要素となるという.特にICTベンダーは,提供サービスにおける各種の保証をすることでパートナーからの信頼を得ることができるとする.最も重要な要素は価値創出であるが,NECはそれまでのパートナーや顧客との取り組みの中から,信頼関係を構築するための4つのキーファクターを抽出した.それは,ICTベンダーは常に包括的に,(1) 質と安全性,(2) 情報セキュリティ,(3) 法律と規制に伴うパートナーのコンプライアンス,(4) サービスシステムの監査可能性と透明性,を考慮すべきであるという.このような要素により,パートナーに対して,サービス提供プラットフォームとして堅牢なICTシステムの提供,ICT投資と業務戦略との間の一貫性の保持,利害関係者へのアカウンタビリティの強化,といったビジネスの価値を提供することができるという.NECはパートナーとの価値共創プログラムを実施し,概念実証(PoC)といったその取り組みの中でパートナーとの信頼関係を構築し,新しいサービス開発の支援をするという.社会におけるパートナーの課題を共有することで,その背後にある本質的な問題を再発見する.清水氏は,このようなコンセプトを実現させるためには,ICTサービスに関わる国際的な標準化と各地域の実践的な標準化を考慮したサービスマネジメントシステムを導入するアプローチが唯一の方法であるとする.NECが提供する標準化の基準は,グローバルなサービス経営に関するものなど,多くの国際標準を参照しているが,これがNECとパートナーとの間のグローバルな共通プロトコルを提供することになる.そのようなサービスマネジメントシステムがパートナーとの信頼関係を構築したICTサービスでの価値共創を実現するという.

3.3 Service as Intersubjective Struggle: A Study of Sushi

最後に,3番目のキーノートとして,京都大学の山内裕氏からサービス研究における新しい理論的視座に関する講演がなされた.それは,サービスとは相互主観的な闘いと同等のものであるという提案で,その相互主観的な闘いとは,サービスに関与する個人が,その自身の主体が形成される過程を経て他者からの認識を得るというものである.サービスは,そのサービス体験のインタラクションの中で,参画する個人が自身を理解しようと探求し相手の中に自身を見出していく過程であり,このような過程の中で,要求が満たされ,問題が解決され,顧客が満足する.サービスにおいて価値が共創される時,客と提供者は完全にサービスに組み込まれており,もはやその主体と客体の分離を前提とすることはできない.山内氏は,サービスを体験し評価するといった過程におけるその主体は事前にあるのではなく,その過程の中で生じるものだという.従って,そのようなサービスの相互主観性を厳密に踏まえて理論を構築する必要がある.それは,サービスのインタラクションにおいて,どのようにそれぞれの人々が,そのお互いの中に自身を表現していくのか,ということである.東京の鮨店での客とサービス提供者とのインタラクションの実証データを用いて,山内氏からこのサービスにおける相互主観的な理論的視座の説明がなされた.高級なサービスなど一部のサービスにおいては,一般的なサービスより,例えば,笑顔や情報,迅速さ,友好さなどの要素が少ない場合がある.喜びよりも,より禁欲的な要素が優先されるようなサービスがある.山内氏は,そういったサービスの視点をどのようにデザインするのかといった問を示し,それに対して,人間中心設計から,人間-脱-中心設計の考えが必要になるだろうという.客のニーズというものは事前に固定化することはできず,サービスとはインタラクションを通してそのような主体自身が構成される過程であるとし,そのような観点から,全てのサービスは闘いの行為である,とする.

4. パネル討論

“The Meaning of Service in the Age of Digital Transformation”というタイトルでパネル討論が実施された.パネリストは前サービス学会会長・新井民夫氏,京都大学の原良憲氏,LafargeHolcimのKhushun Irani氏,ATOSのAljosa Pasic氏,HiltyのMartin Petry氏,モデレーターとしてウィーン大学のDimitris Karagiannis氏が登壇した.

パネリストには事前に6つの質問が提示され,その質問に沿った議論がなされた.ここではその質問に関する主要な意見を紹介する.

質問1は,製品/サービスのライフサイクルの中で,製品のカスタマイゼーションやサービスの個別化が追求されているが,これらは整合するのか,またデジタル化がどのようにそれらを助けるのかであり,原氏は製品を交換するようなサプライチェーンのみにフォーカスするのではなく,サービスを消費するディマンドチェーンまで含めてフォーカスする必要性を述べ,デジタル化はそのような統合を滑らかにするという.Irani氏はデジタル化はまず顧客接点の入り口になるという.Pasic氏は,デジタル化でデリバリースピードが考慮されるようになっているが,更にデジタルサービスのユーザーや顧客から得られるフィードバックがより産業を良くする.それは,デジタル化によりコンスタントにフィードバックが得られるようになり,個別化やカスタマイゼーションのエラーを減らすことができるからとのことである.

質問2は,顧客側が生産活動に関与するようになる際に,人やロボットへサービス知識や能力をどう伝達するのか,というもので,新井氏は,ロボットのエージェントが扱うことが困難な点として,感情的な価値や新しい製品/サービス,セキュリティの仕様といった点があるという.原氏はサービスはアウトソーシングする方が良い場合がある.ただ例外的なケースとしてレジャーや楽しみのためのサービスにはアウトソーシングは適さないとし,Pasic氏は,サービス知識は他の技術の知識と大きく異なる,それらを分けて考えた方が良いということである.

質問3は,デジタル社会に向けて求められる新しい経済モデルについてで,原氏は,ロングテールやジップの法則といった冪乗則,また,スモールワールドネットワークといった概念が提言されているが,より連結が進むサービスにおいても,そのような冪乗則の経済モデルが必要になるという.Pasic氏は多くの大企業がデータシールドを構築しており,ヨーロッパではデータの取り扱い・保護のレギュレーションを進めている.将来的にグーグルやアマゾンのようなプラットフォームに対してどのようなレギュレーションやポリシーが必要になるのかは分からない,という.

質問4は,デジタル企業のための新しいビジネスモデルはどのようなものか,というもので,原氏は,ビジネスをプラットフォームで進める必要があり,その時,両面市場や多面市場のマーケットが,そのビジネスモデルの基礎になるという.Irani氏は,ここ5年間のセメント産業において,デジタル技術が導入されたことで,ビジネスモデルが変化しているという.顧客はセメントを店に買いに来るだけでなく,付加的なサービスを欲するようになった.デジタル化でセメント産業においてもデリバリーサービスのような時間を考慮したサービスが必要になっている.また顧客が配送状況を確認する,コンサル的な内容を求めるなど,顧客ニーズ自体が変わっているという.Pasic氏は,大企業は彼らのビジネスプラットフォームを変換しようとしており,そのようなプラットフォームではアプリケーションでデータを集め,多くのサービスを提供する,自動車産業においてプラットフォームで運転状況のデータを集めるようになると交通事故や何か自動車のトラブルを追跡できるようになると考えられるが,そのようなデータに基づくメンテナンスの予測はどのような産業においても生じてくるという.

質問5は,デジタル化のコンテクストの中でサービスのベストプラクティスに関するもので,原氏は,京都において,まいまい京都は経験指向型の旅行ツアーのためのマッチングシステムを提供して,京都に複数回訪れる多くの観光客に小規模グループでの新しい旅行経験提供の支援をしているという.Irani氏は,LafargeHolcimでは配送の状況を追跡しており,このようなデータはビッグデータとして分析を行い,その予測や最適化,また安全,交通事故のポイントを発見する,といった点でうまく働いているという.

質問6は,将来的に人々に対してデジタル化はどのような影響を与えるのか,というもので,新井氏は,デジタル革新におけるサービスの意味として,まずサービスは価値共創であり,デジタル化においても人のインタラクションが重要で,インタラクションのデジタル化での支援は進むが,依然として人間がベースにある.情報処理のスピードではなく,人間の処理や情報の非対称性が関与する.また,サービス提供者や消費者の役割が変換するようなサービス・エコシステムでもあり,そういった中での,サービスの教育が重要になるという.例えば,日本にある,『もったいない』や『おもてなし』,『縁』といった概念の教育が必要になるという.Irani氏は,この5年間でビジネスは大きく変わってきているが,更に次の5年間は極めて重要で,それは,ビジネスにおけるITの活用の変化が影響を与えるだろうという.Pasic氏は,IoTがより大きな変化を成すといい,データの安全性に関して,例えば,より多くの利用者のデータが収集されることになり,そのような点の議論が必要になるという.

5. おわりに

ICServ2017では多数の人々が参加し,サービスに関する活発な議論が展開された.サービスの価値共創の視点に加えて,サービスに関わるデジタル化やエコシステムの構築・運営は,これからの,全産業的な重要課題であり,それらに関連したより多様な価値共創の視点からの多くの実践や一般化が試みられていくと考えられる.次回のICServ2018は2018年11月に台湾で開催されるが,その際には,また更に進展したサービス研究の議論が活発に展開されることが期待される.

著者紹介

  • 増田 央

北陸先端科学技術大学院大学助教.博士(経済学).京都大学大学院修了後,現職.主に,サービスにおけるコンテクストを考慮したデータ取得・管理・評価・活用に着目し,メタモデリング・アプローチを考慮したサービスコミュニケーションベースの構築に関する研究に従事

 
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