2017 年 4 巻 3 号 p. 34-35
今年のFrontiers in Service 2017は,米国New York州 のManhattanにあるFordham University / Gabelli School of Business で,6月22日~25日に開催された.筆者にとって4回目の参加・発表となる今回は,最近温めているService Context のlogical aspect を考えるという理論よりの講演を行ったが,自分の発表を含め様々なテクニカルなサービス研究の議論もさることながら,サービス研究あるいはビジネス研究の課題と方向性に関する米国での最近の動きが理解できたのが大きな収穫であり,4回の参加の中でこのコンファレンスが最も印象に残るものとなった.それは後に述べるPlenary Session #6, #7 から得られたものであり,米国の最近の政権の大きな転換を受けたアカデミックコミュニティの社会における役割の再認識による.
多くの学会がそうであるように,このコンファレンスは一般の投稿発表(Concurrent Session),ポスター発表(Poster Session),招待講演(Plenary Session = Plenary Speech + Panel Discussion)で構成されるが,一般公演はPhD Candidate + Facultyの発表の場,Poster はPhD Candidate のearly stage のものが中心であるようだ.筆者が最初に参加した2007年には,内容はEngineering 系とManagement系から構成され, Awardもそれぞれの領域で受賞されていたが, 今回はほとんどManagement系の内容となっており, いわゆるEngineering 系の内容は姿を消していた (Frontiers in Science 2017 Conference Program 2017) .
初日のDinner はAward の授賞式を兼ねていたが,今回のコンファレンスにおけるBest Practitioner Presentation Award, Best Poster Awardの他に, Journal of Service Research Award, SERVSIG Award, Journal of Service Management Award, Journal of Creative Value Awardなどサービス研究のトップジャーナル等の(昨年度の)論文賞の授賞式も兼ねており,このコンファレンスが該当するアカデミアから如何に評価されているかがわかる.
Plenary Session の講演者は,Prof. A. Parasuraman, Prof. R. Fisk, Prof. R, Rustなどのアカデミック・リーダー以外に, CEO of Sprint, COO of Royal Caribbean Cruise, CMO of ITG, CEO of Fairtrasa, なども名を連ね,このコンファレンスがビジネスリレーションをどのように築いてきたかがわかる.
先に述べた筆者が最も感銘を受けたPlenary Sessions の話に移る.
それらのセッションの1つは"Service That Transforms the World"と呼ばれるもので,3名の講演者から構成されていた.
1人目はMr. Patrick Struebi, Founder and CEO, Fairtrasa International であった.彼はfair trade のビジネスモデルを確立し, ビジネスとしても大きく成功させたfair trade界のカリスマである.個人的な体験に基づくfair trade の重要性に関する話は説得力があり, 以降に続く本セッションの講演の口火を切るのにふさわしいものであった.現地教育とValue Chain の再構築により南米においてバナナの1箱当たりの農家からの購入価格が飛躍的に伸びたことなどが具体的に示された(FAIRTRASA INTERNATIONAL SUSTAINABILITY REPORT 2015).農産物のfair trade の基盤はできつつあるので,次の課題は“Fish Market”であるそうだ.結論として,これからのビジネスは組織のスケールの成長やprofit maximizationを目指すのではなく,solution maximizationを目指すべきであるとし, アカデミアには“How can the academic community help create Systemic Change ?” という難問を提示した.すなわち個々の問題の解決ではなく,そもそも世の中を変えることに貢献できるのか,というのである.
さて,今回最も特筆すべきは本セッション2人目の講演者の Prof. R. Fisk (Texas States University) であろう.彼は大変に興奮しており,タイトルも“Inspired by Fairtrasa” とし,直前のFairtrasaの議論をうける形で,現在のビジネスのあり方,ビジネススクールのあり方を批判的な視点から議論するものであった.すなわち世の中の多くの地球規模の破壊的な問題はservice research によって解決できるはずなのに全くその方向に進んでいない(まったくその通り!と思った(筆者)).我々のやってきたことはhumanよりmoney を先に考えるbusiness people を量産することにすぎなかったのではないか,という自省の上に立ったものであった.そして,近年議論が始まった transformative service research の話に触れ(Ostrom et al. 2010, Andersonl and Orstoml 2015),benefit をどのレベルで考えるかが重要で,その意味からwell-being の向上こそが Service Research の目的でなくてはならないと締めくくった.
前述の参考文献は是非,一読すべき内容であろう.
次に登場した,Prof. Lerzan Aksoy (Associate Dean, Gabelli School of Business, Frodam University; このコンファレンスのco-chair) は自身のSocial Innovation のプロジェクトに触れ,これからのアカデミアの活動は全て(いわゆる文理を問わず)国連の Seventeen Sustainable Development Goals (Seventeen Sustainable Development Goals 2017)と整合性のあるものでなければならいと言う強い提言を行った.
続くPlenary Session で登壇したProf. Roland Rust (University of Maryland) は,"Racial Discrimination in Service." というタイトルで,人種,性,年齢等に関する差別がいかに組織の生産性の低下を生むかという自身の研究を紹介した.(シミュレーションに基づくものであったので,若干,説得力に欠けたが)この講演の中で彼は米国はそもそもimmigration によって成り立っているので,それを否定するような制度も組織もあり得ないと力説し,明示的に現在のトランプ政権の施策を批判した.
ここにおいて日本からの参加者である筆者はやっと気づいた.すなわちこのコミュニティはトランプ政権には批判的なのである.それは,service research の社会的な役割を考えた場合必然なのかもしれない.米国の歴史上何度目かの,いや何十度目かの社会・経済の反省の牽引車としてservice research community は機能を開始しているようである.
このアカデミックコミュニティにとって課題なのは社会的課題やInstitutionalな問題に的を絞った学術活動は多くあるので(政治,法学,経済学を含め) service research として何が新規な役割であるのかを言い当てることであると思われる.Marketing という言葉の持つ意味の大幅な転換ということになるのかもしれない.Q&Aの中で,今までの科学は現象を説明することに主なフォーカスがあり,どのように改善するのか, どのように設計するのかという側面が弱かったという話があったが,このあたり,すなわち社会サービスシステムの設計などにヒントがあるのかもしれない.
ServiceのTransformative な役割の認識, UNESCO’s Seventeen Sustainable Development Goalsの目標の達成を明確に意識した学術活動などは,サービス学会の今後の活動の方向に多くの示唆を与えるものであったが,筆者がそれ以上に強く感じたのは,1つの学術コミュニティとして,独立性,健全性の上に立って,自らの社会的役割を明確に認識し,それを確実に社会に説明することの重要性であった.
コンファレンスのDinnerは,大学とは離れたマリオットのボールルームで行われ,会議後に移動することになった.しかしながら,歩いて20分ほどのこの距離を大型バス6台を連ねて1時間半もかけてマンハッタンの渋滞の中を進むことは正しかったのか.最終日のランチは参加者が半数以上帰路についたため, 用意されたbox lunch の半分は丸ごと破棄されていたがこれでよかったのか.理念と現実の間にはいつも大きなギャップがあるようである.日本のサービス研究コミュニティの活躍の余地もまだまだあるようである.
来年のFrontiers in Service はProf. Fiskのリードのもとに Texas State University で行われるとのことであった.
〔日髙 一義 (東京工業大学)〕